« コメント | トップページ | 9月14日 -食あたり- »

インド外資規制解説その7 -預託証券(Depositary Receipt)-

インドには、20以上の証券取引所が存在しますが、その中でも主な証券取引所は、国立証券取引所(National Stock Exchange(NSE))とボンベイ証券取引所(Bombay Stock Exchange(BSE))の2つの証券取引所となります(所在はいずれもムンバイ(旧ボンベイ)です。)。

NSEにはS&P Nifty 50 Index、BSEにはSENSEXと呼ばれる株価指数があります。
これらは、米国でいえば「ダウ工業株30種平均」、日本でいえば「日経平均株価(日経225)」と同様の機能を有します。
ちなみに、BSEには、他にもBANKEX(銀行銘柄で構成)、AUTO(自動車メーカー銘柄で構成)、IT(IT企業銘柄で構成)その他多くの指数があります。

ただし、2007年9月現在、インド法上、政府の認定を受けた外国機関投資家(Foreign Institutional Investor(FII))以外の外国投資家が、株式市場で個別銘柄の株式を買うことは認められていません。
つまり、一般の外国人投資家は、NSEやBSEで自ら株を買って投資することはできないのです。

ちなみに、FII以外の外国投資家ができないのは、株式市場での株式の「購入」のみであって、「売却」は可能です(この点、多くのインド株について紹介した本では、「売買が認められていない」と誤った紹介がなされているため、注意が必要です。)。
ただ、売る一方で買えないのでは、いわゆる株式投資を行うことは事実上不可能なので、一般の外国人投資家には株式市場が開放されていないのと同じという効果になります。

また、上記はあくまで「株式市場での」株式の購入の制限であるため、いわゆる相対取引での購入や、新株の割当による株式の取得、後述するADRやGDRの転換による株式の取得は、それらが当該行為を規制する法律に従ってなされている限り可能です。

したがって、例えば、現地に合弁会社を設立し、上場させた後、当該合弁会社の株式をBSE等の株式市場で売却することは、その合弁会社の株主がFIIでなくとも全く可能なわけです。

ところで、インドの株式市場における外国人による株式購入は、全面的に禁止されているわけではなく、上述のインド政府が認定した外国機関投資家(Foreign Institutional Investor(FII))による株式購入は認められています。
FIIは、日本法でいうと、「外国籍の適格機関投資家」と言ったところでしょうか。

そのため、個人がインド株式に投資する場合、インド政府の認定を受けたFIIの設定する投資信託を購入するというのが1つの簡便な方法となります。
実際、この方法によるインド株ファンドは多くの証券会社が扱っており、日本の個人投資家が最も簡単にインド株に投資する方法であると言えます。

一方、個人がインド株に投資するもう1つの簡便な方法が、今回紹介する預託証券(Depositary Receipt)を利用した方法です。

--

(2007年12月追記)

以下、内容を修正しました。
下記については正式な論文を書いたのですが、あらためてブログ本文を読み直したところ、加筆すべきや修正すべき部分が多くあったため、この記事の主旨を損なわない限度で修正することにしました(できれば一から書き直したいくらいなのですが、過去の記事を一から改変するというのも変なので、預託証券についてはまた別の機会に書きたいと思います。)。
加筆、修正部分には下線を引いています。

大変失礼いたしました。

--

預託証券(Depositary Receipt)とは、株式そのものは信託銀行等に預託しつつ、当該株式の預託を証明する書類として発行される預託証券をいい、いわば株式の代替品として流通する証券を言います。

米国で発行される米ドル建てDepositary ReceiptをAmerican Depositary Receipt(ADR)といい、主としてヨーロッパで米ドル建てで発行されるDepositary ReceiptをGlobal Depositary Receipt(GDR)といいます。
他にも、HKDR、DRS等の預託証券があります。

米国において、ADR制度は1928年に創設され、これによりADRを通じて米ドル以外の通貨建ての株式に対して米ドル建てで投資することを可能となりました。
ADRを米国で上場する場合、当該ADRの発行企業に対して、通常米国で株式を上場する企業が求められるのと同じ程度のディスクロージャーが求められており、実質的に外国株式を米国株式市場において上場するのと同様の効果と規制が発生します。

さて、インド法上、インドの会社は、原則としてMinistry of Finance(MOF。金融省)、Foreign Investment Promotion Board(FIPB。外国投資促進委員会)及びReserve Bank of India(RBI。インド連邦準備銀行)といった規制機関の承認なくしてADRやGDRを発行することができます。

ただし、ADRやGDRの発行と引き受けが、Foreign Direct Investmentの自動承認(インド連邦準備銀行への事後届出だけで投資できる上限)の枠を超える場合、原株式の引き受け先(=預託機関)の側で、FIPBからインド外国為替管理法上の事前承認を取得する必要があります。
後述の通り、預託証券は原則として原株式への自由な転換が認められているため、「全ての預託証券を原株式に転換したと仮定した場合に自動承認の上限を超える」という場合には、インド外国為替管理法上の規制に抵触する可能性があるためです。
なお、FIPBの事前承認が不要な場合、必要な場合いずれも、預託機関は、原株式を引き受けた後30日以内に、インド連邦準備銀行に対して事後届出を行う必要があります。

インドにおける預託証券(DR)発行の根拠となる法令は、「1993年外貨建ての転換社債及び普通株(預託証券)の発行計画規則」(Issue of Foreign Currency Convertible Bonds and Ordinary Shares Scheme, 1993)ですが、同規則上、外国において預託証券を発行できるのは、インドにおいて上場している会社のみとされています。
そのため、インド国内の証券取引所に上場していないインドの会社は、ADRまたはGDRを発行することができません。

当該預託証券に投資した投資家は、これらをForeign Investment Promotion Board(外国投資促進委員会)やReserve Bank of India(RBI。インド連邦準備銀行)の承認なしに、株式に転換(=預託証券を提示しての原株式の引き出し)することができます。
ただし、発行体側で転換に条件を付すことは可能であり、たとえば、「DRの最低転換数は○個とする(その数以上持っていない場合には、転換を認めない)」とか、「1年以上の保有を転換要件とする」等の条件をつけることは可能です。

先ほど述べたとおり、FII以外の外国人投資家は、インドの株式市場で株式を購入することはできないのですが、ADRを取得する→これを株式に転換する、というルートを取ることにより、インドの会社の直接の株主になることができます(とはいえ、ADRに十分な流通性があるのであれば、そこまでしてインドの会社の株式を直接手に入れる必要はないでしょうが)。

さらに、近年、RBIは、

①株主が一定の条件の下、その保有する株式をADRやGDRに交換することができるというADRやGDRの株式との互換性(「預託証券→株式」、の互換性だけでなく、「株式→預託証券」という互換性を認めた。)及び

②会社側が、株主により(信託銀行等に対して)売却される予定の株式を預託対象とした預託証券を、当該株主による売却と同時に発行することにより、ADRやGDRのプログラムを進めること(新規発行株式を預託対象とした預託証券だけでなく、既発行の株式を預託対象とする預託証券の発行を認めた。)、

をそれぞれ認めるに至っています。

具体的には、①について、当初発行したDRのうちいくつかが原株式に転換され、当初発行の枠に余裕ができた場合、既存の株式を預託することにより、その枠の範囲内で新規にDRを発行することが可能です。

また、②については、原株式の発行体であるインド企業のスポンサリングにより、インド国内の既存株主がその保有する既発行株式を証券会社等の第三者にまとめて売却し、当該第三者がこれを外国の預託機関に預託して、これと引換えに、第三者に対して預託機関が預託証券を発行するという手続となります。
この場合、原株式の発行体であるインド企業は、売却先の第三者の選定を行ったうえで、全ての既存株主に対して預託証券発行のプログラムを告知し、原株式の売却に参加するかどうかについての意思決定の機会を与えなければならず、既存株主は、プログラムに参加するかどうかを自由に決定することができます。

さらに、「1993年外貨建ての転換社債及び普通株(預託証券)の発行計画規則」(Issue of Foreign Currency Convertible Bonds and Ordinary Shares Scheme, 1993)に基づいて預託証券が発行された場合、当該預託証券の保有者は、インド所得税法上、税務上の利益を受けることができます。

具体的には、インド所得税法上、預託証券の保有者は、その保有する預託証券をインド国外で譲渡した場合に当該譲渡益に課税されないというメリットを享受できます。
なお、配当については、そもそも株式の配当について株主には課税がなされないため(配当額に応じて、配当を行った会社が課税されます)、税務上は特に優遇措置はありません。

--

さて、ここまではADRやGDRといった、外国の預託証券の話なわけですが、日本でも金融商品取引法の施行及び信託法の改正により、円建ての預託証券を発行することが可能となりました(Japanese Depositary Receipt。JDR)
(厳密に言えば、JDRは、信託受益権を表章する証券であり、預託を表章する証券ではないのですが、インド法上、JDRも預託証券として扱われるというのが一般的な解釈です。)

インド政府やインド企業に対し、日本の経済産業省は、インドでの主としてインフラ整備(デリー・ムンバイ間のコリドー構想含む。)の投資の資金調達源として、このJDRを売り込んでいます。

現時点では、東証に預託証券の上場制度がまだなく、今後JDRによる日本における資金調達がどのような実務で動いていくのかは未知数の部分が多いですが、米国でそれなりに機能している制度が日本で機能しないとも考えにくいので、数年後には当たり前のようにJDRが東証に上場され、それを通じて日本の個人投資家がインド企業に投資しているという光景も見られるかもしれません。

いずれにしても、インド企業によるJDRによる資金調達は、一般の外国投資家による直接の株式購入が認められていないインド株式市場の現状から、今後発展していく可能性があるため、注目しておいた方が良いと思います。

--

次回からは、インドでのBusiness Entityの基本となる、Companyをもう少し詳しく取り上げていきたいと思います。

|

« コメント | トップページ | 9月14日 -食あたり- »

インド外資規制解説」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« コメント | トップページ | 9月14日 -食あたり- »