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インド会社法解説その11 -会社の機関 取締役、取締役会③-

必要なことの一から八くらいまでは法律と施行規則に明文規定がある日本の会社法にすっかり慣れてしまったからか、インド会社法の条文を読んでいると、規定に整合性がなかったり、規定が不十分だと感じることが多いです。

そういうときは事務所内のインド人弁護士に聞くのですが、それでも今ひとつ理解しにくいことが多いです。
「なんでそんな基本的なことについて明文規定がないの?」とか、
「なぜ規定間に矛盾があるようにみえるの?」とか、
「法文の英語がものすごくわかりにくい」とか。

特に、法文の英語がわかりにくいというのは強烈で、何回読んでも意味が理解できない条文も少なくありません。
私の英語力が足りないという問題もあるのでしょうが、それよりも何よりもインド会社法の条文の英語が拙劣であるというのが大きいです。インド人弁護士でさえ、同じ条文について2人の弁護士が違う解釈をしていたりするので、根本的に「わかりやすい意味明晰な英語」という点で問題があるのでしょう。

「なんでこんなにインド会社法は読みにくいの?」とインド人弁護士に尋ねたところ、「法律の正式名称(Companies Act, 1956)知ってるよね。半世紀以上も前にできた法律を改正でつぎはぎしながら使っているんだから、読みにくいし、現在のプラクティスから外れる部分もあるのはしょうがないよ」との答えでした。

納得。

少なくとも、つい1年半まで明治時代にできたカタカナ、文語文の商法で会社関係を規律していた日本人が、とやかく言えることではありませんね…

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閑話休題

今回は取締役、取締役会関係の続きです。

インド会社法原文リンク
http://www.vakilno1.com/bareacts/companiesact/companiesacts.htm

前回、少し「取締役委員会」について述べましたが、これについて補足したいと思います。

「社債以外の借入、会社資金の投資および貸付については、取締役会はその決議により、決定権限を取締役等で構成される委員会に委譲することができる」との規定(インド会社法292条2項)について、この規定はそれ以外の事項について取締役会が取締役委員会に権限委譲することを禁止する趣旨ではありません。

すなわち、この規定は、その前項である292条1項の「株式の払い込みを行わない株主に対して支払い要求を行うこと、自己株式の買取、社債の発行、社債以外の借入、会社資金の投資、貸付については取締役会の会議形式で決議しなければならない」という規定を受けて、後三者の「社債以外の借入、会社資金の投資および貸付」については取締役委員会に委譲することもできるということを示したものにすぎません。

上記以外の取締役会決議事項、たとえば一定の経営事項についての判断、Private Companyにおける株式の譲渡の承認その他について、取締役会が取締役委員会に権限委譲することは、インド会社法上当然にできると解されています。
このあたりは、日本の会社法上、明文で取締役会専決事項とされている事項以外の事項については、経営委員会その他の名称の委員会に権限委譲可能と解されていることと同様です。

そのため、インドでは、ある程度大きな会社については、1つまたは2つ以上の取締役委員会を有するのが通常であり、取締役会はその決議により、さまざまな権限を取締役委員会に委譲しています。
特に上場会社については、取締役委員会を持たない方が珍しく、多くの権限から取締役会から取締役委員会に委譲されています。ちなみに、どのような権限を委譲しているかは、継続開示における開示事項とされています。

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さて、これまで取締役、取締役会について述べてきましたが、インド会社法上は、日本の「代表取締役」に相当する機関は存在しません。

Public Companyについては、通常の取締役のほか、マネージングディレクター(managing director)、常勤取締役(whole-time director)またはマネージャー(manager)のいずれかを選任しなければならないとされていますが(インド会社法269条)、常勤取締役と並列的に列挙されていることからも窺えるとおり、マネージングディレクターは「会社の法的な代表権を有する特別な存在」、というわけではありません。

これは、インド会社法上の取締役の位置づけとも関連します。

すなわち、インド会社法上、個々の取締役は、定款上特別な規定がない限り、それぞれ会社を代表して業務を執行する権限を有するとされており、かつ、仮に定款上特別な規定がある場合でも、その規定は第三者には対抗できないと解されています(判例法)。すなわち、定款上特別な規定(「業務執行権限はマネージングディレクターのみが有する」等の規定)を置いて個々の取締役の業務執行権限を制限したとしても、その制限は第三者には対抗できません。
また、取締役会の決定なくして、取締役が第三者に対して業務執行行為を行った場合であっても、会社はその業務執行行為について責任を負うと解されています。
これは、日本において、代表取締役の権限に内部的に制限を加えても善意の第三者に対抗できないとされているのと同様です。

このように、個々の取締役が業務執行権限を有する以上、インドでは業務を執行する特別な機関としての代表取締役を置く必要がない、ということになります。
(ちなみに、取締役会が「個々の取締役の総称」と定義されているのも、このあたりに理由があるようです。)

そのため、インド会社法上、マネージングディレクターやマネージャーは、「会社の顔」として事実上の会社の代表権限は有しますが、インド会社法上はそれほど特別な法的地位や権限が与えられているわけではありません。
マネージングディレクターがいる会社であっても、その他の取締役が(内部的な制限を無視すれば)会社の業務を執行することは可能です。

なお、上述のとおり、インド会社法上、Public Companyについては、マネージングディレクター、常勤取締役)またはマネージャーのいずれかを選任しなければならないとされており(ちなみに、選任は取締役会ではなく株主総会において行われます)、かつ、これらの選任に際しては、インド中央政府の承認が必要とされています。
これは、マネージングディレクターやマネージャーは、少なくとも会社内部的には会社の主導権を握っている者(会社設立者やその一族等)が就任することが多いため、公開会社(=上場会社または一定の業法規制を受ける会社等)については、それらの者をある程度インド政府がコントロールしようとする趣旨であると考えられます。

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次回も取締役、取締役会の解説です。
一応、次回で終了の予定です。

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