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インド会社法解説その12 -会社の機関 取締役、取締役会④-

(2008年5月、取締役の報酬部分につき修正、加筆)

インド会社法原文リンク
http://www.vakilno1.com/bareacts/companiesact/companiesacts.htm

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今回は、取締役の義務と取締役と会社との間の関係です。

インド会社法上、会社の取締役は、会社に対する忠実義務、善管注意義務、技能を傾ける義務、勤勉義務、責任を回避しない義務、競業避止義務、利益相反回避義務等を負います。これらは、本質的にはいずれも日本の会社法上の忠実義務や善管注意義務と同様の義務(技能を傾ける義務や勤勉義務等も、結局は忠実義務、善管注意義務に還元されます)です。
要するに、「まじめに一生懸命会社のために頑張る義務」ということです。

Public Companyの取締役については、上記の一般的な取締役の義務のほか、上場を適切に維持する義務や継続開示を適切に行う義務等が課せられますが、これらも結局は忠実義務、善管注意義務に還元されるため、日本と相違はないといえます。

取締役がこれらの義務に違反した場合、会社から損害賠償を受ける可能性があり、会社がその損害を追及しない場合、株主代表訴訟による責任追及が可能です。
このあたりも日本とほとんど同じです。

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取締役は、直接的または間接的に、会社との間で会社と自身の利益が相反する可能性のある行為を行う場合(会社との間で自らまたは第三者のために契約を締結する場合等)、その事実を取締役会において開示する必要があります(インド会社法299条)。
この開示を怠った場合、取締役には上限5万ルピーの罰金が課せられます。

取締役会は、開示された行為について、それが会社側の行為を要するものである場合(取締役・会社間の契約の締結など)、開示された情報をもとに会社として当該行為を行うかどうかの決議を行います。
この決議には、利害関係を持つ取締役は参加することができず、取締役会の定足数としてもカウントされません(インド会社法300条)。

面白いのが、インド会社法上の開示義務および取締役会の承認は、日本の会社法と違って、取締役の行為それ自体についての開示義務や承認ではないということです。
日本の会社法356条が規定しているのは、あくまで「取締役の利益相反行為」の承認であり、その行為に会社自身が絡んでようが絡んでいまいが、取締役がそのようなことを行うこと自体について承認を必要としています。
一方、インド会社法は、少なくとも299条1項および300条1項の文言上は(但し判例がある可能性あり)、「取締役が企図する利益相反行為に会社の行為が必要な場合(典型的には取締役と会社との間で契約を締結する場合)についてのみ取締役に開示義務を課し、また、会社としてその行為を行うかどうかの取締役会の決議から当該取締役を締め出すこととしているにすぎません。
そのため、取締役の利益相反行為が会社の行為を必要とするものでなければ(典型的には、競業同種事業を別途営む場合)、取締役会への開示も取締役会の承認も不要ということになってしまいます。

もちろん、取締役が競業同種事業を営んだりすることは、前述の競業避止義務や善管注意義務に反する行為なので、インド会社法299条や301条に触れなくとも、インド会社法上違法であることは間違いないのですが、少なくとも会社の行為を必要としない利益相反行為については「利益相反取引」という類型では規制していないということです。

なお、上記にしたがって取締役から開示された利益相反取引の内容や当事者、契約の内容、決議の日付、契約の承認に賛成または反対した取締役の氏名等の情報は、会社内部において記録される必要があります(インド会社法301条)。

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また、これも利益相反取引規制の一種ですが、Public Companyにおいて、会社が取締役またはその関係者に対して貸付、保証、担保の差し入れ行うことは、中央政府の事前承認を得た場合を除いて禁止されています(インド会社法295条)。
ただし、Private Companyの場合、この規定は適用されません。

具体的に、貸付、保障、担保差し入れが禁止される相手方は、以下のとおりです(インド会社法295条1項参照)
①会社の取締役もしくは親会社の取締役またはそれらの親族
②取締役またはその親族が出資者となっている会社
③当該取締役がコントロールできる議決権が25%以上を超えている会社
④取締役が取締役、managing directorまたはmanagerを勤める会社

なお、上記②から④については、親子会社間の取引となる場合には、禁止規制は適用されません。

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会社は、取締役の情報をインド会社登記局(Registrar of Company)に登記しなければならず、取締役の変更または取締役の情報の内容に変更があった場合、30日以内に変更の報告をする必要があります(インド会社法303条)。

登記事項は、氏名、住所、国籍、職業、他の会社の取締役を兼ねている場合その内容、生年月日(これはPrivate Companyのみ)です。
さらに、これらに加えて「父親の姓名(既婚女性の場合、夫の姓名)」も登記事項になっているのがインドらしいというか。
ちなみに、取締役にはこれらの内容を会社に報告する義務が課せられており、もしこれを怠った場合、5万ルピーを上限として罰金が課せられます。

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取締役の報酬は、インド会社法198条の規定に従い、附属定款の規定または株主総会普通決議により決定されます(309条1項)。
ただし、附属定款上、特別決議による決定が要求されている場合には、特別決議が必要とされます。

取締役の「報酬(remuneration)」には、会社が取締役のための負担した各種費用も含まれます。
具体的には、会社が取締役の住居費のために支出した費用、取締役に供与する便益や物のために支出した費用、取締役の義務や履行すべきサービスを会社が代わって履行するために支出した費用、ならびに会社が取締役およびその家族のために支出した保険や年金の費用は、いずれも取締役の「報酬」に含まれます(198条説明書き(a)から(d))

日本と異なるのは、Public Companyについて法令上取締役の報酬の上限が定められている点です。

具体的には、Public Companyについては、取締役およびマネージャーに対する報酬総額の上限が定められており、その上限額は当期純利益の11%とされています(198条1項)。会社がこの上限額を超える報酬を支払う場合、インド中央政府の事前承認が必要となります(同条4項)。
一方、Private Companyについてはそのような上限規制はありません。

この規制の趣旨は、Public Companyは通常上場会社か業法規制を受ける会社であり、公共の利害に関係することが多いことから、これらの会社について過大な報酬による会社資産の流出を避ける点にあります。

さらに、Public Companyにおいては、マネージング・ディレクター、常勤取締役以外の取締役に対する報酬の上限額が、①マネージング・ディレクター、常勤取締役またはマネージャーを選任している会社については当期純利益の1%、②その他の会社については当期純利益の3%とされています。

会社がこの上限額を超える報酬を支払う場合、インド中央政府の事前承認とともに、株主総会特別決議による承認を得る必要があります(309条4項、7項)。
一方、非公開会社では、これらの取締役に対する報酬の上限規制は課されません(同条第9項)。

この規制の趣旨は、公開会社について、経営に実質的に関与しない取締役に対する過大な報酬の支払いを防止する点にあります。

公開会社におけるマネージング・ディレクターおよび常勤取締役の報酬は、毎月定額払いもしくは当期純利益の一定割合、またはそれらの併用により支払われます(309条3項)。
ただし、「当期純利益の一定割合」という報酬の定め方をする場合、当該割合はマネージング・ディレクターまたは常勤取締役である取締役1人あたり当期純利益の5%を超える数字であってはならず、かつ取締役全員の合計で10%を超えてはなりません。
一方、公開会社におけるマネージング・ディレクターおよび常勤取締役以外の取締役に対する報酬は、取締役会ごとの支払いか、月額定額方式による支払いかのいずれかの方法で支払われます(309条2項)。

上記からわかるとおり、インド会社法上は、赤字のPublic Company(=通常上場会社)については、中央政府の承認がないと取締役は報酬がもらえないというシステムになっています。

これ、個人的には結構いいシステムだと思います。
日本の会社法にもこういう規定があれば、世間でよくある「上場会社で会社は大赤字なのに、(代表)取締役は巨額の報酬を得ている」という事態が防げることになり(粉飾決算までされてしまうと無理ですが)、株主保護に資するのではないでしょうか。
(規制緩和の流れに思いっきり逆行するので実際には無理でしょうが)

ちなみに、Public Companyがいったん定めた取締役報酬を増額変更する場合、やはり中央政府の承認が必要になります(310条)。

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取締役、取締役会の解説は今回で終了です。
まだ書き足りないところもありますが、まずはインド会社法を概観することを優先し、とりあえず先に進みます。

次回からは、監査役、監査委員会について解説していきたいと思います。

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