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インドの不動産および不動産登記制度解説その1

本当はもう少し先で取り上げる予定だったのですが、最近多くの方からインドの不動産登記制度についてご質問をいただくため、とりあえずさわりということで簡単に解説したいと思います。
(なお、以下の内容については、今後の調査進展により修正する可能性があります。あらかじめご了承ください。)

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「土地は全て国有であり、国民はその使用権を有するだけ」という建前が取られている中国と異なり、インドでは土地(およびその上に建つ建物)の私有が認められています。

土地や建物の取引があった場合、登記を行うことになるのですが、日本と異なり、インドには不動産そのものを登記する制度はありません。
その代わり、「不動産取引に関連する書類」を登記(書類なので、「登録」と言った方がニュアンスは近いかもしれませんが、以下「登記」で統一します)する制度が取られています。

インドには、1908年登記法(Registration Act, 1908)という法律があり、同法は、同法が定める一定の重要な取引行為等に係る文書については、「Sub-Registrar of Assurances」と呼ばれる機関に登記を行わなければならない旨規定しています。
そして、同法上、100ルピー以上の資産価値を有する不動産の権利移転や担保設定等に関連する書類(売買契約書、担保設定契約書等)は、要登記書類とされているため、たとえば不動産の売買を行った場合、売買契約書を登記しなければならないということになります。

1908年登記法上、登記することが要求されている文書について登記を怠った場合、当該文書は裁判において証拠とすることができなくなります。
「裁判において証拠とすることができない」というのは、「いざ紛争になった際、第三者どころか当事者に対しても権利主張ができない」ということと同義であり、したがって、土地売買契約書の登記は、対抗要件どころか権利移転要件に近い役割を持ちます。

たとえば、売主をA、買主をBとして、土地売買契約を行い、BがAに代金を支払ったにもかかわらずAが土地を引き渡さない場合で、BがAに対して訴訟を提起した場合、Bは土地売買契約書を登記していなければこれを裁判の証拠として出すことができず、結果として裁判で負けてしまうという事態が生じてしまうわけです。
よって、1908年登記法で登記することが要求されている文書については、登記が必須となります。

さて、上述のとおり、書類の登記は、「Sub-Registrar of Assurances」(ちょっと適切な和訳が思いつきません。「権利保証副登記局」とでも訳すのでしょうか)と呼ばれる機関の地方局において行われ、登記された書類は一般に公開されるという制度になっています。
このあたりは、日本において、法務局で登記簿謄本が閲覧、謄写できるのと同じですが、日本と異なり、インターネット上で登記簿謄本の閲覧はできないので、現地に行って閲覧する必要があります。

したがって、不動産関連の書類に関して言えば、「Sub-Registrar of Assurances」の役割は日本でいう法務局に相当し、土地売買の場合、当該土地を管轄するSub-Registrar of Assurancesの地方局において、売買契約書等を登記することになります。
なお、このとき、当該不動産の売買契約書には、1899年インド印紙税法(The Indian Tax Act, 1899)により、収入印紙を添付することになります。

具体的な登記手続は、州によって異なり、また、各Sub-Registrar of Assurancesの地方局によっても異なる指示がされているようです。
ご参考として、ムンバイの地方局での土地登記手続きに関するウェブサイトのリンクを貼り付けておきますので、ご参照ください。

http://www.realestatemumbai.com/rem_registration.asp

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とりあえず今回はこのくらいで。
もう少し調査が進んだら、色々書いていきたいと思います。

なお、実際に不動産取得その他の不動産取引をお考えの方は、現地の信頼できるコンサルタントにご相談されることを強くお勧めします。

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インドの不動産および不動産登記制度解説」カテゴリの記事

コメント

この契約書を登記するという行為は、日本人にはあまり馴染まないかもしれません。当地では、公的には賃貸物件であっても登記する必要があるため、私も物件契約時に登記局に出向いて手続きを行いました。その方が後々間違いがないでしょうし・・・。

>まさこの 様

一定賃料以上の不動産の賃貸契約書は、1908年登記法上、要登記書類とされているようです。
(1908年登記法により要登記書類とされている書類の種類は結構多く、不動産の売買や賃貸についての書類は、その中の一部にすぎないということみたいです。)

家を借りただけなのに登記しなきゃいけないというのは面倒ですね…
ちなみに、日本にも一応賃貸借の登記の制度はありますが(民法605条)、登記するかどうかは任意ですし、借地借家法の制定により、事実上死文化しています。

投稿: まさこの | 2008年1月21日 (月) 18時00分

興味深いですね~。形式主義みたいな感じなんですね。実体法と訴権が未分離な雰囲気も素敵です。登記簿をびりびり破く昔の日本の地面師みたいに、閲覧している振りして契約書を破いちゃう輩とかいそうですね。

>への字 様

実務上、原本を複数作成して、そのうちの1つを登記するということが行われているようです。例えば、2当事者間の契約の場合、契約書を3通作成し、当事者が1通ずつ保有するとともに、1通は登記するということです。

まさに地面師がいても全くおかしくないですね。
登記されている原本は1通だけで、それを閲覧するわけですから。まだ調査の進展中ですが、もしそうなら、残念ながらインドの不動産(の関連書類)登記制度はあまり信用できないということになってしまいますね…

さすがに訴訟法にまでは手が回っていませんが、確かに実体法と訴訟法が未分化な印象は受けます。
「相手方および第三者に対抗できない」というのと、「訴訟で証拠として提出できない」というのは本来全然別の次元の話なので。

投稿: への字 | 2008年1月21日 (月) 21時30分

インドの法律にお詳しいんですね。素晴らしいです。インドは中国の使用権と異なり、所有権に係る権利の登記が可能と言うことで、現在3物件ほど購入手続きをしております。
日本で不動産業を営んでおり、現地でも営みたいのですが、現在現地法人まで作ったものの不動産業の登録についてはまだ手探りです。。。現地のコンサルタントに確認しても、不動産の免許は不要だと言われましたが、不安なので来月現地に訪問予定です。
是非、このブログを参考にさせていただきたく思います。また、失礼でなければ色々お話をお伺いできればと思います。

>なが 様

はじめまして、コメントありがとうございます。
管理人多忙につき、返信が遅れて申し訳ありません。

さて、いわゆる不動産取引または賃貸業を、外国会社またはその現地法人もしくは支店がインドにおいて営むことは、インド外国為替管理法上禁止されています(インド準備銀行が発行している2008年版外国投資に関するMaster Circularの別紙2(PDF版55頁)の(B)、5参照。↓のリンク先から、PDFファイルをダウンロードしていただければと思います。)
http://www.rbi.org.in/scripts/BS_ViewMasterCirculars.aspx?Id=4312&Mode=0

上記Master Circularの別紙2(PDF版55頁)の(B)、5では、外国直接投資を禁止する事業分野として、「Housing and Real Estate business」が列挙されています。
(なお、厳密には、「2005年プレスノート2号で認められた不動産事業を除く不動産事業」については、外国企業またはその現地法人が営むことも可能ですが、このプレスノート2号で認められた不動産事業に、一般的な不動産取引業または賃貸業は含まれていないため、結論としてはできないといことになります)

たとえば、工場や店舗設立のために不動産を取得することは明示的に認められているのですが、不動産取引または賃貸それ自体から利益を得るための不動産事業を、インドで外国企業(あるいはその現地法人または支店)が営むことは、インド外国為替管理法上認められていない(禁止業種となっている)ということです。

したがって、インド国内での不動産業ライセンスの登録という問題以前に、すでに「不動産事業目的でインド国内の不動産を取得している」という貴社の現状がインド外国為替管理法違反である可能性があります。

なお、上記はインド外国為替管理法の問題ですが、国内規制の問題として、インドにおいて不動産取引業または賃貸業を、(インド内国企業が)営む場合、別途ライセンスが必要になるはずです。

現地のコンサルタントのアドバイスの質が少し気になりますので、別の現地コンサルタント(できれば日系)に依頼して、セカンドオピニオンを求めることを強くお勧めします。

投稿: なが | 2008年7月18日 (金) 17時13分

はじめまして、インドで学生をし、働いた経験がある、イチローと申します。
///Quote///
インド外国為替管理法により、インドで外国企業(あるいはその現地法人または支店)が不動産取引業または賃貸業を営むことは認められていなく、
また国内規制の問題として、インドにおいて不動産取引業または賃貸業を、(インド内国企業が)営む場合、別途ライセンスが必要になる
///Unquote///
過去コメントより、上記ご教示をいただいておりますが、例えば、不動産を紹介するようなサイトを、外国会社またはその現地法人もしくは支店が行い、収入を得ることはこれもインド外国為替管理法違反ということになりますでしょうか?
以上、ご教示をいただけましたら幸いです。
よろしくお願い致します。

投稿: イチロー | 2009年11月10日 (火) 15時27分

>イチロー 様
コメントありがとうございます。

ご質問の件につきまして、結論としては、不動産に関わる事業は、建設事業であれ、取引事業であれ、お考えのような紹介・斡旋事業であれ、インドで外資が営むことは、インド外国為替管理法違反になると考えられます。

外資による不動産事業の規制については、インド準備銀行(RBI)が発行するMaster Circular on Foreign Investment in Indiaの2009年版(2009年7月1日発行)の2頁(ページ番号は、ページ下記載のものによる)に、詳細に記載されています。

原文はこちら
http://rbidocs.rbi.org.in/rdocs/notification/PDFs/22MCFDI90701_F.pdf

それによれば、外資による投資禁止事業として、「Real estate business, or construction of farm houses1」が列挙された後、補足説明として、以下の記載があります。

It is clarified that “real estate business” does not include development of townships, construction of residential / commercial premises, roads or bridges, educational institutions, recreational facilities, city and regional level infrastructure, townships. It is further clarified that partnership firms /proprietorship concerns having investments as per FEMA regulations are not allowed to engage in print Media sector.

上記記載は、外資により営むことが禁止される不動産事業には、「タウンシップの開発、住宅用もしくは商業用建物、道路もしくは橋梁、教育施設、保養施設、または都市もしくは地域レベルのインフラの建設事業等」は含まれないとするものですが、その反対解釈として、それ以外の不動産事業は含まれることになります。

ここで、「不動産事業(Real estate business)」が、いったいどこまでの事業を含むのか(建設、取引、賃貸だけでなく、賃貸の紹介・斡旋等も含むのか)については必ずしも明確ではありませんが、あえて取引(transaction)や賃貸(rent)などの限定をつけずに「不動産事業」とのみ言っていることからすれば、賃貸の紹介・斡旋事業も含め、一切の不動産関係の事業を含めていると解するのが自然であると思われます。

したがって、お考えのような、不動産紹介サイトにより紹介・斡旋手数料を得るような事業も、「不動産事業(Real estate business)」に該当し、よって外資がこれを営むことはインド外国為替管理法違反になると考えられます。

簡潔に言えば、現状のインドの外資規制上、外資が不動産関係のビジネスをするのは、上記の明示的に認められているもの以外は不可能であるということです。

投稿: kotty | 2009年11月11日 (水) 17時49分

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