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インド会社法解説その20 -組織再編(事業譲渡、合併、会社分割)①-

インド会社法原文リンク
http://www.vakilno1.com/bareacts/companiesact/companiesacts.htm

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インド会社法上、組織再編の方法には、事業譲渡(Slump sale)、合併(Merger)、会社分割(Demerger)があります。

インド法上のいわゆるM&Aの方法としては、上記のほか株式譲渡も含まれますが、これは会社法の問題というよりはインド外為法とインド公開買付け規制の問題であるため、別途の機会に取り上げたいと思います。

ちなみに、インドの会社の株式を譲渡する場合、Private Companyについては1999年外国為替管理法(Foreign Exchange Management Act, 1999(FEMA))による外資規制を受け、Public Companyについては1992年インド証券取引委員会法(Securities and Exchange Board of India Act, 1992(SEBI Act)) およびその下位法令である1997年株式の大量取得および公開買付けに関する規制(Securities and Exchange Board of India (Substantial Acquisition of Shares and Takeovers) Regulation, 1997)による公開買付け規制を受けます。
自分で書いていて舌を噛みそうです。

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さて、インド会社法上の組織再編の方法として、事業譲渡は当事者の契約による方法、裁判所に申請する方法の双方を選択することが可能ですが、合併および会社分割については必ず裁判所に対する申請により行う必要があります
ちなみに、2002年の会社法改正により、上記各組織再編の申請先は、裁判所(Court)から内国会社法裁定所(National Company Law Tribunal)に改正されていますが、2008年2月現在、同改正は未施行であるため、現時点でも申請先は裁判所となります。

組織再編には1961年インド所得税法(Income Tax Act, 1961)の規定が多く絡んでくるため、解説において適宜言及していきます。

以下、組織再編行為ごとに分けて解説します。

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事業譲渡は、インド法上はSlump Saleと呼ばれます。
「スランプ状態の事業を売却する」というイメージですね。最近は、この言葉のイメージを嫌って、講学上Transfer of Going Concernと呼ばれることもあるそうです(インド会社法上、会社分割に相当する言葉はDemergerです)。

日本と同じく、インドの組織再編も税制と密接な関係があるため、事業譲渡に関する重要な定義は1961年インド所得税法においてなされています。
具体的には、事業譲渡(Slump Sale)は同法2条42C項に定義されており(下記参照)、事業(undertaking)は同条19AA項に定義されています。

1961年インド所得税法2条42C項
"slump sale" means the transfer of one or more undertakings as a result of the sale for a lump sum consideration without values being assigned to the individual assets and liabilities in such sales.

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さて、上で述べたとおり、組織再編行為のうち、事業譲渡のみは①当事者の契約による方法、②裁判所に申請する方法の双方を選択することが可能です。
それぞれのメリット、デメリットは以下のとおりです。

①当事者の契約による方法
メリット
・当事者の合意のみで事業譲渡を行うことができるので、手続が簡単かつ迅速
デメリット
・事業譲渡についての債権者等の個別同意が必要
・税務上の優遇措置が受けられない

②裁判所に申請する方法
メリット
・事業譲渡についての債権者等の個別同意が一定程度免除される
・印紙税の軽減等の税務上の優遇措置が受けられる
デメリット
・裁判所の申請手続きを経るため、一定の時間がかかる

上記を比較すればわかりますが、①と②のメリット、デメリットはそれぞれ表裏の関係にあります。
これらのメリット、デメリットは、日本の会社法上の合併(会社分割)と事業譲渡の比較に似ています。日本の会社法や税法上も、「事業譲渡は当事者の合意のみでできるが、(業法上の特別みなし規定がある場合を除いて)債権者の個別同意が必要であり、また税務上の優遇措置も受けにくい」、「合併(会社分割)は手続きにとても時間がかかるが、債権者の個別同意は不要な上、税務上の優遇措置が適用される場合が多い」という関係が成り立つためです。

もっとも、実務上は、②の裁判所に申請する方法による事業譲渡はほとんど行われていないとのことです。
次回に解説しますが、②の裁判所に申請する方法による事業譲渡は、その手続が同じく裁判所に申請して行う会社分割(Demerger)にきわめて似ており、かつ会社分割の方が税制上の優遇措置が大きいことから、裁判所申請の組織再編を行う場合に、あえて会社分割ではなく事業譲渡を選択するメリットが乏しいためです。

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①、②のいずれの方法をとる場合であっても、また事業譲渡が全部譲渡であっても一部譲渡であっても、Public CompanyまたはPublic Companyの子会社が事業譲渡を行う場合、譲渡会社は取締役会決議とともに株主総会通常決議を経る必要があります(インド会社法293条1項(a))。
さらに、この場合において、譲渡会社が上場会社である場合、株主総会決議は郵便投票で行われる必要があります。

一方、譲渡会社がPrivate Companyである場合、株主総会決議は不要であり、インド会社法上は、事業の全部譲渡であっても取締役会決議で決定できることになります。
また、譲受け側について、インド会社法上は、譲り受ける側は、事業の全部譲渡の場合であっても株主総会を経る必要はなく、取締役会決議のみで譲受け可能です。

もちろん、上記いずれについても、定款で規定すれば株主総会決議事項にすることができますが、実務上はそのようにしている会社はほとんどないとのことです。

なお、上記取締役会または株主総会での承認は、通常事業譲渡契約書の承認という形で行われます。

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組織再編の方法として事業譲渡を選択した場合、その対価は、事業評価額相当の現金である必要があります。
インド人弁護士に確認したところ、対価として譲受人の新規株式発行を支払うという方法もありえないわけではなく、実例もあるそうですが、この方法はグレー(合法性がはっきりしない)とのことです。理由は、対価が株式の場合、優遇税制適用上の要件を満たさないと解される余地があるからだそうです。

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事業譲渡の効果は事業の包括的な承継ですが、日本と同じく事業譲渡の効果を第三者に対抗するためには、原則として事業譲渡についての債権者等の個別同意が必要となります。

また、旧会社が保有していた認可や事業ライセンスは事業譲渡に伴って移転することはなく、それぞれの監督官庁に事業譲渡による移転を申請し、それが認められる必要があります。

一方、譲渡された事業に従事していた従業員については、移動後の会社で移動前よりも待遇が悪化するということが限り、個別の同意なくして譲受け会社に移籍します。逆に言えば、譲受会社が譲渡会社と同じ待遇を提供する限り、従業員は事業譲渡に伴って当然に新会社に移籍してくることになります。

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以下、事業譲渡に適用される税制(所得税、印紙税その他の税制)について、書いていこうと思ったのですが、あまりにたくさんありすぎて心が折れてしまいました
現時点でインドのM&A税制に本格的に興味のある人はそれほど多くはないでしょうし、また本格的に興味がある場合にはこのようなブログを読むよりも然るべき専門家に相談すべきかと思われますので、税制の詳細な解説については割愛します(今後の合併、会社分割でも同様です)。

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次回は合併です。

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