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「インド式計算」の嘘

最近なぜか日本で流行っているこれ

ムンバイとデリーで、無作為にインド人(弁護士その他)10数人に聞いてみましたが、皆「こんな計算方法知らないし、聞いたこともない」だって。

インド国内でちゃんとした教育を受けたインド人10数人に聞いて、誰も知らないようなものを、「インド式計算」と言っちゃいかんのではないでしょうか。

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たとえば、日本古来の計算器具かつ計算方法である算盤(そろばん)。

日本人10人に無作為に聞けば、最低でも1人くらいは算盤を使った計算方法を知っているでしょう。
また、おそらく10人中10人とも、算盤の存在や用法(「この器具は計算に使うものである」という程度の抽象的な知識)は知っているでしょう。

こういうのを、真の「○○国式の計算方法」と言うのでは?

最近のインドブームに乗っかって、インドを商売のネタにするのは一向にかまいませんが(広い意味では私もその1人ですし)、その国に対して国民全体にあらぬ誤解を植え付けかねないようなやり方は良くないと思います。

要するに、「インド人が皆インド式計算を知っている」というのは、「日本人は皆チョンマゲ着物」というのと同じくらい激しい誤解に基づいた思い込みである、ということです。
このような誤った認識を日本人に刷り込むことにより、日本で「インド式計算」なる商売を展開しようとしている商売人は、万人の軽蔑に値するでしょう。

彼らが「インド式計算」と呼んでいるところのものは、最大限評価しても、「インドのごく一部の地方で、ごく一部の人間が行っている計算方法」にすぎません。
しかも、純粋に計算方法としてみても、それほど優秀なものではありません(後述のとおり、算盤の方がよほど早く計算でき、かつ応用範囲も広いです)。

なお、インド人が19桁×19桁の九九を暗記しているというのは、何人かのインド人に確認できたので、おそらく事実であると思われますが、それは「インド式計算」ではなく、単なる「九九の拡張」です。

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余談ですが、2桁×2桁の掛算(あるいはその他一切の乗除加減計算)の計算方法として、世界で最も優れた計算方法は、文句なく算盤だと思います。
算盤があれば計算速度は筆算の数倍ですし、また、ある程度算盤での計算に慣れた人なら、算盤がなくても頭の中に算盤を作って珠をはじくことにより、計算ができてしまいます(いわゆる暗算というやつです)。
こんな便利な計算方法、世界のどこを探してもありません。

算盤の原初の起源は日本というわけではありませんが、室町時代に日本に原始算盤が伝わった後に日本人が加えた独自の改良により、現在では日本の算盤の形態が世界のスタンダードになっています。
疑いもなく、日本は「近代算盤の起源国」と言っていいでしょう。

子供のころにテレビで見た「暗算日本一」の人。
頭の中の算盤の計算だけで、紙も鉛筆も使わずに10桁を超える掛け算に素早く正確な答えを出すさまは、外国人から見れば、東洋の神秘以外の何ものでもないでしょう。

インドブームにかぶれて、「インド式計算」なるインド人が誰も知らないような計算方法(しかも、純粋な計算方法としてもそれほど優秀というわけでもない)を子供に教えている暇があったら、どう考えても自国が生んだ最高の学問文化の1つである算盤による計算方法を教えた方が良いと思います。

昔の人の「読み書き算盤」という言葉。
今の日本人は、もう一度この言葉の意味を噛みしめてみる必要があるでしょう。

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(追記)

1945年11月12日に、米国の新聞である『スター・アンド・ストライプ』紙の後援で、算盤の達人である日本の逓信院貯金課の職員と、米軍の電子計算機オペレータとの間で計算勝負が行われ、逓信院職員が4対1で勝利を収めているそうです。

「貯金課の職員」でも、当時の米国にあってエリート中のエリートであった「軍の電子計算機オペレータ」に計算勝負で勝ててしまう。
そのことが、算盤の計算方法としての優秀さを端的に示していると思います。

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コメント

うちの事務所のスタッフ4人に聞いても、「知らない」とのことでした・・・。
九九(くく)ならぬ九十九九十九(「くじゅうくくじゅうく」とでも呼ぶのでしょうか)については、上記4人中1人がいいところまで暗記している、というレベルでした。こっちも「インド人は・・・」で括られると、かなり問題があるかもしれません。

投稿: まさこの | 2008年3月10日 (月) 13時19分

うちのスタッフのうち、小さなお子さんがいる人が5人目にしてやっと知っていました。当地では「Vedic Maths」と呼ばれており、7~8歳の頃学校で習うとか。正式な計算方法というより「頭の体操」として活用しているそうです。
実際、これを習った直後は使うようですが、大人になると誰も使わないとか。やはり、「インド式~」と呼ぶには問題があるかと思います。

>まさこの 様

こちらにまとめてコメントさせていただきます。

ごく最近子供に教え始めたということかもしれませんね。
であれば、大人が誰も知らないのも納得です。
どちらにしても、その程度の普及率、実用性のものを「インド式計算」とは呼べないというのはおっしゃるとおりだと思います。

「Vedic Maths」が頭の体操として一定の意味があることは事実なのでしょうが、実用計算という観点からは相当に役立たずだと思います。

「2桁×2桁が早く計算できる」というよりは、「2桁×2桁までなら、どうにか実用レベルの計算速度を維持できる」といったところではないでしょうか。
とはいえ、2桁×2桁さえ、算盤またはその暗算で計算した方がよっぽど早いですが。

投稿: まさこの | 2008年3月10日 (月) 13時41分

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