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インド公務員からの賄賂要求

公務員からの賄賂要求。
インドに限らず、発展途上国でビジネスをしようと思うと必ず出てくるのがこの問題です。

日本では、公務員の汚職や天下りがよく叩かれていますが、日本はアジアの中では例外的に公務員の汚職がきわめて少ない国です。
中国やインド、その他の東南アジアの国々の公務員の腐りっぷりを見ていると、日本の公務員は痛々しいほど清潔だと言っていいと思います(もちろん、だからと言って、たまに起こる贈収賄を大目に見ていいというわけではありませんが)。

多くのアジア諸国では、公務員(特に下級公務員)による一般市民や企業への賄賂要求は日常茶飯事であり、裁判官でさえ、有利な判決を餌に当事者に賄賂を要求してくることが珍しくありません。
一昔前の中国などはその典型ですし、インドでも、高等裁判所(High Court)より下の裁判所(Subordinate Court)での判決はあまり信用できないと、インド人自身が言っています。

おそらく、ほとんどの日本人にとって、「裁判になったときに、裁判官にお金を渡して自分に有利な判決をもらう」というのは、そもそも思いつきすらしないでしょう。
その一事をとっても、日本は、相対的には世界的に見てもかなり公正な司法制度を実現していると思います(日本の司法制度に問題がないわけではありませんが)。

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少し本題からそれました。

さて、インドでビジネスを展開する場合、なんだかんだで公務員から賄賂を要求されることが頻繁にあります。

主な類型としては、以下の2つがあります。

①会社の登記申請等、何らかの申請をした場合に、それを迅速に処理してもらうために賄賂を渡すという類型
②公務員(主に下っ端役人)が、日常業務を妨害したり言いがかりをつける等の嫌がらせを行い、それをやめて欲しければ金をよこせという類型

①、②いずれの類型も、公務員が正面からはっきりと金銭要求を行うことは少なく、①であれば、「通常どおり処理すれば○ヶ月かかりますよ」と言うことにより、暗に「迅速に処理して欲しければ金をよこせ」との含みを持たせること、②であれば、「お前の行為は違法だ」と言いがかりをつけて、驚いた相手方が何とか丸くおさめようとするのに乗じて金を取ろうとすることが行われます。

インドでは、公務員は上に行けば行くほど清廉であり、こういった理不尽な金銭要求をすることは少なくなるのですが、現場の木っ端役人はひたすら小遣い稼ぎに精を出しています。

で、これについて、インドに進出している日系企業がどういう対応をとっているかというと、ほとんどの日系企業はこういった役人の賄賂要求に応じてしまっているのが実情です。

日本で同じことをやったらものすごい問題になるのでしょうが、インドで現場にいる日本人駐在員が役人にお金を渡してしまう気持ちはよくわかります。

賄賂を要求してくるときのインド小役人のウザさといったら、筆舌に尽くしがたく、たとえば①の場合、お金を渡さなかったら数ヶ月単位で未処理のまま放置されるということも珍しくありません。また、②の場合、お金を渡すまで延々嫌がらせが続き、日常業務が完全にストップしてしまうということもよく聞きます。

欧米系企業の場合、コンプライアンスがきっちりしていることもあり、「手続きが遅れようが嫌がらせをされようが、出せないものは出せない」という毅然とした対応がとられることが多いのですが、日系企業は、「その程度のことでこれが解決できるなら…」という発想になりがちであり(そのあたり、日本人もやはり根本的にはアジア人の発想なのだなあと)、かえってインド小役人の格好の標的になっているようです。

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とはいえ、日本人が外国で公務員に対して賄賂を渡すことは、いくつかの法律上の問題点をはらんでいます。

この点は、経済産業省のウェブサイトに詳しいのですが、まず、外国公務員に対する贈賄は、日本が締結し、批准しているOECD贈賄防止条約(国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約)に違反する可能性があります。

また、同条約を受け、日本の不正競争防止法第18条1項は、「何人も、外国公務員等に対し、国際的な商取引に関して営業上の不正の利益を得るために、その外国公務員等に、その職務に関する行為をさせ若しくはさせないこと、又はその地位を利用して他の外国公務員等にその職務に関する行為をさせ若しくはさせないようにあっせんをさせることを目的として、金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をしてはならない。」と規定しており、これにも違反する可能性があります。
なお、不正競争防止法については、同法21条2項6号により、上記18条1項に違反した場合の罰則が定められており、「5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金」と、それなりに重い罰が科せられます。

ここでポイントとなるのは、OECD贈賄防止条約については、その正式名称の「国際商取引における」という部分、また不正競争防止法については、18条1項の「国際的な商取引に関して」という文言です。

結論からいうと、OECD贈賄防止条約上も、不正競争防止法上も、「手続を円滑化のみを目的とした『少額の「円滑化のための」支払い(Facilitation Payments)』については、犯罪となりません。
↓経済産業省作成ウェブサイトのQ&AのQ5参照。
http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/zouwai/faq.html

したがって、商取引に関連しない形でインドの公務員に賄賂を渡すのであれば、少なくともOECD贈賄防止条約あるいは不正競争防止法上は犯罪とならないということになります。

上記①、②の類型は、いずれも手続きの円滑化という側面が強く、商取引自体には関連していないのが通常であるため、これらのケースで賄賂を渡しても、日本法上は犯罪にならないものと考えられます。

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「なんだ、だったら大丈夫じゃないか」と思われた方。
ちょっと早いです。

インドでも、公務員に対する贈賄は、一応インド刑法(Indian Penal Code, 1860)上、違法とされており、インド国内の刑法に従って処罰を受ける可能性があります。
とはいえ、賄賂を要求している側の木っ端役人が逮捕されたのをほとんど聞いたことがないので、そのリスクはものすごく低いということなのでしょうが。

いずれにしても、日系企業が、インドの公務員に賄賂を渡す場合、その賄賂による見返りが商取引に関するものである場合には日本法に違反すること、また、商取引に関するものでない場合でも、インド刑法上違法として当局の詮索をうけるリスクは一応ありうることを念頭に置いておいたほうが良いと思います。

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なお、①、②の類型のうち、①については公務員の処理手順の問題であることもあり、渡さないための対応というのはちょっと考えにくいのですが、②については、
(1) 木っ端役人に所属部署、氏名を名乗らせる
(2) 所属部署に連絡して、上司に現状を訴える
(3) それでもとまらない場合、当該部署を所管する中央省庁に連絡する
等の手順を踏むことにより、ぴたりと請求がやむことがあります。

インドはものすごい階級社会なので、特に公務員社会では上司からの命令は効果てきめんなようです。

この際、「命令されなきゃ賄賂要求(もちろん違法行為)がやめられないのか?」という突っ込みは置いておくとして。

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コメント

どこかで聞いたような話ですが(笑)。
①については、袖の下にも関わらず「相場」が存在します。迅速な処理を促すための・・・というより、ルーチンの一部になっているかのような印象ですね。
また、このような支払いは通常現金ですが、何十万ルピーという金額を銀行口座から現金化するに当たっては銀行から「理由」を聞かれます。「木っ端公僕から求められているから」と言いたいところですが、それは表向きの理由にはできないのであれこれ理由をひねり出さねばならず、いちいちストレスが溜まります。なんでこっちが疲れなければならないんでしょうかね??

>まさこの 様

その節は(今でも?)お疲れ様でした(笑)

①については、日本企業から相談を受けたときにいつも困ってしまいます。袖の下とその相場があるとしても、立場上、渡すよう勧めるわけにもいかないんですよね…
コンサルの中では、ルーチンな「必要費用」として顧客に負担を求めているところが多数派のようですが、さすがに弁護士がそれを正面から認めてしまうわけにもいかないので。

だいたい、銀行からの引き出しに理由の説明を求められること自体、よくわからないですよね。
ローンを借りるというならともかく、自分の預金(しかも数十万ルピー程度)を何に使おうが関係ないだろと思うのですが。

投稿: まさこの | 2008年4月 8日 (火) 19時15分

http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/crime/122255/
のブリヂストン賄賂事件のように取り締まられてしまうんでしょうね。

>祐介 様

まさにおっしゃるとおりです。
やはり外国といえども公務員に賄賂を渡すことにはそれなりのリスクが伴うことを、日系企業はもっと認識すべきだと思います。

まあ、インドでの賄賂要求は、ほとんど商取引には関係なく、単に木っ端役人の小遣い稼ぎというにとどまるため、このような形で正面から問題にされるリスクは低いでしょうが。

投稿: 祐介 | 2008年4月 8日 (火) 21時23分

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