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インド会社法解説その26 -会社の清算③-

インド会社法原文リンク
http://www.vakilno1.com/bareacts/companiesact/companiesacts.htm

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今回は、純粋なインド会社法の問題というよりは、会社清算(=撤退に)ついての、インドの労働法および外国為替管理法上の障害について解説します。

会社清算は、それが裁判所清算であれ自主清算であれ、会社という事業体が消滅することを意味するため、それまでその会社で働いていた労働者は失職してしまいます。
インド法上、会社清算に伴う労働者の失職は、会社の側からの解雇とみなされており、したがって会社清算を行う場合、事前に労働者の解雇手続を行う必要があります。

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ここで「労働者」というのは、インド労働法上の「workman」の概念をいいます。
具体的には、1947年インド産業紛争法(Industrial Dispute Act, 1947)第2条により、「workman」は、
「手作業的、非熟練的もしくは熟練的、技術的、作業的、事務的または監督的業務のために雇用された雇用者をいう」
と定義されています。

ただし、
・経営的または管理者的立場(managerial or administrative capacity)にある者
・賃金月額が1600ルピーを超えており、かつ監督者的立場(supervisory)にある者
など、一定の者については、上記「workman」の定義から除外されます。

インドの労働法は、会社の従業員が、この「workman」に該当するか、該当しないか(該当しない者は、「non-workman」と呼ばれることがあります)を厳格に区別しており、前者についてはいわゆる労働者として法律上手厚い保護が与えられる反面、後者についてはほとんど保護が与えられません。

インド労働法の発想として、「workman」については、弱い立場にある労働者として保護すべきとされており、その反面として、「non-workman」については、会社と対等の当事者として、両者間の関係は契約法により規律されるべきとされています。

インド労働法上、会社は、「workman」に対して、賞与支給、退職金支払い、有給休暇の付与等を行うことが義務付けられていますが、「non-workman」については、それらを与えるかどうかは会社と「non-workman」の契約内容次第ということになります。
ただし、実務上は、「non-workman」に対しても、その会社で「workman」に対して与えられるのと同様の待遇をするのが一般的です(つまり、契約により、同じような待遇を合意するということです)。

そうすると、会社の立場から見ると、従業員が「workman」と「non-workman」のいずれにあたるのかの区別は非常に重要となるわけですが、この区別については、必ずしも明確ではありません。
上記「workman」から除外される者の要件のうち、「賃金月額が1600ルピー超」というのは明確な区別基準といえますが、「経営的または管理者的立場(managerial or administrative capacity)」や「監督者的立場(supervisory)」ということになると、その判断はケースバイケースで個別的に行わざるをえない面があるためです。

このあたりは、最近日本でも問題になっている「管理監督者」と通常の従業員の区別の問題に通じるところがあります。
ただ、日本の「管理監督者」の議論と決定的に異なるのは、日本の「管理監督者」は、基本的には労働基準法の保護が受けられるのに対し、インドで「non-workman」であるということになってしまうと、多くの労働関連法の保護対象そのものから外れてしまうという点です。

その意味で、インドにおける「workman」と「non-workman」の区別の問題は、日本の「管理監督者」への該当性への問題よりも深刻な問題であるといえるかもしれません。

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少し話がそれたので、本論に戻ります。

さて、上述のとおり、会社の清算は解雇を伴うため、会社は、「non-workman」との間で契約解除の個別交渉を行うとともに、1947年インド産業紛争法(Industrial Dispute Act, 1947)に基づいて「workman」の解雇手続を行う必要があります。

具体的には、会社清算に伴う解雇日の1ヶ月前までに、雇用している「workman」に対してその旨を予告するとともに、州政府に事前届出を行う必要があります。さらに、1年以上継続して勤務した「workman」に対しては勤続年数に15日分の賃金を乗じた補償金(1年目の給料の15日分+2年目の給料の15日分+3年目の給料の15日分…、という感じで加算して計算します)を支払う必要があります。

さらに、会社が、その事業所、工場等において100人以上の「workman」を雇用している場合、1947年インド産業紛争法(Industrial Dispute Act)上、事業廃止については州政府の事前認可が必要とされます。
「事前届出」ではなく「事前認可」が必要とされている点がポイントです。

さらに、州によっては、事業所、工場等の撤退について認可を必要とする独自の規制が課せられていて、このような場合には事業所、工場等の労働者の数にかかわらず、会社を清算、解散して事業を廃止するためには、州政府の事前認可を取得する必要があります。

で、問題は、州政府は、現地の雇用や税収入の確保の観点から、これらの認可を出すことに消極的であるというところです。
というか、はっきり言って、州政府は、よほどのことがないかぎりこの認可を出しません。

まあ、州政府の気持ちもわからなくはありません
外資系とはいえ、数百人規模で労働者を雇用している会社が、ある日突然清算で消滅してしまったら、雇用、税収という観点から州にダメージになるということは想像はできます。

が、その反面として、現地法人を設立したインド進出企業からすれば、100人以上の労働者を雇用した状態のままでは撤退ができないということで、いくら事業が赤字になっても事業を継続しなければならないという悪夢のような事態に陥ってしまいます。

そのため、実務上は、100人以上の労働者を雇用している現地法人を清算、撤退する場合、労働者の数が100人を割り込むまで、好条件を付した自主退職を募るとの方法が取られることが多いです。
要するに、退職ボーナスを多めに出して自主退職を募り、なんとか従業員数を100人未満にし、上記1947年インド産業紛争法の事前認可規制を回避するということです。

あるいは、会社清算ではなく、株式を合弁相手方その他に譲渡することにより、法人は存続させつつインドから撤退するという方法もあります。

いずれにしても、上記会社清算に伴う労働法上の規制はかなり重要ですので、留意しておく必要があるでしょう。

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労働法対応だけでも大変なのですが、さらに日本企業を含む外国会社の現地法人が清算、撤退を行う場合、インド外国為替管理法上の障害が立ちはだかります。

外国会社の現地法人の撤退の場合、現地の資産を全て処理した後に残る金額を、本国に送金する必要がありますが、この送金についてはインド準備銀行(RBI)の認可が必要となります。

問題は、このインド準備銀行の送金認可がなかなか得られないということ。
債務が残っている場合はもちろん、現地法人について訴訟が係属するなど紛争が生じている場合には、まず認可は出ません。
さらに、何の問題もなくても、送金額が大きい場合、「送金額が多額である」という事実そのものだけで、送金認可が出にくくなるということもあります。

もともと、インド政府の方針として、インド国内の資産の外国流出にはかなり神経質な規制が課せられているのですが、残金の本国送金も資産流出ということで、その金額が億単位である場合には、送金認可はきわめて慎重に出されます。
もちろん、配当の本国送金も資産流出なので、金額が大きい場合には、この送金認可の問題が出てきます(ただ、現時点では、ほぼ全ての日本企業はインド現地法人につき配当を出さずに、利益全額を再投資にまわしているため、あまり問題は表面化していません)。

「清算後残金については、もともと外国企業が外国からインド国内に投資したお金であって、インド固有の資産ではないじゃないか」という抗弁は、この国には通用しません。
基本的に、この国は、「いったん入ってきたお金は出さないよ」という思考方針で動いているため、外国送金の金額が大きければ大きいほど、認可の取得にはものすごい時間と労力が必要になります。

近年、日本側で、対外投資により外国で得た利益の日本還流を容易にする税制改正が提言されましたが、これで日本側の問題が解決するとしても、インド側の問題としてインドからの資金還流はとても難しいことを、インドに進出しようとする日本企業は留意しておく必要があるでしょう。
(ただ、あくまで現時点では、ということであり、10年後くらいには、インド政府の方針変更により、もっと簡単に外国送金、資金還流できるようになっているかもしれません)

いずれにしても、いったんインドに現地法人を設立してしまうと、会社法の問題だけでなく、労働法や外国為替管理法の観点からも、撤退は非常に難しいということを十分に留意しておく必要があると思います。
実際に、撤退許可がなかなか出ず、泣く泣く赤字事業を続けている日系その他外資系企業の噂もちらほらと耳にします。

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次回は会社備置書類の解説です。

この会社備置書類の解説で、インド会社法解説は一応完結ということにします。

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