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インド会社法解説その29 -利益配当-

インド会社法原文リンク
http://www.vakilno1.com/bareacts/companiesact/companiesacts.htm

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長く続いてきたインド会社法解説も、一応今回で最終回です。
ここまで長く続いたことに、本人が一番驚いています。

やっぱり興味のあるテーマはつい色々と調べたくなってしまうものですね。
(一応、本人的には、コーポレート、M&Aが本業なもので…)

さて、今回は利益配当に関する補足解説です。
利益配当は、日本企業が現地法人や合弁会社を設立した場合に、ライセンス料の支払いと並んで主要な投資回収手段となりますが、現時点では日本ではその詳細や問題点があまり認識されていないようなので、今回補足解説でやや詳しく説明しようと思った次第です。

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1 利益配当(中間配当)の限度額および手続

会社は、減価償却が行われた後の利益の範囲で利益配当の宣言(declaration of dividends)および配当の支払いを行うことができます(インド会社法205条1項)。

ただし、株式額面総額の10%を超える金額の配当を宣言する場合、会社はその利益のうち一定の割合を準備金(reserves)に充当する必要があります(同条2A項)。したがって、配当可能利益の額が株式額面総額の10%を超える場合、会社は、利益を全て利益配当に回すということはできないことになります。

利益配当は、取締役会決議を経て、取締役会により株主総会に上程され、株主総会普通決議により承認されます(173条1項)。なお、株主総会は、取締役会が提案した額を超える額を配当として承認することはできません。
利益配当は原則として年1回のみ行うことができます。

一方、上記利益配当に加えて、中間配当(interim dividends)を行うことも可能であるとされています。中間配当は、株主総会決議を経ることなく、取締役会決議のみで決定され、宣言および支払いを行うことができるとされています(205条1A項)。

中間配当は、中間配当の宣言が行われた日から5日以内に中間配当口座に積み立てられた配当資金の中から行われます(同条1B項)。中間配当には、利益配当に適用される限度額の定めその他の規定が準用されるため(同条1C項)、限度額、未払いの場合の対応等は、通常の利益配当と同様です。

利益配当(中間配当を含む)は、会社の定める基準日の時点で株主名簿に登録されている株主に対して支払われ、それ以外の者に支払われることは原則として認められません(206条)。

また、利益配当(中間配当を含む)は、配当として株式自体が割り当てられる場合(bonus shareと呼ばれます)を除き、現金で行われる必要があります(205条3項)。要するに、bonus shareの場合を除いて現物支給は不可ということです。

2 未払い配当の処理

利益配当が宣言されたものの、会社の事務処理の遅れや株主が所在不明である等の理由により、配当の支払いが行われない場合があります。これについて、インド会社法は、未払いの期間に応じて、それぞれ会社の義務を定めています。

まず、配当宣言後30日以内に支払いが行われなかった場合、会社は、30日経過した日から7日以内に、「未払い配当口座(Unpaid Dividend Account)」と呼ばれる未払い配当積立てのための銀行口座に、当該未払い配当額を入金しなければなりません(205A条)。そして、いったん未払い配当口座に積み立てられた配当については、会社は手をつけることができません。

さらに、配当宣言後7年経過したにもかかわらず、株主の所在不明等により配当の支払いが行われなかった場合、会社は、当該未払い配当を、インド中央政府が設立する投資家教育保護基金(Investor Education and Protection Fund)と呼ばれるファンドの口座に移転しなければなりません(205A条5項、205C条)。
投資家教育保護基金の口座に移転された未払い配当金は基金の一部となり、その時点で、当該未払い配当を受け取るべき株主の配当受領権は消滅します。

以上のとおり、インド会社法上では、いったん配当が宣言された金額については、未払いのまま長期間経過したとしても、会社に還元されるということはありません。したがって、配当を宣言したが最後、その配当額が会社に返ってくることはありません

3 利益配当の際の注意点

(1) 課税関係

1961年所得税法(Income Tax Act, 1961)上、配当を受領した株主が配当について所得税を課税されることはありません。
その反面、利益配当を行った会社には、配当行為に対する税金として、配当税(2008年5月現在、法定税率15%(実効税率は16.995%))が課税されます。

つまり、インド所得税法上、株主は非課税で配当を受領することができるとされている反面、配当を行った会社には配当税が課税されることになっています

「でも株主は非課税なんでしょ。だったら、株主(=インドに投資した日本企業)の立場からはその方がいいんじゃないの?」
と思われるかもしれません。

しかしながら、利益配当と配当税の支払いは、会社から見れば同じ原資から行われているため、実質的には株主に対する利益配当に課税されているのと変わりはありません。

たとえば、「減価償却が行われた後の利益」が100万ルピーであるとして、これを単純に全額配当に回してしまうと、16.995%の税金(=16万9950ルピー)の支払い原資がなくなってしまいます。
「配当税支払いによる債務超過」という事態を避けるため、資本金や資本準備金等を取り崩して配当税を支払うことは認められていません。したがって、会社は配当可能額の中から、あらかじめ配当税に支払う分を分けておいてから、配当を行うべきことになります。
上記の例で言えば、100万ルピーのうち、配当を行うのは85万ルピーくらいにしておいて、その16.995%(=約14.45万ルピー)を配当税として取っておく必要があるということです。

これを株主から見れば、本来100万ルピーを配当として受け取れるのに、配当税のために85万ルピーしか配当として受け取れないということで、これは実質的には株主において税金が源泉徴収されているのと同じということになります。

さて、「配当税は株主ではなく会社に対する税金である」、「しかし実質的には株主が税金を負担しているのと同じである」という2つの命題は、以下のような結果に繋がります。

・納税主体はあくまで会社であって株主ではないため、たとえば株主に減税措置が適用される場合であっても、会社に課される配当税が減額されることはない

・日本の親会社(株主)側から見ると、現地法人または合弁会社に課税された配当税は、納税主体があくまで現地法人または合弁会社であって親会社(株主)ではないことから、親会社(株主)側で外国税控除の申請ができず、実質的にインドと日本で二重課税されることになる可能性がある。

特に後者の問題は深刻ですが、この点について、現時点では国税庁から明確な見解は出されていないようです(私が知らないだけで、実は既に通達等が出ていたらごめんなさい)。
個人的には、インドにおける会社に対する配当税は、実質的には株主に対する課税と変わらないことから、外国税控除を認めるとの解釈を取るべきだと考えていますが、国税庁が形式論に立って外国税控除を認めないとの見解をとることも十分ありえます。

(2) 送金関係

日本国内の株主が配当を日本で受領する場合、インド国内から外国への送金となるため、インド外国為替管理法に基づいて、外国送金についてのインド準備銀行(RBI)の承認が必要となる場合があります。

一般的に、インド当局は、多額の外国送金に対する認可を出し渋る傾向があるため(インド国外への資産流出になってしまうためです)、配当額が大きい場合などは、外国送金のところで手続的につまづく可能性があります。

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ということで、インド会社法解説は一応今回で完結です。
蛇足ではありますが、後書きを書く予定です。

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