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インド労働法解説その1 -基本法令-

インド法解説シリーズ、今回からインド労働法に関する解説です。

インドの法律事務所で勤務していたときも、労働法関連の質問はかなり多く受けたので、インドの労務規制および実務については、日本企業の皆さんの関心が高いところではないかと思われます。

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インドにおいて、労働者の権利に関する法律は、インド中央政府と州の双方が立法権限を有するものとされています(インド憲法(Constitution of India)246条および同法別紙7)。

連邦法は州法に優先するため、連邦法が明文で州法による修正を禁じている条項や、連邦法の趣旨から州法で独自の修正を行うことが認められないと解される条項については、州法による修正は認められません。
ただ、実際には、連邦法の内容で修正が認められないものは、「労働者」の定義など全国統一的な解釈が強く要請されるものや、子供の深夜労働禁止など社会的弱者保護が強く要請されるものに限られるため、実質的には州法はかなり自由に連邦法を修正することができます。

そのため、インドの労働法において、連邦法の内容がそのまま適用される州は少なく、多くの場合、州法により連邦法の内容に一定の修正が加えられています。

インドの州は28にも及ぶため、各州の個別的な相違まで解説することは困難であることから、本ブログの会社法解説では、基本的に連邦法に絞って解説していきたいと思います。

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インドの労働および社会保障に関する連邦法は、2008年現在、50程度あると言われています(何をもって「労働および社会保障関係法」と分類するのかの基準がはっきりしないため、正確な数はわかりません)。

その中で、日本でいえば労働基準法にあたる、もっとも基本的な法律は、1947年産業紛争法(Industrial Dispute Act, 1947)です。
同法は、労働法全般の適用対象となる「労働者(workman)」の概念を定めているなど、インドの労働法を概観するにあたって必ず登場する法律です。

その他、日本企業が現地でインド人労働者を雇用するにあたって考慮しなければならない主な連邦法((2)の「店舗及び設備法」のみ州法)は以下のとおりです。

(1) 労使紛争関係
・1947年産業紛争法 (Industrial Disputes Act, 1947)
・1926年労働組合法 (Trade Union Act, 1926)

(2) 労働条件(賃金、退職金等を含む)関係
・1948年工場法 (Factories Act, 1948)
・1946年産業雇用(就業規則)法 (Industrial Employment (Standing Orders) Act, 1946)
・[州名または都市名] 店舗および設備法([  ] Shops and Establishments Act)(州法のため、法律名の前に各州または地域の名称がつく)
・1942年週休法(Weekly Holidays Act, 1942)
・1948年最低賃金法 (Minimum Wages Act, 1948)
・1936年賃金支払法 (Payment of Wages Act, 1936)
・1965年賞与支払法 (Payment of Bonus Act, 1965)
・1972年退職一時金支払法 (Payment of Gratuity Act, 1972)

(3) 社会保障関係
・1948年従業員国家保険法 (Employees’ State Insurance Act, 1948)
・1952年従業員年金基金および雑則法 (Employees’ Provident Funds and Miscellaneous Provisions Act, 1952)
・1923年労働者補償法 (Workmen’s Compensation Act, 1923 )
・1963年私傷(補償保険)法 (Personal Injuries (Compensation Insurance) Act, 1963)

(4) 社会的弱者保護関係
・1976年拘束労働制度(廃止)法 (Bonded Labour System (Abolition) Act, 1976)
・1986年児童労働(禁止および規制)法 (Child Labour (Prohibition and Regulation) Act, 1986)
・1976年均等報酬法(Equal Remuneration Act, 1976)
・1961年産婦便益法(Maternity Benefit Act, 1061)
・1979年州間出稼ぎ労働者(雇用および役務条件)法(Inter-State Migrant Workmen (Regulation of Employment and Conditions of Service) Act, 1979)

(5) 派遣労働
・1970年請負労働(規制および禁止)法 (Contract Labour (Regulation and Abolition) Act, 1970)

(6) その他
・1961年徒弟研修法(Apprentices Act, 1961)
・1988年労働法令(特定事業所に対する報告および登録の免除)法 (Labour Laws (Exemption from furnishing returns and maintaining registers by certain establishment))

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上記以外にも多くの連邦法がありますが、いずれも適用対象が特定の事業分野の労働者であったり、インド政府(または州)への義務付けを定めている法律であるなど、一般にインドに進出する日本企業との関係では関連性が薄いと考えられることから、本ブログでは解説しません。

次回は、これらの法令の適用対象(=法令による保護対象)となる「workman」の定義について解説し、次々回以降、個別の法令の概要について解説していきたいと思います。

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なお、インド労働法については、現在のところ、下記の本が日本語文献として最も詳細に解説してくれています。

「インドへの投資ガイドブック 中小企業経営者のために」 
関西インド研究会 (第一法規)
http://www.daiichihoki.co.jp/dh/product/024059.html

1946年産業雇用(就業規則)法 (Industrial Employment (Standing Orders) Act, 1946)の適用対象についての記載や、労働紛争の解決方法など、一部誤りまたは不適切と思われる記載もありますが、全体としては現在日本にある日本語文献の中では最もわかりやすくまとまっており、インドで労働者を雇用している(あるいは雇用を予定している)日本企業は、買って絶対に損はないと思います。

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インド労働法解説」カテゴリの記事

コメント

先生、


先生にどうしても、知っていただきたいことがありまして、連絡させていただきました。
先生の助けが必要です。

どうしても、インド大使館での現状を知っていただきたいとの思いからです。

インドの食事も、文化も、IT産業なども大好きで、「希望」をもって大使館に入社しました。
が、現状は大らかな私でもびっくりすることの連続です。

実は、これは私が、うっかりしていたことも叱責すべきことなのでしょうが、入社の際、「契約書」らしきものを手渡された記憶がありません。
「入社後、6ヵ月間は休みはありませんのであしからず」と事務の方に言われ、今、現在、7か月目になりました。

6ヵ月も過ぎたのだからと思い、今日、「夏休みを2日間下さい」と紙を提出したところ、「それはできません。1年を満たしてからでないと、『資格』はありません。休みを認められますが、給料は差し引きます」との返事が。そして、これに続き、「あなたは、1年間も満たしていないのに、2日間休みました。ボーナスはそれゆえ、出ません」と釘を刺してきました。

「え?それでは、急病の時や家族が入院したときなどのケースは?そんな場合でも、日割りで給料を差し引くのですか?」と尋ねたところ、「そうです。あなたは、先週、病気で休みました。その分の給料は引かせていただきます」とあっさり答えが返ってきました。

「文句があるのなら、インド政府に言ってください」と言われました。

お給料の件ですが、インド大使館は、どの大使館よりも給料は低く、保険も年金も保障も一切、現地スタッフには提供されません。
大使館の都合で、残業や土日出勤が強制されますが、手当は一切でません。

何故かというと、40年前から給料体制(雇用体制)が変わっていないからです(笑)。

給料が低い理由で、日本人はあまりインド大使館には長く勤められません。日本人の代わりに、日本語を話せない在日フィリピン人が、スタッフの大半を占めています。フィリピン人だと、雇用体制や給料に対して、文句を言わないからです。大使の運転手、ビザ発行人、掃除婦、スタッフ、警備員がすべてフィリピン人で構成されています。

文句を言えないフィリピンの方を利用してか、公私混同で、インド人大使夫妻、外交官が、彼らを12、13万の手当だけを与えて酷使しています。時間外労働に対しても、一切、手当を出しません。

つい先日、6月4日(土)、78歳にもなるご高齢のインド外務大臣が、新築大使館視察に参りました。
そのためのセッティングで、地元の日本人・フィリピン人スタッフは、2,3日前から、ほぼ24時間、駆り出され続けました。水も、弁当も出されない状態で。


「インドは、これから世界をリードする経済大国になるのだ。それに相応しい大使館」をと豪語して、旧大使館を約20億円をかけて、改築しました。「最先端の技術とインテリアを取り入れ、日本とインドとのふさわしい『懸け橋』になる」とのことで、室内はガラス張り、自動エレベータ装備、アコム、最先端のインテリアデザイン、超高級家具などを税金から取り上げています。維持費だけで、改装前は40万だったのが、一気に200万近くになりました。

外部は飾りたてられ、つるんぴかんになりました。しかし、内部はと申しますと。。。日本語を話す外交官さえいません。これが、今のインド外務省の実力の現状です。

インドの政府に、少しでもこの状況を改善してもらいたいです。
インドのカースト制度を、国際的な外交の場である大使館しかも日本人・フィリピン人に対して、持ち出してほしくありません。

お金のことに関して、欲は出したくありません。でも、人間として最低限の労働者権利は守ってほしいのです。
せめて、夏休みぐらいは欲しいです。たった1日ぐらい妹の看病のために休んだからと言って、ボーナスまで取り上げてほしくありません。


他のフィリピンの方は本当にかわいそうです。彼らは、弱みにつけこまれて、労働を搾取されています。
掃除婦の女性らは、ビザを牛耳られている理由でか、給料も未払いだと聞きました。(これは、あくまでも聞いた話で、私が確かめたものではないので、悪しからず)。どうぞ、彼らの痛みや悲しみを知ってください。小さな乳飲み子を抱えた方もいるのです。


インド大使館は、日本の治外法権ということで、労働省には取り扱ってもらえないでしょうか。労働基準法は当てはまらないのでしょうか。

どうぞ、助言を下さい。

佐藤哲






投稿: 佐藤哲 | 2009年7月11日 (土) 19時53分

”すごい”の一言です。

投稿: Manual | 2009年7月28日 (火) 15時30分

>佐藤哲さん
ブログ休止中のため、コメントが遅くなり、失礼しました。

お話を伺う限り、話はインドの労働法というよりは、日本の労働法の問題であると思われます。
大使館といえども、日本国内に存在する以上、雇用関係については日本の労働法が適用されるためです。

したがって、大使館に対しては、日本の労働法に基づいて待遇等の改善を求めるということになるかと思われます。もっとも、ウィーン条約上、外国の大使館に対しては、当該大使館の所在国の法の執行を強制することができないため(裁判で労働法違反に基づく請求等を強制的に執行することができません)、法的手段により強制的に改善を迫るということは難しいかもしれません…

あまりお役に立てないコメントですみません。なんとか状況が改善されることを祈っています。

投稿: kotty | 2009年8月10日 (月) 13時44分

インド大使館で人材を募集とのことですがこの記事を読んで履歴書を送るか迷っています。労働環境や低賃金は改善されないのでしょうか?

投稿: たかし | 2009年9月10日 (木) 00時11分

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