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インド労働法解説その2 -「workman」と「non-workman」-

インド産業紛争法(Industrial Dispute Act, 1947)原文リンク
http://www.vakilno1.com/bareacts/industrialdisputesact/industrialdisputesact.htm

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インド会社法解説その26 -会社の清算③-

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インド労働法の特徴として、会社の従業員が「workman(労働者)」に該当する場合には、各種労働法上の保護規定の適用対象となって手厚い保護が与えられる反面、「workman」に該当しない者(講学上、「non-workman」と呼ばれることが通常です)については、労働法上、「workman」のみを保護対象とする規定(多数あります)の適用対象にならず、したがって保護が限定的になるという点が挙げられます。

インド労働法規制の基本的発想として、「workman」については、弱い立場にある労働者として保護すべきとされており、その反面として、「non-workman」については、会社と対等の当事者として、両者間の関係は通常の契約法(1872年インド契約法(Indian Contract Act, 1872))に基づく契約によって規律されるべきとされています。

そのため、たとえば、100人以上の産業施設について制定が義務付けられる就業規則 (Standing Orders)の適用対象となるのも「workman」のみであり、会社と「non-workman」との間の就業関係の規律は、両者間の契約内容によることになります。
なお、追って解説するとおり、日本と異なり、インドには一般的な就業規則の制定義務はありません

また、次回以降で解説するインドの各種労働法上、会社は、「workman」に対して、賞与支給、退職金支払い、有給休暇の付与などを行うことを義務付けられていますが、「non-workman」については、それらを与えるかどうかは会社と「non-workman」の契約内容次第ということになります。
ただし、実務上は、「non-workman」に対しても、その会社で「workman」に対して与えられるのと同様の待遇を与えるのが一般的です(つまり、契約により、同じような待遇を合意するということです。そうでないと、普通は契約してくれません)。

なお、労働組合については、加入資格が「被雇用者(employee)」とされているため、「workman」、「non-workman」ともに労働組合に加入することは可能です。
(ただし、実際には、経営者側に立つ「non-workman」が、労働組合に加入する例はまれです)

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ということで、インド労働規制を概観するに際し、「workman」と「non-workman」とを区別することは極めて重要になります。

さて、「workman」については、1947年インド産業紛争法(Industrial Dispute Act, 1947)第2条(s)により定義されています。
「non-workman」というのは、「workmanでない者」を表すための便宜的な表現ですので、「workman」の定義を知ることが、そのまま「non-workman」の範囲を知ることになります。

以下、1947年インド産業紛争法(Industrial Dispute Act, 1947)第2条(s)の原文を引用します。

第2条

(s) "workman" means any person (including an apprentice) employed in any industry to do any manual, unskilled, skilled, technical, operational, clerical or supervisory work for hire or reward, whether the terms of employment be express or implied, and for the purposes of any proceeding under this Act in relation to an industrial dispute, includes any such person who has been dismissed, discharged or retrenched in connection with, or as a consequence of, that dispute, or whose dismissal, discharge or retrenchment has led to that dispute, but does not include any such person

(i) who is subject to the Air Force Act, 1950 (45 of 1950), or the Army Act, 1950 (46 of 1950), or the Navy Act, 1957 (62 of 1957); or

(ii) who is employed in the police service or as an officer or other employee of a prison; or

(iii) who is employed mainly in a managerial or administrative capacity; or

(iv) who, being employed in a supervisory capacity, draws wages exceeding one thousand six hundred rupees per mensem or exercises, either by the nature of the duties attached to the office or by reason of the powers vested in him, functions mainly of a managerial nature.

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上記第2条(s)の本文において、「workman」は、

「手作業的、非熟練的もしくは熟練的、技術的、作業的、事務的または監督的業務のために雇用された雇用者をいう」

と定義されています。

この定義では、会社に雇用された者はほぼ全て「workman」に該当することになってしまいそうですが、重要なのは(i)から(iv)まで規定されている例外規定です。

具体的には、
(i) 空軍、陸軍および海軍所属の者(要するに軍人)
(ii) 警察または刑務所に雇用されている者
(iii) 経営的または管理者的立場(managerial or administrative capacity)にある者
(iv) 賃金月額が1600ルピーを超えており、かつ監督者的立場(supervisory)にある者
については、「workman」の定義から除外されます。

上記のうち、(i)と(ii)は、インドに進出する日本企業には通常無関係であるため、重要なのは(iii)と(iv)ということになります。

もっとも、この(iii)と(iv)に該当するかどうかの基準は必ずしも明確ではありません。
(iv)の「賃金月額が1600ルピー超」というのは、客観的な基準であることから明確であるといえますが、「経営的または管理者的立場(managerial or administrative capacity)」や「監督者的立場(supervisory)」ということになると、その判断はケースバイケースで個別的に行わざるをえない面があるためです。

このあたりは、最近日本でもファーストフード店長の事件等で話題になっている「管理監督者」と通常の従業員の区別の問題に通じるところがあります。

ただ、インドの「workman」の区別基準の議論が、日本の「管理監督者」の区別議論と決定的に異なるのは、日本の「管理監督者」は、あくまで労働者の1カテゴリーであって基本的には労働基準法の保護が受けられるのに対し、インドで「non-workman」であるということになってしまうと、多くの労働関連法の保護対象そのものから外れてしまうという点です。
そのため、インド進出企業の立場から見ると、インドにおける「workman」と「non-workman」の区別の問題は、日本の「管理監督者」への該当性への問題よりも深刻な問題であるといえるかもしれません。

「workman」と「non-workman」の具体的な区別基準については、インド当局からガイドライン等も出ていないようであり、基本的には判例の蓄積による判例法に従うということのようです。

私自身、インドで労働法だけを専門的に調べていたというわけではないため、現在のインドにおける議論状況に精通しているというわけではありませんが、区別基準についての一般論を述べれば、特に外国企業においては、インドにおいて雇用した者を「non-workman」として扱うことには慎重であるべきと考えます。
少なくとも、日本の「監理監督者」の概念を、そのまま「non-workman」に当てはめるということはしない方がいいでしょう。

上述の通り、「workman」と「non-workman」との間には、労働法上の保護規定自体の適用が認められるか認められないかという大幅な地位の相違があり、かつインドではいったん労働者と紛争になった場合、労働裁判所での裁判など、非常に手間と時間がかかります。
自社で雇用した者を安易に「non-workman」として扱っていると、「non-workman」扱いされた者が会社相手に労働紛争を起こしてきた際に、非常に大きなダメージを受けることにもなりかねません。

「non-workman」のイメージとしては、「取締役ではないが、その者がいないと会社の経営に重大な支障をきたすような、きわめて重要な役割、職責を担う者」というくらいコンサバティブに考えておいた方が、労務管理上は安全であるといえます。
具体的には、会社の共同設立者だが役員にはなっていない者、インド会社法上のmanagerの地位を有している者、工場長や部長など一定以上の規模の事業部または部門につき裁量的権限を有している者などが、一般にこれに該当すると考えられます。

いずれにしても、雇用した者を「workman」として扱うか「non-workman」として扱うかは、現地の労働専門のコンサルタントの意見も聞いた上で、十分に慎重に判断すべきです。

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次回からは、各法令に基づく規制の各論の解説です。
なるべく早く更新できるよう頑張ります。

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コメント

はじめまして。
昨年より、バンガロール赴任中。現在、インド社の就業規則作成しています。(信じられないことに、設立後10年無かったんです。)workmanの定義は、Manager levelのスタッフの扱いをどうするかについて迷っていました。参考になりました。

私も、この時期、毎日ゴッキーと戦っております。

>キャベツ 様

初めまして、コメントありがとうございます。

>「信じられないことに、設立後10年無かったんです。」

インドではよくある話です(笑)
労働紛争が起こらない間はそれでも別に問題ないんですよね。
結局、規則とか契約とかは、実際に問題や紛争が起こったときのためのリスク管理のためにあるわけで、リスクが現実化しない間は、なくてもそんなに支障がなかったりします。
ただし、リスクが現実化した場合には、場合によっては会社が傾くほどのダメージを受けることになりますが…

バンガロールはデリーやムンバイに比べれば気候が穏やかで過ごしやすいと聞いていますが、それでもゴッキーは出るんですね…
私もさんざん苦労しましたが、日本のホウ酸団子はかなりよく効きましたので、もし日本から取り寄せられるようであれば取り寄せをお勧めします。
ペストコントロールは、ものによっては強すぎて、住んでいる人間の健康に害を与える可能性もあります。

投稿: キャベツ | 2008年9月 4日 (木) 14時14分

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