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2008年9月

Nanoその後

セミナー準備と大学のアサインメントと渡航準備とで死にかけています
留学中にこんなにしんどい思いをするとは思わなかったなあ…

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さて、以前TATAのNanoについて所感を書いたのですが、その後結局TATA Motorsは、西ベンガル州での工場建設を断念したようです。

タタ、低価格車「ナノ」の生産工場を移転  9月25日14時6分配信 産経新聞

インドのタタ自動車が西ベンガル州シングールで進めていた低価格車「ナノ」の生産工場建設が、地元農民らの反対で中断していた問題でタタ自動車は工場建設を断念、同地から撤退を始めた。当初計画通り、10月中の出荷に間に合わせるという。地元メディアが24日、一斉に伝えた。

インドのニュースチャンネルCNN-IBN(電子版)によると、西ベンガル州政府筋もタタ自動車が同州でのプロジェクトを断念したことを認めた。10日前から、別の場所に資材などが移送されている。タタ自動車側も近く移転を発表する見通しだ。

ナノの新工場の場所は明らかにされていないが、関係筋はインド北部のウッタラカンド州には同社の商用車の工場があり、10月半ばには同工場から最初のナノ1000台が出荷されるだろうとしている。ただ、確定はしていない。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080925-00000535-san-int

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撤退は予想通り、という感じです。
訴訟になったら20年裁判の国ですから、その前にさっさと引き揚げるというのはビジネス判断としては正しいと思います。

ただ、撤退決断のタイミングは予想よりも早かったです。
グダグダともめた挙句、出荷開始がいつまでたっても始まらない、という状況になるかと思っていたので。
あっさり生産拠点を他工場に切り替えているあたり、TATAのNano生産にかける本気度が伝わってきます。

とはいえ、従前の分析どおり、現状では「作れば作るほど赤字」という構造からは逃れられないでしょうが…

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それにしても、ニュース引用最後の「ただ、確定はしていない」というのはいかにもインドらしくて良いです。
インドで生活した経験上、インドで確定していないときの予定は200%遅れるので、10月中の出荷は不可能か、数百台程度出荷してお茶を濁すかのどちらかになるような気がします。

仮にこの記事のとおり、1000台を出荷することになったとして、一般家庭用自動車で初期出荷が1000台だけというのもある意味すごいですが。

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10月のインドセミナーのお知らせ

10月頭に日本に一時帰国して、いくつかセミナーを行います。

今のところ、誰でも申込可能なセミナーは以下の2件です。

10月6日(月)
「インド会社法解説」(金融財務研究会主催)
http://www.kinyu.co.jp/cgi-bin/seminar/201903.html

10月8日(水)
「インドにおけるM&Aその2(インドにおける企業買収および公開買付規制)」(海外投融資財団主催。インドの法律事務所であるAmardhand & Mangaldasとのジョイントセミナー)
http://www.kinyu.co.jp/cgi-bin/seminar/201903.html

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会社法セミナーは、JETROに提出した報告書の内容をベースに口頭でわかりやすく説明すること、M&Aセミナーは、主としてインドの公開買付制度を実例とともに解説することを目的としています。

特に、M&Aセミナーについて、インドの公開買付規制を正面から解説するものとしては日本初の試みではないかと思われます(投資銀行等主催の実務面にフォーカスしたセミナーはいくつか例がありますが、法務面にフォーカスしたのは初めてではないでしょうか)。

いずれも、インドに進出する日本企業にとって、それなりに役立つ内容であると思わるため、ご興味があれば是非お申込みください。

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ちなみに、現在、大学の試験が迫っています。
試験勉強とセミナー資料の準備を同時並行で進めており、はっきり言って死にそうです。

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Wall Streetの憂鬱

P9160190_2普段は英語の新聞はあまり読まないのですが、さすがに今日は地下鉄のスタンドでWall Street Jounarlを買いました。
既に破綻したLehmanと並んでAIGの名前が一面に踊っているのが恐ろしいです。AIGも破綻ということになると、いったいどこまで行ってしまうのか想像がつきません。

「リスクを取って高収益を追求する」というビジネスモデルを採っていた金融機関が、「リスクが現実化した」ことにより大きなダメージを被っているというのが、今のアメリカの状況なのではないかと思われます。

恐ろしいのは、現在、世界のどこを見回しても経済が停滞していること。
決して好景気であるとは言えない日本が、相対的には最上位に来るくらい、世界経済は痛めつけられています。
世界不況が到来する可能性はかなり高いように思われます。

「次」に対する警戒と恐れで、NYCとWall Streetは緊迫感に包まれています。

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2回連続でインドと関係ないことを書いているこのブログ(適当なネタがないんですよね…)も、大変なことになっていますが。

あえてリンクさせるなら、インド株も15日(月)に大幅に下落していることくらいでしょうか。
…とってつけた感が否めませんが。

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9・11 in NYC

(今回の話題はインドとは全く関係ありません。興味のない方は読み飛ばしてください)

本日ニューヨークでは9・11の追悼式がありました。

オバマ、マケイン両候補はグラウンド・ゼロにて追悼式に出席し、その後、Columbia大学で「Service Nation Presidential Candidates Forum」と題するフォーラムを個別に開催しました。
このフォーラム、別々に行われるとはいえ、両大統領候補が同じ大学の中でフォーラムを開催するとのことで、NYCはもちろんとして全米的に注目を集めていました。

Columbiaの学生は、フォーラムの聴講を申し込むことができたのですが、大学でも注目度が半端ではないため、競争率が鬼のようになっており、あえなく抽選に外れてしまいました(ちなみに、私の周囲の人も皆外れていました。当たった人いるの?というくらい厳しい倍率だったようです)。
ちなみに、オバマ候補はColumbiaのカレッジの卒業生ということもあり、Columbiaでは人気が高いようです。

大学のメインキャンパスでモニターでフォーラムの様子を見ることもできたらしいのですが、残念ながらそのことを知らずにさっさと帰宅してしまいました。
ああ勿体ない…

それにしても、去年のアハマデネジャド大統領(イラン大統領)の講演といい、Columbiaはすごい時期にすごい人を呼んできますねえ。
こういうところで学べる幸せを噛みしめつつ。

参考(リンク切れ御免)

http://sankei.jp.msn.com/world/america/080912/amr0809120817004-n1.htm

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インドの公開買付規制

インドの公開買付規制について論文を書きました。
近いうちにどこかの法律雑誌で発表する予定です。

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インドの公開買付規制と、日本の金融商品取引法上の公開買付規制との最大の相違点は、インドでは、既存株式の市場外取引のみならず、新株の第三者割当および既存株式の市場内取得についても、単体で公開買付規制の対象となっている点です。

日本でも、2006年12月の証券取引法(現金融商品取引法)の改正により、既存株式の市場外取引との組み合わせでいわゆる急速な買付けに該当すると判断されるものについては、市場内取得および新株発行のいずれも公開買付規制の対象となっています。

しかしながら、インドでは、新株第三者割当および既存株式の市場内取得が単体で公開買付規制の対象となります。

つまり、既存株式の市場外取得はもちろん、
1.新株第三者割当により株式を取得する場合
2.証券取引所で株式を購入する場合
のいずれについても、その取得が公開買付規制の保有比率要件をみたす限り、公開買付規制が適用されることになります。
※ただし、2について、インドの証券取引所で株式を購入できるのは、外国機関投資家(FII)だけなので、普通の日本企業はどのみち証券取引所を通じた株式購入はできません(もっとも、これについてもインド国内の証券会社の自己勘定ルートを通じた迂回手段があったりします)。

これは結構衝撃的なことで、上記1、2がそれぞれ単体で公開買付規制の対象となる結果、インドでは、15%ラインを超えるときに公開買付けを免れることは事実上できません。

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インドにおいて、公開買付規制の根拠となっている法令は、「1992年インド証券取引委員会法(Securities and Exchange Board of India Act, 1992)」 およびその施行規則である「1997年株式の大量取得および公開買付けに関する規則(Securities and Exchange Board of India (Substantial Acquisition of Shares and Takeovers) Regulation, 1997。以下「1997年公開買付規則」といいます)」です。

1997年公開買付規則上、直接的であると間接的であるとを問わず、新株第三者割当または既存株式の市場内取得もしくは相対取引による取得の方法により、上場会社の議決権ある株式 を一定割合以上取得する場合、株式取得者には公開買付義務が課されます(同規則2条1項(k))。

具体的には、以下に該当する場合、株式取得者は公開買付けを行わなければなりません(下線部は私が付けた強調です)。

①単独でまたは共同保有者(person acting in concert) と併せて、上場会社の議決権ある株式の15%以上を取得することになる、新株第三者割当を受けまたは既存株式の市場内取得もしくは相対取引を行う場合(同規則10条)
②単独でまたは共同保有者と併せて、上場会社の15%以上55%未満の議決権ある株式を保有している者が、さらに一事業年度内に5%を超える議決権を取得することになる新株第三者割当を受け、または既存株式の市場内取得もしくは相対取引を行う場合 (同規則11条1項)
③単独でまたは共同保有者と併せて、上場会社の55%以上かつ上場廃止基準(75%または場合により90%) に達しない数の議決権ある株式を保有している者が、追加で議決権ある株式を1つでも取得することになる新株第三者割当を受け、または既存株式の市場内取得もしくは相対取引を行う場合(同規則11条2項)

①について、「15%以上を取得することになる」とは、株式取得後の議決権保有割合が15%以上となる場合という趣旨であり、したがって、たとえば既に14%保有している者が追加で1%取得しようとする場合であっても公開買付規制が課されることになります。

ここで、上述のとおり、インドでは、既存株式の相対取引のみならず、新株の第三者割当および既存株式の市場内取得についても、単体で公開買付規制の対象となっています。このことは、日本企業を含む外国企業がインド上場会社の株式を取得するための、事実上全ての方法が公開買付規制の対象となっていることを意味します。

これと、上記①とを併せ読むと、
「15%以上保有することになる、事実上全ての取得行為が公開買付規制の対象となる」
=「15%以上保有することになる場合、公開買付けを免れる方法は事実上ない
という解釈になるわけです。

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というようなことを連々と書きました(笑)

論文では、公開買付けの具体的手続やスケジュール、その他株式取得上の価格規制等も書いています。
ご興味があれば、探して読んでみてください(一応10月頭くらいまでには発表される…はずです)。

ちなみに、以下はインド証券取引委員会(Securities and Exchange Board of India)のウェブサイトで公表されている1997年公開買付規則の全条文です。
論文と突き合わせて読むと、興味深いかもしれません(とっても疲れますが)。
http://www.sebi.gov.in/acts/act15a.html

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TATAのNano

(文末に一部追記しました)

諸事情により完全に更新が滞っています。

本当は一昨日更新する予定で、発熱でダウンしてしまい、なんとか昨日更新しようとして、急用のためできず、気合いで今日更新しようとして、膨大なリーディングアサインメントの前にやっぱり力尽きてしまいました。

これはもう、神が更新させないようにしているとしか…

と、たかがブログの更新に神を持ち出してきたところで、本題です。

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世界最安値車「ナノ」、生産工場の建設中止 インド経済界にも危機感

(リンク切れ御免)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080901-00000980-san-int

1台10万ルピー(約25万円)という世界で最も安いファミリーカーとして、インドの自動車大手タタが発表した「ナノ」が、インド東部の西ベンガル州での用地買収をめぐるトラブルから生産開始のめどが立たずにいる。州政府が土地の買収を急いだことに地元農民らが反発、相次ぐ抗議デモに31日、工場建設を中断した。10月発売予定が遅れるのは確実で、騒動が長引くことでインドの投資環境への懸念が強まる可能性もある。

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インドは民主主義国家であり、そのこと自体は(独裁国家に比べて)政治的にとても良いことではあるのですが、いざ開発を行おうとした場合、様々な場面でこのような問題が生じてきます。

これが中国やシンガポールのような独裁国家なら、多少の抵抗など力ずくでねじ伏せてしまうのでしょうが、インドではなまじ民主主義を採用している分、政府は手荒なことができません。
その結果、国家プロジェクトレベルの事業でさえ、地元の反発によりこのような中断が生じてしまいます。

こと「発展途上国における経済効率」という観点から言えば、独裁が最も効率が良いわけで(だからこそ「開発独裁」という言葉があるのですが)、下手に民意を尊重してしまうと発展そのものが遅れてしまうのです。
実際、世界の発展途上国で、第2次世界大戦以降に民主主義を保ったまま経済発展できた国はほとんどないといってもいいくらいです。

「経済発展が効率的で生活レベルの上昇も早いが、政治的自由や言論の自由がない独裁の国」
「経済発展が非効率で生活レベルがなかなか上昇しないが、民主主義により国民の自由が保障されている国」

発展途上国の国民にとっては、どちらが良いんでしょうかねえ…

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ちなみに、私自身はNanoの実現性と将来性には懐疑的です。

安全性とか色々問題はありますが、最大の問題は製造コストです。

現在の資源高の状況では、Nanoを作るための鋼板その他の資材だけで赤字になりかねず、インドの安い人件費(これとて実際にはそれほど安くもなかったりするのですが)を計算に入れたとしても、とてもではないですが採算が合うような価格ではありません。

「庶民にも手の届く自動車を!」という心意気は買いますが、現状ではNanoは作れば作るほど赤字にならざるをえないと思います(ただし、将来的に資源価格の高騰が収まれば、なんとか採算分岐点まで持ってこれるかもしれません)。

その意味で、今回の騒動を一番喜んでいるのはTATA Motorsの幹部かもしれません
なんといっても、「自分の責任でなく、Nanoの生産開始を事実上無期限に遅らせられた」わけですから。
意地の悪い見方をすれば、TATAがあえて問題をこじらせている(あるいは問題がこじれる可能性があることをわかっていて、あえて放置した)可能性さえあります。

上記のとおり、民主主義、民意尊重の建前を取っているインドでは、紛争は長引くことが多く、TATAが具体的な解決策(要は追加補償)をとらない限り、下手をすればこれから10年くらい争い続けてもおかしくありません。
そうすると、TATAは、「地元民の抵抗で工場が作れないから…」というエクスキューズをいつまでも使えるわけです。

実際問題として、今回の紛争の解決には、地元民にさらなる補償を行う以外ないわけですが、そうすると当然その追加補償のコストはNanoの価格に跳ね返ってきます。
というか、地元民が暴動を起こすような値段で工場用の土地を買い叩かないと、25万円という価格が維持できなかったという構造が明らかになってしまったわけです。

追加補償を行う場合、どさくさまぎれの値上げ(追加補償分のコスト反映だけでなく、TATA自身が採算をとるための値上げ分を含む)に対するエクスキューズにもなるでしょう。

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赤字になることがわかりきっている自動車を製造する理由の1つとして、私が推測していたのは、「TATAグループは、TATA Motors単体で黒字になろうとは考えていないのではないか」ということでした。

つまり、Nanoは一種の慈善事業として、インドにおけるTATAグループのCSRあるいはプロモーションとして、インド国民の中でのTATAのプレゼンスと評価を高めるために、最初から赤字覚悟で販売するのではないかということです。

ただ、今回の騒動で、「地元民から土地を無理やり安値で買い叩いた上で実現する価格」それ自体に懐疑の念が寄せられ、TATAのレピュテーションにとってかえって逆効果になる可能性があります。

現実的な落とし所としては、「地元民に追加補償するかわりに、Nanoを値上げする」というあたりになるでしょうか。
これも勝手な予想ですが、値上げをする場合、おそらく値上げ後のNanoの値段は15万ルピーから20万ルピー(約38万円から50万円くらい。要は、通常の発展途上国における最低ランクの自動車と同じ値段くらい)になるのではないかと思います。

ただ、その値上げは決して悪いことではありません。
民主主義国家において、国民の権利を尊重した結果実現される価格なのですから。
独裁国家で国民の財産をタダ同然で取り上げ、労働者をこれまたタダ同然でこき使って実現される安値に比べれば、万倍もましです。

値上げ分の中に、どさくさまぎれにTATA自身の採算のための部分も入るであろうことは、まあご愛敬ということで

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(追記)

TATAがNanoを、「ワン・ラック・カー(10万ルピーの車)」として発表したのは2008年1月です。

ところが、2008年のインドのインフレ率は12.4%と、比較可能な統計が存在する1995年以来最も高い水準にあるという状況です。

ソース(リンク切れ御免)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080815-00000817-reu-int

自動車価格がインフレ率に沿って変動するとした場合、単純計算で、2008年9月時点ではNanoの価格は10万8000ルピーになってしまうはずです(10万×12%の2/3がインフレによる自然増加分)。

つまり、現在TATAがNanoを10万ルピーで発売するとしたら、国内のインフレ率を考慮すると、実質的には発表時よりもさらに1割前後低い価格で販売することにほかならず、これは初期の値段設定がギリギリのものであったことを思えば無茶です。

本当にどうするんでしょうね…

ちなみに、wikipediaでは、鋼材価格や原油価格の上昇が、Nanoの懸念材料として挙げられているようです。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%82%BF%E3%83%BB%E3%83%8A%E3%83%8E

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