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日経の社説

円高だ、円高だと喜んでいたら、日経平均株価がひどいことになっていました(10月23日午前10時で、8000円を切りかねない勢いです)。

で、日本経済の現状はどうなっているんだろうと、日経のサイトなどを見ていたら、以下のような社説が。
(ちょっと長いですが、全文引用します)

http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20081022AS1K2200222102008.html

社説2 日印連携で金融危機対応を(10/23)

インドのシン首相が来日し、麻生太郎首相との会談で両国関係の強化や金融危機への対応を含めた地域・国際協力の推進で合意した。

インドは民主主義の大国で、日本とは基本的価値を共有している。関係強化がもたらす戦略的な重要性は大きいが、政治交流が活発になったのは2005年に当時の小泉純一郎首相が訪印してからだ。

今回の会談で毎年の首脳訪問や閣僚レベルの政府間交流を継続し、安全保障や地域協力、地球温暖化対策など幅広い分野で連携を強めることになったのは大きな成果である。

折から世界は米国発の金融危機の嵐に見舞われている。経済規模でアジアのトップの日本と、3位のインドが連携する必要性はかつてなく高まっている。

シン首相は危機克服への貢献に意欲を示し、日本が提案している国際通貨基金(IMF)を通じた新興国向け緊急融資制度への協力にも前向きだ。インドは約3000億ドルと世界4位の外貨準備を抱える。アジアなどの新興国の経済不安を和らげるうえでも、具体化を急ぐべきである。

11億人の人口を抱え、中間層の台頭で内需の割合が高いインドは世界経済の下支え役の期待も大きい。金融危機の波及で株価や通貨が下落しているが、シン首相は「影響は比較的軽い」と言う。米国や中国に重点を置いていた日本企業の新たな海外戦略の焦点にもなっている。

インドに進出する日系企業はこの3年間でほぼ倍増した。直接投資も増えているが、昨年の両国の貿易額は103億ドル。インドの対外貿易の3%弱にとどまる。昨年から始まった経済連携協定(EPA)交渉の早期妥結が求められるゆえんだ。

会談では「EPA交渉の実質的進展を歓迎する」として、早期の締結を目指すことを確認した。両国の貿易や投資構造に厚みを持たせるような実のある協定を期待したい。

インドは原子力分野の協力も要請したが、日本政府は原子力協定の交渉入りを当面見送る方針だ。日本は唯一の被爆国として核不拡散への取り組みを求める義務がある。核拡散防止条約(NPT)に加盟せず、核兵器を保有するインドとの原子力協力には慎重にならざるを得ない。

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日本にいたときから日経の社説には少なからず首をかしげることがあったのですが(もちろん良い記事もたくさんあるのですが…)、これはその類の記事でしょう。

全体として、「今後インドとの関係を深めるべし」という論調には何の異論もないのですが、

>折から世界は米国発の金融危機の嵐に見舞われている。経済規模でアジアのトップの日本と、3位のインドが連携する必要性はかつてなく高まっている。

たとえば、これは無理な注文でしょう。
インドの名目GDPは、10,661億ドル(2007年度:インド政府の発表による)と、当時の順位で世界11位ではありますが、これは10億を超える人口に支えられるところが大きく(要は、人口が多いので、個々の取引が小さくても合計すれば大きくなるということ。中国のGDPが大きくなる理由と似ています)、経済はまだまだ未成熟です。

現在、世界的な金融危機により、新興国と呼ばれる国々からは一斉に資金が引き揚げられており、インドもその例外ではありません。
たとえば、インドの代表的な株価指数であるSENSEXは、この1か月だけを見ても3割下落しており、1年前からは5割下落しています。
http://stock.indochannel.jp/mdata/sensex/lchart_1y.html

まあ、これだけなら、「日経平均だって年初から5割近く下落しているじゃないか!」ということになるのでしょうが、問題は通貨ルピーの価値も同時に落ちているところです。
たとえば、実際に日経自身が、10月22日の記事で以下のように伝えています。

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http://www.nikkei.co.jp/news/main/20081022AT2M2202X22102008.html
アジア主要通貨、対ドルで下落 インドルピー最安値
【香港=吉田渉】22日のアジア外国為替市場で、主要通貨が対米ドルで下落した。特に韓国ウォン、インドルピーの下落が目立った。欧米の景気悪化を受け投資資金のリスク許容度が低下しており、財政が悪化している国・地域からの資金流出が加速している。(中略)
インドルピーは一時1ドル=49.50ルピーに近付き、対ドルでの最安値を更新した。インド準備銀行(中央銀行)がドル売り介入を実施しているもようだが、株式市場では業績への懸念が強まっているIT産業などからの資金流出が続いている。 (22:44)

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この「通貨安を食い止めるために、中央銀行がドル売り介入を実施している」というのは、典型的な経済基盤が脆弱な新興国の対応であり、売れるドルがなくなった国から順にIMFに駆け込んでいるというのが現状です。
(今のところ、ウクライナ、ベラルーシ、パキスタンの順ですが、これにハンガリー、アイスランドあたりも加わり、最終的に駆け込む国の数がどの程度になるかは、現状、予想すら立ちません)

インドと同時に報じられている韓国は、GDPの規模はインドよりも少し小さい(2007年の順位で12位)ですが、人口が5000万人弱ということを考えると、インドよりもはるかに経済基盤はしっかりしていると言ってもいいでしょう(あくまで比較論的に、ですが)。
その韓国でさえ、現時点で通貨危機の危険にみまわれているのです。

当然、インドに「日本と組んで金融危機に対応する」余裕などなく、下手をするとインド自身がIMF行きになってもおかしくありません
インドは日本と同じく資源国ではないため、主要資源を輸入に頼るほかなく、現在の混乱が長く続けば、デフォルト寸前まで追い込まれる可能性はゼロではないでしょう。

アジアで、「日本と組んで金融危機に対応する」ことができる可能性があるのは中国だけですが、中国のダメージも相当に深いため(上海株価指数は7割以上下落しており、中国でも不動産バブルがはじけています)、今は他の国を助けている余裕などないでしょう。

要するに、日経の「経済規模でアジアのトップの日本と、3位のインドが連携する必要性はかつてなく高まっている」というのは、インドの現状を見ていない無意味な発言と言わざるをえません。
両者が金融危機に何らかの形で「協力」して対応することがありうるとすれば、それは日本による一方的な援助という形をとることになると思われますが、これは普通「連携」とは言わないでしょう。

>シン首相は危機克服への貢献に意欲を示し、日本が提案している国際通貨基金(IMF)を通じた新興国向け緊急融資制度への協力にも前向きだ。インドは約3000億ドルと世界4位の外貨準備を抱える。アジアなどの新興国の経済不安を和らげるうえでも、具体化を急ぐべきである。

上に書いたとおり、現状では、インド自身がIMF行きになってもおかしくないのです。

また、インドの外貨準備高にしても、その中身が問題です。
外貨準備差高の投資先として、米国債を買っていたのか、それともリスクの高い証券(たとえば、フレディマックやファニーメイの証券など)に投資していたのかがわからない以上(後者なら、事実上外貨準備高は張り子の虎です)、これを過信すべきではないでしょう。

ちなみに、2008年7月現在の米国債の保有国ランキングは以下のとおりです(数字の単位は10億ドル)。ランキングに入っていないことから、インドがほとんど米国債を保有していないことは明らかです。

Japan                    593.4   
China, Mainland        518.7   
United Kingdom        290.8   
Oil Exporters          173.9
Brazil                 148.4   
Carib Bnkng Ctrs     147.7
Luxembourg            75.8
Russia                   74.1
Hong Kong           60.6
Switzerland            45.1
Taiwan                 42.3
Norway              41.8
Germany               41.1
Mexico                36.0
Korea               35.3
Turkey                  32.4   
Thailand                31.8
Singapore               31.4      

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続いて、

>11億人の人口を抱え、中間層の台頭で内需の割合が高いインドは世界経済の下支え役の期待も大きい。金融危機の波及で株価や通貨が下落しているが、シン首相は「影響は比較的軽い」と言う。米国や中国に重点を置いていた日本企業の新たな海外戦略の焦点にもなっている。

「影響は比較的軽」くありません。
金融危機の前に続いた資源高と、その後の金融危機による外国資本の引き上げとで、インド経済は激しいダメージを受けています。

まあ、シン首相としては対外的にはそう言うしかないのでしょうが(「危険ですよ~」、とか言っちゃったら投資が来なくなくなります)、それを真に受けるのはまずいでしょう。

>インドに進出する日系企業はこの3年間でほぼ倍増した。直接投資も増えているが、昨年の両国の貿易額は103億ドル。インドの対外貿易の3%弱にとどまる。昨年から始まった経済連携協定(EPA)交渉の早期妥結が求められるゆえんだ。
>会談では「EPA交渉の実質的進展を歓迎する」として、早期の締結を目指すことを確認した。両国の貿易や投資構造に厚みを持たせるような実のある協定を期待したい。

これは一定の意味はあると思います。

現在、インドでは外国の工業製品に豪快な金額の関税がかけられており(たとえば、自動車には100%の関税がかかっています)、これが撤廃されるなら日本にとってのメリットは大きいでしょう。

が、選挙を控えたインド政府が、インドの中小企業の大量倒産を招きかねない関税撤廃に本気で取り組むかどうかは、ものすごく怪しいと言わざるを得ません。
日本はインドから輸入する必要があるものはほとんどないので、EPAの内容はきわめて日本側に有利になることが予想されますが、「相手方に有利なものを急いで締結する」というのは、インド人の気性からして120%ありえないと断言できます。

それこそ、「原子力で協力してくれたら、EPAを締結する」として、原子力分野での協力を交渉カードとして使ってくる可能性もあります。
資源国でなく、かつ核保有国であるインドにとって、日本の原子力発電技術は喉から手が出るほどほしい技術でしょうから。

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ということで、少し長くなりましたが、あまりにも日経の社説がインドの現状を見据えていないことから、懸念+批判をしてみました。

日経は、近年、従前中国への投資を煽ったのと同様に、インドへの投資も煽っていますが、この程度の現状分析で盲目的に煽ってもらっては本当に困ります。
今回の記事だけでなく、これまでの日経のインド関係の記事全体にそういう傾向が見受けられます

インドは、外資にとって決して容易な環境ではありません。
外国直接投資規制そのものは緩和された内容となっていますが、そのことと「現実に進出して上手くいくかどうか」とは別問題です。
実際に進出したら、規制面、文化面で大きな摩擦が生じることは、既に多くのインドに進出した日本企業が経験しているところです。

日印の友好、協力関係を深めることは、今後とも必要ですが、ぜひとも日経には、「正確な取材と現状分析に基づく的確な提言」をお願いしたいところです。

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(追記)

今回の記事の目的は、インドの現状を正しく分析することにあり、日経を批判することは主眼ではありません。

たまたまネットを検索していて日経の社説が目についたため、それに対する反論という形で論を展開したことから日経批判の形になっていますが、日経以外のマスコミの認識も大同小異でしょう。

とにかく、マスコミには、インド投資を無批判に煽ることだけはやめてほしいと思います。
中国のときの二の舞にならないためにも。

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