« アメリカ大統領選挙 | トップページ | みなし公開会社規制解説その4 »

みなし公開会社規制解説その3

インド会社法4条7項但書は、みなし公開会社規制の例外として、「非公開会社でない会社の子会社である非公開会社」の株式が、単独または複数の外国会社により100%保有されていれば(if the entire share capital in that private company is not held by that body corporate whether alone or together with one or more other bodies corporate incorporated outside India)、当該会社は非公開会社として扱われる旨を定めています。

ところが、同時にインド会社法12条1項は、非公開会社の最低株主数を2人以上と定めています。
(そのため、インド会社法上、形式的な100%子会社というものは存在しません

そうすると、「外国会社が単独で100%株式を保有する」という要件は、みたしようがないことになってしまいます。
上記の英語原文の文言でいうと、「alone」や「one」という部分がみたされることはありえないということです。

これが具体的に問題となる典型的なケースは、日本の中小企業がインドに現地法人(単体で非公開会社の要件をみたす)を設立する場合です。

当該中小企業が日本国内あるいはシンガポールや香港あたりに子会社を持っていれば、子会社にも現地法人株式を保有させることにより、形式的に「株主2人」との要件をみたすことができます。
一方、子会社や関連会社を持っていない会社の場合、株主となりうる「外国会社」が当該中小企業自身以外には存在せず、したがってやむをえず個人を株主にするということがあります。

たとえば、現地法人について、その株式合計10,000 株のうち、9,999 株を日本企業が、残り1株を個人株主(当該日本企業の代表取締役、現地駐在員取締役など)が保有した場合、形式的には、「単独または複数の外国会社(a body corporate incorporated outside India)による100%保有」という要件をみたしていません。
条文の文言上は、株主は外国「会社(body corporate)」である必要があり、外国「個人」では要件をみたさないためです。

--

このような、「非公開会社の最低株主数要件をみたすために、外国個人に1株(あるいはそれに準ずるわずかな株数)を保有させた」場合に、設立された現地法人(インド内国会社)が公開会社、非公開会社のいずれとして扱われるかについては、インド人弁護士の間でも見解が分かれています。

具体的には、以下の2つの見解があります。

①このような場合は「外国会社による100%保有」という形式的要件をみたさないため、4条7項但書の適用対象とはならない(=したがって、みなし公開会社規制の適用を受ける)

②このような場合、外国個人の保有は「株主2人以上」という非公開会社の最低株主数要件をみたすためだけに形式的に保有していることが明らかであり、4条7項但書の趣旨(=外国会社への過重規制防止など)に反しないことから、同条項但書の適用対象となる

①は条文の文言に忠実な解釈、②は具体的妥当性の見地からの実質的解釈であるといえます。
(ちなみに、あずさ監査法人/KPMGの「インドの投資・会計・税務ガイドブック」(第2版)の文末Q&Aによれば、あずさ監査法人/KPMGは①の立場をとっているようです)

この点について、インドにおける著名な会社法の逐条解説書(日本で言うと「注釈会社法」的な割と権威ある会社法注釈書)である、「Guide to the Companies Act」(Sixteenth Edition 2004 (2008年11月現在、最も新しい版))(A. Ramaiya著、Wadhwa and Company Nagpur発行)のPart1の126頁では、

「たとえ1株であっても外国会社(a body corporate incorporated outside India)以外の者が株式を保有した場合、当該インド内国会社については、4条7項但書の例外規定は適用されず、したがってみなし公開会社となる」

として、①の立場の見解が示されています。
この見解に従えば、個人あるいは外国会社以外の会社(=他のインド内国会社)に1株でも株式を保有されたインド内国会社は、4条7項本文に従ってみなし公開会社となることになります。

その一方で、実務家の間では、上記のようなケースでは個人株主は最低株主数の人数合わせのためだけに株主となったことが明白であり、実質的には日本企業(すなわち外国会社)が100%株主であることが明らかであること、また4条7項の立法の趣旨を踏まえ、このような場合には当該内国会社には4条7項但書が適用されるとして、②の立場の見解も有力です。

--

上記見解の対立を踏まえた上で、私自身は②の見解が妥当だと考えています。
理由は以下の通りです。

1 立法意思の解釈

非公開会社の最低株主数が2人なので、4条7項但書の「if the entire share capital in that private company is not held by that body corporate whether alone or together with one or more other bodies corporate incorporated outside India」という要件のうち、「alone」や「one」という要件が形式的にみたされることはありえない。

そもそも、4条7項但書がインド会社法に設けられたのは1960年の改正の際であるが、上記文言が、非公開会社の最低株主数を踏まえていたとすれば「alone」、「one」かどうかは実質的に見るとの趣旨で改正されたと考えられるし、もし非公開会社の最低株主数を踏まえていなかったとすれば、立法のミス(条文間の整合性の調整ミス)である。

前者であれば、「非公開会社の最低株主数要件をみたすために、外国会社が9999株、外国個人が1株持っているような場合」は、典型的な、「実質的に『alone』かつ『one』の要件を満たす場合」であり、4条7項但書の要件をみたすといえる。
この際、外国個人が外国会社のために名目的株主(Nominal Shareholder)になっていれば、なお実質的要件をみたすと考えられる(この話は、次回解説します)。

後者であれば、改正の趣旨にさかのぼることになる。
1960年改正で4条7項が新たに設けられた趣旨は、公開会社が非公開会社を設立して、非公開会社の隠れ蓑のもとに公開会社に適用される厳格なコンプライアンス規定を潜脱することを防止する点にある。
また、その際に同時に但書が設けられたのは、4条6項により、外国会社についても、インド国内で設立されたと仮定されて公開会社性が判定される結果、外国会社の現地法人が全てみなし公開会社として過重なコンプライアンス規定の適用を受けるのを防止する点にある。

4条7項の目的は、あくまで「インド国内の会社が、インド国内に非公開子会社を設立してコンプライアンス規定を潜脱することを防止する」ことにある。すなわち、国内での二段(あるいは多段)構造を規制するのが目的であって、外国会社がインドに子会社を設立するという構造(インド国内では一段構造)を規制する趣旨ではない。
そのため、4条7項に但書が設けられた。

もっとも、もし単純に「外国会社の子会社であればみなし公開会社規制は適用されない」としてしまうと、インド内国資本がその規定を通じて非公開会社の隠れ蓑を利用する可能性がある(たとえば、外国会社と組んで、外国会社50.1%、インド内国資本49.9%という出資割合にして事業を行うなど)。
そこで、例外の適用対象を、外国資本100%に限定したものと思われる。

2 問題事案の不存在

実際に、実務上は、上記のようなケースでも②の見解に基づいて非公開会社として設立、運営されている会社が多いが、会社登記局(Registrar of Company)において登記拒否された話は聞かれない。
また、インド企業省(Mnistry of Corporate Affairs)から問題を指摘されたという話も聞かれない。

--

現時点では、この点についての当局による明確な解釈指針や判例は存在しておらず、公式な解釈は確立していません。

もっとも、実際に、上記のようなケースにおいて、②の解釈に従って非公開会社として設立、運営されている外国会社の子会社が多数にのぼっており(ちなみに、私自身は少なくとも3つの会社の登記簿謄本を確認しています)、いずれも問題なく会社設立登記できていることからすれば、今後も②の解釈に基づいて会社を非公開会社として設立、運営することが、会社登記局その他の当局により違法とみなされるリスクは低いように思われます。

--

なお、今回取り上げた、「非公開会社の最低株主数要件をみたすために、外国個人に1株(あるいはそれに準ずるわずかな株数)を保有させた」場合において、当局により非公開会社としての設立、運営が違法とみなされるリスクをさらに軽減する方法として、名目的株主(nominal shareholder)制度を利用する方法があります。

次回は、この点について解説したいと思います。

|

« アメリカ大統領選挙 | トップページ | みなし公開会社規制解説その4 »

インド会社法解説」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/448933/24888624

この記事へのトラックバック一覧です: みなし公開会社規制解説その3:

« アメリカ大統領選挙 | トップページ | みなし公開会社規制解説その4 »