« みなし公開会社規制解説その3 | トップページ | インド外資規制解説 -2008年10月10日付けでSSI品目が21品目に- »

みなし公開会社規制解説その4

前回解説したとおり、「非公開会社の最低株主数要件をみたすために、外国個人に1株(あるいはそれに準ずるわずかな株数)を保有させた」場合にもインド会社法4条7項但書が適用されるのかどうかについて、現時点では、この点についての当局による明確な解釈指針や判例は存在しておらず、公式な解釈は確立していません。

すなわち、株式合計10,000 株のうち9,999 株を外国企業が、残り1株を外国個人株主が保有するとの株主構成をとった上で、外国会社の子会社を非公開会社として設立、運営した場合、当局により違法とみなされるリスクがあるということです。

そこで、このリスクを軽減する方法として、名目的株主(nominal shareholder)制度を利用することが考えられています。
あくまで、「リスクの軽減」であり、「名目的株主を利用すれば問題がなくなる」というものではありません。リスクをゼロにしたいのであれば、株主を全て外国「会社」にするしかありません)

--

名目的株主(nominal shareholderあるいはnominee)とは、インド会社法特有の概念であり、「ある株主が、会社に対し、他の第三者(必ずしも株主である必要はありません)に会社から利益を受ける権利(beneficial interest。以下、説明の便宜上「受益権」といい、受益権を受ける人のことを「受益者」といいます)を与えることを宣言した場合の、当該宣言した株主」のことをいいます(インド会社法187C条)。

名目的株主は、受益者に対し、会社から利益を受ける権利(利益配当や残余財産分配請求権など)を与えることができますが、会社の経営に参与する権利(株主総会での議決権、少数株主権など)を与えることはできません。

すなわち、「9,999 株外国企業保有、1株を外国個人株主保有」のケースにおいて、1株を保有している外国個人株主が外国企業のために名目的株主になったとしても、それにより外国個人は外国企業(受益者)に対して現地法人の利益配当を受け取る権利等を与えることはできますが、株主総会における議決権や少数株主権を与えることはできません。
(なお、別途Proxyを出せば、代理人として議決権行使権限を与えることは可能です。「名目的株主の制度」として、議決権等を与えることはできないということです)

したがって、名目的株主は、株主総会における議決権を有しており、また定足数にもカウントされます。その反面、受益者は、受益権を根拠として株主総会で議決権を行使したり、また少数株主権を行使することはできません。
たとえば、名目的株主が70%の株式を保有しているとして、その受益権を全て受益者に与えたとしても、当該受益者が株主総会に出席して70%分の議決権を行使するということなどはできないということです。

さて、名目的株主になるためには、法令で定められた手続を踏む必要があり、勝手に「今日から名目的株主になります」と決めることなどはできません。

具体的には、名目的株主になるためには、「名目的株主の宣言(Declaration)」を行う必要があります。

名目的株主の宣言の方法については、インド会社法187C条および同条を受けた「1975年会社(会社の受益権の宣言)規則(Companies (Declaration of Beneficial Interest in Shares) Rules, 1975)」に定められています。

同規則3条によれば、名目的株主の宣言およびそれに伴う受益権の授与を行うためには、以下の手続を全て履行することが必要とされています。
①名目的株主となる者(受益権を受益者に与える者)が、受益権を受益者に与えた日から30日以内に、同規則のForm1により、その旨を会社に届け出ること
②受益権を与えられた者が、受益権を与えられた日から30日以内に、同規則のForm2により、その旨を会社に届け出ること
③会社が、上記①、②の届出を受けた日(いずれか遅い日)から30日以内に、会社登記局(Registrar of Company)に対して、①、②の届出を受けたことの報告を行うこと

--

さて、では、なぜ名目的株主を利用することが、「株式合計10,000 株のうち9,999 株を外国企業が、残り1株を外国個人株主が保有するとの株主構成をとった上で、外国会社の子会社を非公開会社として設立、運営した場合」の違法リスクを軽減することにつながるのでしょうか。

前回解説したとおり、多くのインド人実務家が、「上記のような株主構成をとった場合には、インド会社法4条7項但書が適用され、当該外国子会社につきみなし公開会社規制はかからない」との見解をとっている理由の1つには、このような場合には、「外国個人の保有は『株主2人以上』という非公開会社の最低株主数要件をみたすためだけに形式的に保有していることが明らかである」ということが挙げられます。

そして、上に説明したとおり、名目的株主は、受益権の面から見れば、受益者のために名目的、形式的に株主になっているといえます(議決権等、共益権の面から見れば、通常の株主である点に注意!)。

そこで、この「名目性」、「形式性」をさらに強調することにより、「実質的に外国企業の単独(aloneかつone)株主である」ということの協調のために、名目的株主を利用するとの考え方があります。
すなわち、1株保有の外国個人株主において、9,999株保有の外国企業のために名目的株主となることを宣言することにより、「実質は外国企業の100%保有である」ことを強調するのです。

--

この考え方は、理論的にはそれなりの説得力があり、かつ結論も妥当です。

しかしながら、名目的株主は会社との関係ではあくまでも株主である(実際、議決権も留保している)ことから、上記方法をとったとしても1株保有の個人株主が存在することには変わりなく、したがってこれについてみなし公開会社規制の例外規定を適用することは、インド会社法4条7項但書の文言に形式的には反しています。

そのため、繰り返しますが、上記名目的株主を利用する方法は、あくまで違法リスクを軽減するにとどまり、「名目的株主を利用すれば問題がなくなる」というものではないことに注意が必要です

実際、「9,999 株外国企業保有、1株を外国個人株主保有」のケースにおいて、外国個人株主を通常の株主のままにしておく場合と、名目的株主にする場合との間に、大きなリスクの差はないという考えも有力です。
名目的株主を利用した場合であっても、形式的に個人株主が存在することには変わりなく、したがってインド会社法4条7項但書の要件を形式的にみたしていないことには変わりはないためです。

根本的問題として、「みなし公開会社規制の外国会社子会社に対する例外適用の場面において、4条7項但書の『alone』や『one』を実質的に解釈してよいか?」という論点があり、名目的株主の利用は、その論点において肯定的な立場をとった場合における派生的な論点でしかありません。

前回述べたとおり、そもそも、現状、上記根本的問題についてインド企業省(Ministry of Corporate Affairs)や会社登記局(Registrar of Company)といったインド当局による明確な解釈指針や判例は存在しておらず、公式な解釈は確立していません。
そのため、(当然ですが)派生的論点である名目的株主の利用についても、インド当局から何らかの見解が示されているわけではありません。

よって、本当に名目的株主を利用すればインド当局から違法性を指摘されることはないのかという点については、現時点では明確ではないということに注意する必要があります。

一応、外国会社の子会社を非公開会社として設立するケース自体において、これまでにインド当局が違法性を指摘したり、あるいは登記が拒否された事例もまた存在しない(少なくとも、広く知られている事案は存在しません)ため、名目的株主を利用したケースにおいて違法性が指摘されたという例もありません。

しかしながら、今後、インド当局が、インド会社法4条7項但書の形式的文言を重視して、外国個人株主(通常株主であると名目的株主であるとを問わない)の株式保有を理由に、外国子会社の非公開会社としての設立、運営を違法とみなす可能性も完全には否定できません。

--

総括すると、

・「9,999 株外国企業保有、1株を外国個人株主保有」のケースにおいて、外国個人株主を外国企業のための名目的株主にする場合、通常株主のままにしておくよりは、違法リスクは軽減すると考えられている。

・しかし、そのリスクの軽減がどの程度か、そもそも当初のリスクはどの程度あるのかについては明確ではない。

・ただ、これまでのインド当局の対応を見る限り、当初リスクはそれほど大きくないと想定できる。名目的株主を利用した場合、リスクは(具体的な程度は不明ながら)さらに軽減すると思われる。

・もっとも、今後、インド当局が、インド会社法4条7項の形式的文言を重視して、外国個人株主が通常株主であれ名目的株主であれ、当該外国個人株主の株式保有を理由に、外国子会社の非公開会社としての設立、運営を違法とみなす可能性も完全には否定できない

ということになるかと思われます。

ということで、もしインドに現地法人を非公開会社として設立することを検討されている日本企業の方が、みなし公開会社規制に関する違法リスクをゼロにしたいのであれば、個人ではなく、他の外国子会社に1株(あるいはそれに準ずる少数の株式)を保有させることをお勧めいたします

--

次回は、みなし公開会社規制における「非公開会社でない会社の子会社」の該当性判断においての「子会社」の概念の解説です。

|

« みなし公開会社規制解説その3 | トップページ | インド外資規制解説 -2008年10月10日付けでSSI品目が21品目に- »

インド会社法解説」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/448933/25248245

この記事へのトラックバック一覧です: みなし公開会社規制解説その4:

« みなし公開会社規制解説その3 | トップページ | インド外資規制解説 -2008年10月10日付けでSSI品目が21品目に- »