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みなし公開会社規制解説その9

今回はみなし公開会社規制解説の最終回です。

前回を書いたのがあまりにも前過ぎて、書いた本人もどこまで書いたかすっかり忘れていたのは秘密です。

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さて、前回までは、「みなし公開会社規制とは何か」、「どのような場合に適用されるのか」、「適用を回避する方法にはどのようなものがあるか」について解説してきたわけですが、今回は、「みなし公開会社規制が適用された場合、どのような効果が生じるのか」について解説したいと思います。

インド企業(それ自体公開会社)の出資比率が過半数を超えている日印合弁会社など、みなし公開会社規制が不可避的に適用されてしまう場面において、当該会社はどのように扱われるのでしょうか。

もう少し具体的にいうと、みなし公開会社は、

①「公開会社そのもの(=公開会社として設立、組織運営をしなければならない)

②「非公開会社だが公開会社のコンプライアンスが適用される会社(=非公開会社として設立、組織運営可能)

のいずれとして扱われるのでしょうか。

この点について、みなし公開会社規制の根拠条文であるインド会社法3条1項(iv)は、以下のとおり規定しています。

(iv) "public company" means a company which-
(a) is not a private company;
(b) has a minimum paid-up capital of five lakh rupees or such higher paid-up capital, as may be prescribed;
(c) is a private company which is a subsidiary of a company which is not a private company.

上記規定(特に(c))を素直に読めば、、「public company(=公開会社)」とは「private company which is a subsidiary of a company which is not a private company(=非公開会社でない会社の子会社である非公開会社)」を意味する、というのですから、みなし公開会社は公開会社そのものであるという上記①の考え方が正しいように思われます

しかしながら、実際にインド会社法の条文を見てみると、「public company(=公開会社)」と、「private company which is a subsidiary of a company which is not a private company(=非公開会社でない会社の子会社である非公開会社)」とを並列的に記載している条文が多数見られます。

数が多すぎて全部を列挙することはできませんが、ざっと挙げただけでも、77条2項90条のExplanation(条文の説明部分。この部分自体も法律の一部)、170条1項(i)198条1項255条1項など、非公開会社に対するコンプライアンス規定の除外を定めた条文のほとんどにおいて、両者は並列的に記載されています。

もし、「private company which is a subsidiary of a company which is not a private company」が、「public company」そのものであれば、両者を並列的に記載する必要などなく、一言「public company」とだけ書いておけば済む話ですので、併記されている=区別されているということで、インド会社法は「private company which is a subsidiary of a company which is not a private company」は「public company」そのものではないと考えているというふうにも読めます。

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そもそも、なぜ、みなし公開会社が①「公開会社そのもの」なのか、②「非公開会社だが公開会社のコンプライアンスが適用される会社」なのかの区別が重要なのでしょうか。

それは、インド会社法上、公開会社と非公開会社では、求められる組織構成や登記内容が異なるためです。

具体的には、たとえば公開会社では最低株主数は7人ですが、非公開会社では2人です。また、公開会社の最低取締役数は3人ですが、非公開会社では2人です。さらに、公開会社(一定要件をみたすもの)には監査委員会の設置義務があるなど、組織の設置義務についても相違があります。
登記についても、商号をはじめとして(private limitedかlimitedか)、公開会社と非公開会社ではその内容が異なってきます。

そのため、みなし公開会社が、「公開会社」なのか、「非公開会社だが公開会社と同様のコンプライアンスを求められる会社」なのかは、とても重要になります。
前者なら、株主を7人集め、取締役を3人以上選任して、公開会社として設立、登記、運営する必要がある一方、後者なら、株主は2人、取締役も2人でよく、非公開会社として設立、登記できる(ただし、運営は公開会社のコンプライアンスに従う)ためです。

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では、インド会社法上、みなし公開会社が①「公開会社そのもの」なのか、②「非公開会社だが公開会社のコンプライアンスが適用される会社」なのかについて、いったいどのように解されているのでしょうか。

実は、この点については、判例や政府当局による明確な見解等が存在せず、はっきりしません。

インド国内の弁護士や会計士でさえ、事務所ごとに見解が違っており、「非公開会社として設立してOK」とアドバイスしている事務所もあれば、「公開会社として設立しなければならない」とアドバイスしている事務所もあります。
(ちなみに、こういう、「同じ問題について、専門家ごとに言っていることが違う」というのは、インドで法務に携わる人が日々悩まされていることだったりします)

このように専門家の見解が分かれている理由の根本は、まさに上記で説明した、インド会社法の規定自体の矛盾(=定義部分では、みなし公開会社=公開会社そのもの、という規定をしておきながら、その他の部分ではみなし公開会社と公開会社を区別しているという一貫性のなさ)にあります。

個人的には、この矛盾は、現在のようなみなし公開会社の概念を導入した2000年改正の際の立法の不備(改正の際に、みなし公開会社の法的位置づけについて、法全体としての一貫性、整合性をきちんととらなかった)ではないかと思っています。
だからこそ、そのような不備のある法律の文言を根拠に議論をすることは、ある意味不毛ともいえるでしょう。

一応、直接の判例や通達等はないにしても、当局の姿勢を示すヒントになる事案はいくつかあるようです。

その1つとして挙げられるのが、Hillcrest Reality Sdn. Bhd. v. Hotel Queen Road Private Limited(2006)という、インドにおける会社法関係の審判機関(※)である、Company Law Boardでの審判において判断が示された事件です。
(※インドでは、一定の専門性を有する事件については、審判のための行政機関(準司法機関)が第一審の専属的管轄権を持っており、Company Law Boardはそのうちの1つです)

同事件において、Company Law Boardは、「非公開会社としての基本的性質を考慮すれば、たとえ当該非公開会社がみなし公開会社に該当する場合であっても、当該会社において株式譲渡制限を行うことは可能である」との判断を示しています。

インド会社法111A条により、公開会社においては、株式譲渡は自由でなければならないとされており(たとえ定款に株式譲渡を制限する規定があっても、その規定は株主に対抗できない)、したがって公開会社では株式譲渡制限ができません。
しかしながら、上記事件では、Company Law Boardが、「みなし公開会社であっても、非公開会社であることに変わりはないのだから、株式譲渡制限は可能」との判断を示しています。

この判断の根底には、「みなし公開会社は、『公開会社に適用されるコンプライアンス規定の適用を受ける非公開会社』である」との解釈があると考えられます。
もし「みなし公開会社は公開会社そのものである」という前提に立った場合、上記のような判示が出てくる余地はないはずだからです。

株式譲渡制限の可否は、公開会社、非公開会社の区別の本質にかかわる相違であり、組織上の相違に相当すると考えられますが、みなし公開会社において株式譲渡制限を認めるということは、少なくともCompany Law Boardは、みなし公開会社の本質は非公開会社であると考えていることになります。

よって、現在のところ、少なくともCompany Law Boardは、みなし公開会社は、②「非公開会社だが公開会社のコンプライアンスが適用される会社」であると考えているようです。

もっとも、上記はあくまで行政機関であるCompany Law Boardの判断であり、裁判所による判例というわけではないことから、先例としては弱く、後の司法判断により覆される可能性もあります。

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以上から、みなし公開会社が①「公開会社そのもの」なのか、②「非公開会社だが公開会社のコンプライアンスが適用される会社」という問題について、現在のインドでは、②の考えが当局の見解に近いものの、判例等は存在せず、したがって②の考えをとることには一定の法的リスクがある、という状況です。

個人的には、「公開会社が子会社を通じてコンプライアンスを潜脱することを防止する」という立法の趣旨からして、みなし公開会社を公開会社そのものとまで見る必要はなく、あくまで公開会社と同様のコンプライアンスに服する非公開会社であるとする見解が妥当ではないかと思っています。
条文構造上も、みなし公開会社を公開会社そのものとみなす根拠となる規定が3条1項(iv)の1つしかないのに対して、みなし公開会社を公開会社と区別し、あえて並列的に列挙している条文の数が3桁近いということからして、やはり両者は別物と考えるべきでしょう。

ちなみに、実務上は、②の見解が取られている(=非公開会社として設立、登記されている)ことが多いようです。
株主を7人集める+株主管理が大変、など、色々理由はあるようですが、一番の理由はこれまでに会社登記局(Registrar of Company)や企業省(Ministry of Corporate Affairs)から、登記を拒否されたり問題を指摘されたという事例を聞かない、というところに行きつくのではないかと思われます。

会社を登記する際には、発起人(=最初の株主)を書く必要があるため、子会社として設立される場合、発起人欄に親会社が過半数株主として記載されることが通常です(設立方法にはいろいろバリエーションがあるので、必ずしもそうでない場合もありますが)。
にもかかわらず、親会社が公開会社であっても登記が拒否されたという事例は聞きません。このことは、間接的ですが、会社登記局も、「みなし公開会社といえども、公開会社そのものとして設立、登記する必要はない」と考えていることを推認させます。

もちろん、「これまでに事例を聞かない」というだけで、今後摘発の対象にならないとは断言できません。
リスクはそれほど高くないとは思われますが、なんといっても、この点については、判例も通達もないのですから。

以上から、みなし公開会社については、
(a)手間はかかるが法的リスクは低い方法として、公開会社そのものとして設立する。
(b)一定のリスクがあることを認識しつつ、簡易に設立、登記できる方法として、非公開会社として設立する。
のいずれかを選択する必要があります。

個人的には、よほど大きな事情(大きなプロジェクトで少しでも法的リスクを避けたい、免許制の事情で免許取消等の事態を避けたい)がない限りは、(b)の対応で特に問題ないのではないかと思っています。

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以上、全9回のみなし公開会社解説、いかがでしたでしょうか。

この点は、日系企業がインドに進出する際の入口の論点であるにもかかわらず、まだインド国内でも十分に議論がなされていないところであり、私の見聞きした範囲でも多くの日本企業が悩んでいるところです。

私自身、まだとるべき見解について悩んでいることもあり、議論がある部分については、できるだけ多くの説とその考え方、根拠を提示するとともに、実務の方向についても記載するようにしました。

この解説が、少しでも悩めるインド法務担当者の方の助けになれば幸いです。

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(追記)

この解説全回をまとめて、ちゃんとした論文にできればなあと思っているのですが、日々の授業に追われてなかなかまとまった時間がとれず、当分無理そうです。

…誰か代わりに書いてくれないかなあ。

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