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みなし公開会社規制解説その8

設例1から3までで検討したとおり、インド会社法のみなし公開会社規制は、簡単には回避ができない規制であり、日本企業がインドに合弁会社を設立するにあたって、会社の意思決定権を確保しつつ、非公開会社のステータスを維持することは容易ではありません。

しかしながら、合弁会社において、日本企業が実質的に会社の意思決定権を支配しつつ、当該合弁会社につきみなし公開会社規制を回避する方法がないわけではありません。
以下、いくつか例示します。

回避方法例その1

株式保有を50%ずつとしつつ、合弁契約(株主間契約)において、①取締役の指名権数を合弁相手方と同数とする(3人対3人など)、②取締役会の議長に賛否同数の場合の決定権(キャスティング・ボート)を与える、③日本企業側が取締役会の議長の指名権を持つこととする。

インド会社法4条1項上の子会社の定義は、以下の通りです。
①「他の者から取締役会の構成をコントロールされうる会社」(4条1項(a))
②「会社の過半数(more than half)の株式が単独株主(親会社)に保有されている会社」(同項(b))
③「子会社の子会社」(同項(c))

さて、上記の方法をとる場合、まず株式保有が50%ずつですので、②の観点から合弁会社が日本企業(あるいは合弁相手方のインド企業)の「子会社」となることはありません。

また、③もこの方法との関係で適用されることはありません。

さらに、①について、「他の者から取締役会の構成をコントロールされうる会社」とは、以下の会社をいいます。
(i)全てのまたは過半数の取締役を選任しまたは解任する権限(power)を、単独で行使できる法人株主が存在する場合
(ii)(i)について、以下の各事情のいずれかが存在する場合には、法人株主はその取締役の選任権限を有しているとみなされる
(a)当該法人株主による賛成なしには、その者が取締役として選任されえないこと
(b)当該法人株主の役員または社員であることが、その者が取締役として選任されるための要件となっていること
(c)当該法人株主またはその子会社により指名される個人のみが、取締役となりえること

上記のとおり、(i)および(ii)の(a)から(c)までは、基本的に取締役の選任にかかわる要件であり、取締役会における意思決定それ自体にかかわるものではありません。
したがって、取締役会の議長にキャスティング・ボートを与えること、および議長の指名権を日本企業が確保することは、いずれも「他の者から取締役会の構成をコントロールされうる」かどうかには関連してこないため、この要件にひっかかることもありません。

なお、この方法を採用する場合、株主総会のデッドロックの場合の決定権を日本企業側が保有する形にはしないことが重要です。
インド会社法上、取締役の選解任は株主総会普通決議事項とされているため、日本企業が株主総会のデッドロックの場合の決定権を持ってしまった場合、日本企業が「過半数の取締役を選任する権限」を有することになってしまうためです。

回避方法例その2

日本企業とインド企業間で50%ずつの保有としつつ、合弁契約(株主間契約)において、日本企業が1%あるいはそれ以上の株式のコールオプションを保有する。

この方法は、「コールオプション行使の可能性を担保として、事実上日本企業が意思決定権を確保する」というものです。
相手方のインド企業としては、日本企業の方針に反対して、株主総会でデッドロックに持ち込んだとしても、いざとなればコールオプションを行使されて日本企業に株式を過半数保有されてしまい、取締役の選解任を含めた普通決議事項の決定権を握られてしまうことから、反対するインセンティブが低下してしまいます。

つまり、普段の状態では、日本企業、インド企業いずれも株式の過半数を保有しておらず、また取締役会における意思決定権も支配していないが、いざ問題が生じた場合には、日本企業がコールオプションを行使してインド企業から株式を強制取得することにより、日本企業優位の状態を作り出すことができるわけです。
そして、この「いざとなればコールオプションを行使できる」という事実自体を、一種の担保とすることにより、日本企業が事実上合弁会社の支配権を確保することができます。

この方法がすぐれているのは、「普段の状態では、日本企業が株式を過半数保有しているわけでも、取締役の選任権(あるいは指名権)を有しているわけでもないため、合弁会社につきインド会社法上のみなし公開会社規制の適用要件がみたされない」という点です。

この方法のデメリットとして、万一日本企業とインド企業の対立が調整できず、実際に日本企業がコールオプションを行使する事態に至った場合、その瞬間から当該合弁会社がみなし公開会社に該当してしまうという点が挙げられます。
コールオプションを行使した場合、その時点で日本企業が過半数の株式を保有することになるため、②の過半数の株式保有要件の観点から、当該合弁会社が日本企業の子会社に該当してしまい、その結果として合弁会社にみなし公開会社規制が適用されてしまうためです。

回避方法例その3

上記2つと比べて単純な方法として、「子会社ではないが、一定の親しい関係にある会社」に合弁会社の株式を保有してもらうという方法があります。

日本企業が60%、インド企業が40%という持分割合にしてしまうと、合弁会社が日本企業の子会社に該当してしまいますが、たとえば日本企業40%、他会社20%、インド企業40%という保有比率にすれば、合弁会社はどの会社の子会社にも該当しないことになります。

他会社はグループ会社(親子会社となる資本関係がないことが条件)でも良いですが、たとえば会社名に同じ言葉が含まれるなど、一見して両者がグループ会社であることが明白な場合、日本企業と他会社とで、合弁会社の取締役会の構成をコントロールしているとみなされてしまう可能性があるため、名前は被らない方が良いでしょう。

なお、このケースにおいて、合弁契約や株主間契約などで明示的に日本企業が他会社と共同で株主総会議決権を行使することを合意した場合、日本企業が取締役会の構成をコントロールしているものとみなされることになるため、注意が必要です。
あくまでも、「仲は良いが、議決権行使の意思決定において、相互に影響を及ぼすことはない」という建前を貫くことが必要です。

ちなみに、そのようなグループ会社を保有していない場合、中間法人を利用して直接の資本関係のない会社を設立し、その会社に分散保有させるとの方法もありますが、あまり現実的ではないでしょう。

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以上は、あくまでも例示であり、これ以外にもみなし公開会社規制を回避する方法はいくつかあると思われます。

要は、みなし公開会社規制の適用要件を外しつつ、実質的に合弁会社の意思決定権を確保する方法であれば良いのです。
ただし、みなし公開会社規制の適用要件を外すことは、それほど簡単ではないことから、実際にスキームを検討する際には、インド法弁護士に相談することを強くお勧めします。

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次回は、みなし公開会社規制が適用された場合の効果について解説します。

一応、次回で最終回の予定です。

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