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インド労働法解説その3 -就業規則-

インド労働法解説を再開するにあたり、これまでの記事(といっても2回分しかありませんが…)を見直したところ、特に第2回について、いくつか間違いがありましたので、訂正しました。

訂正した記載は、以下のとおりです。

・「workman」は、労働法上の保護対象となるが、「non-workman」は保護対象にならないとの記載
→インド労働法の中には、確かに保護対象をworkmanのみとする規定も相当程度ありますが、他方で保護対象を被雇用者(employee)とする規定も少なからずあります。
よって、non-workmanについては、全く労働法の保護対象にならないかのような記載はミスリーディングですので、訂正しました。

・労働組合への加入資格
→「労働組合に加入できるのはworkmanのみである」と記載していましたが、実際には労働組合に加入できるのは被雇用者(employee)であり、non-workmanも加入可能です。
ここは明白な誤りですので、訂正しました。

上記訂正部分については、第2回の解説で下線を引いて訂正していますので、ご参照ください。

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さて、本日は、上記のほか、第2回の解説でもう1つ下線を引いて訂正した、就業規則についての解説です。

まず、大前提として、インドでは、一定の要件をみたす場合を除き、原則として就業規則を策定する必要はありません。

日本では、10人以上を雇用する事業所は、就業規則を策定の上、当該事業所を管轄する労働基準監督署に届け出る必要がありますが、インドでは、そのような義務はありません。

そもそも、インドには、日本の労働基準監督署に相当する組織がありません。
後日解説するとおり、インドには地域ごとに労働コミッショナー(Labour Commissioner)とい呼ばれる担当官は存在しますが、これは主として労働組合を規律する担当官であり、日本の労働基準監督署のように、労使紛争を全般的に管轄するものではありません。
(ちなみに、デリーの労働コミッショナーのオフィスのウェブサイトはこちら↓)
http://www.delhi.gov.in/wps/wcm/connect/doit_labour/Labour/Home/Trade+Union/Trade+Union

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上記で、「インドでは、一定の要件をみたす場合を除き、原則として就業規則を策定する必要はありません」と書きましたが、ここでいう「一定の要件」とは、1946年産業雇用(就業規則)法(Industrial Employment (Standing Orders) Act, 1946)により、雇用条件としての「就業規則(Standing Orders)」を定める義務が課される場合をいいます。

具体的には、100人以上の労働者が雇用されている、または100人以上の労働者が過去12か月のいずれかの日に雇用されていた産業施設(工場、鉱山、プランテーションなど)については、同法上、雇用条件としての「就業規則(Standing Orders)」を定める義務が課せられます。

逆に言えば、上記以外の場合については、就業規則の策定義務はありません。
よって、日本企業のインド現地拠点が通常の事業所、オフィスであれば、当該事業所について就業規則を定める必要は無く、被雇用者(employee)との間の契約は、全て個別契約で対応することも可能です

ただし、被雇用者との間の雇用条件等を、全て個別契約で管理する場合、文書管理が大変になります。
もし特定の労働者との間で紛争が生じた場合、いちいち個別契約を引っ張り出してこないといけませんし、辞めた労働者の契約も、後日の紛争可能性を考慮すると、一定期間は破棄しない方が無難なため、文書を保管しておく必要があります。

インドの労働契約は、最低でも10ページ以上、場合によっては20ページを超えることもあるため、個別にいちいち契約していたのでは、これらの文書管理が面倒でしかたありません。

そこで、実務上は、個別の労働契約に共通する内容(勤務時間、休み、経費精算、守秘義務など多数)を取り出し、服務規程(Employment Policy)として制定して、個別の労働契約については、「服務規程に従う」との文言を入れた上で、簡素化することが行われています。

注意すべきは、この「服務規程(Employment Policy)」と、上記で述べた「就業規則(Standing Orders)」とは、インド法上、法的な位置づけが全く異なるという点です

「就業規則(Standing Orders)」は、100人以上の労働者が雇用されている産業施設について、雇用条件として制定する義務が課せられているのに対し、「服務規程(Employment Policy)」は、制定するかどうかはあくまで会社の任意です。

服務規程(Employment Policy)は、「文書管理を簡素化、効率化する」という観点から、会社が任意に定めるものであるため、定めなくても全く問題ありません。
そのため、上記産業施設以外の事業所については、全ての被雇用者と個別契約を結ぶという対応でも問題ありません(実際に、そのように対応している日本企業の現地事業所も多数あります)。

ただ、事業所の現地採用者が数十人を超える場合、辞める人、新たに雇う人といった人材の流動性を考慮すると、個別契約だと文書管理が非常に手間になるということから、服務規程(Employment Policy)を定めたほうが良い、というだけです。

現在、インド労働法について日本語で書かれた本では、上記「就業規則(Standing Orders)」と「服務規程(Employment Policy)」の区別を十分に認識していないものが多く、両者の議論をごちゃまぜにしているきらいがあるため、注意が必要です。

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さて、被雇用者と個別で契約する場合であっても、服務規程(Employment Policy)を定める場合であっても、その内容は自由に定めてよいというわけではなく、インド労働法上の強行規定により、一定の制限がかかります。

次回は、そのような労働契約の締結や服務規程の制定上の制限について、解説したいと思います。

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