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インド労働法解説その9 -非正規雇用(2)-

前回からの続きで、契約労働雇用(Contract Labour)についての解説です。

5 契約労働雇用(Contract Labour)

契約労働雇用とは、使用者が直接労働者を雇用するのではなく、契約業者から労働者を派遣してもらって労働者を使役する雇用形態をいいます。
日本でいう派遣労働に近い概念です。

契約労働雇用を規律する法律は、「1970年契約労働(規制および廃止)法(Contract Labour (Regulation and Abolition) Act, 1970)」です。

同法上、契約労働雇用における使用者、契約労働者、労働者を派遣する者は、それぞれ以下のとおり定義されています。

・使用者(=労働者を実際に使役する者)は、「主たる使用者(principal employer)」と呼ばれます。
「主たる使用者」は、通常使用者である法人または個人のことを意味しますが、場合によっては工場長や施設長など、当該契約労働者が勤務する施設の長を意味することもあります。

・「契約労働者(contract labour)」は、「労働者(workman)であって、主たる雇用者が誰であるかを知りつつ、あるいは知らずに、ある施設(establishment)において、契約業者を通じて勤務する者」と定義されています。
この定義から明らかなとおり、契約労働者は、必ずしも主たる使用者が誰であるかを知っている必要はありません。

なお、「施設(establishment)」は、「産業、取引、事業、製造その他何らかの職務が行われるあらゆる場所」と定義されています。
この定義により、オフィス、工場といったほとんどあらゆる職場が、「施設」に該当することになります。

・労働者を派遣する者は、「契約業者(contractor)」と呼ばれています。
「契約業者」は、「契約労働者を通じて、施設のために一定の成果をもたらすこと(ただし、単に物品や製造品を施設に供給するだけの業務は含まない)を引き受ける者、または施設内の何らかの作業のために請負労働者を供給する者をいい、下請けの契約業者を含む」と定義されています。

下線部が重要で、この規定により、インドにおける契約業者は、必ずしも何らかの成果物の完成を目的として契約労働者を派遣する必要は無く、日常業務のために契約労働者を派遣すること(日本でいう派遣労働的な業務)ができることになります。

なお、日本では、偽装請負の問題に代表されるように、労働者が請負労働者か派遣労働者かの区別が、指揮命令系統の所在と関連して、労働法非常に重要な問題となりますが、インドでは、上記定義により、「契約労働者」は請負的な労働、派遣的な労働のいずれもできることとされているため、請負と派遣の区別は通常問題となりません

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1970年契約労働(規制および廃止)法上、契約労働については、以下の規制が課せられています。

(1) 契約業者に対する規制

20人以上の労働者(workman)を、契約労働者として雇用し、または過去12か月のいずれかの日に雇用していた契約業者は、1970年契約労働(規制および廃止)法の適用対象となり、以下の規制が課せられます。

・免許取得義務
20人以上の労働者(workman)を雇用する者は、州の労働コミッショナー(Labour Commissioner)から契約業者としての業務を営むことにつき、免許を取得する義務を負います。

ご参考:デリーのLabour Commissionerのウェブサイト
http://www.delhi.gov.in/wps/wcm/connect/doit_labour/Labour/Home/

・設備提供義務
契約業者は、1970年契約労働(規制および廃止)法が適用されるすべての施設において、とりわけ休憩室、食堂、衛生的な飲料水、便所、手洗所、応急処置設備を含む、雇用する契約労働者の福利および健康のための設備を提供する必要があります。これらの義務の内容は、施設内に雇用されている契約労働者の数によって異なります。

※契約業者が所定の時までに上記のいずれかの設備を提供しなかった場合には、主たる雇用者がそれらを提供する必要があります。主たる雇用者は、設備を提供するにあたり負担した支出を、契約により契約業者に支払われる金額から相殺する方法、または契約業者から回収する方法のいずれかにより、請負業者に求償することができます

・記録保持義務
契約業者は、雇用する契約労働者、契約労働者によって行われる作業の性質、契約労働者に支払われる賃金率等の登録簿および記録を所定の様式で保持する必要があります。

・賃金支払義務(第一次的義務)
契約業者は、契約労働者として雇用する各労働者への賃金の支払について、第一次的な責任を負います。

(2) 主たる雇用者に対する規制

・登録義務
1970年契約労働(規制および廃止)法が適用されるすべての施設の主たる雇用者は、登録官 (Registering Officer) に施設の登録を申請する必要があります。
ここで、登録官とは、その施設のある州の労働コミッショナー(Labour Commissioner)のことをいいます(労働コミッショナーについては上記参照)。

日本と異なり、インドにおいては、主たる雇用者(=契約労働者を使役する者)の側においても、登録申請が必要になることに注意が必要です。

日本では、いわゆる人材派遣会社側では労働者派遣事業の許可を取得する必要がありますが、労働者の派遣を受ける側では、当該派遣に関して許可や登録を行う必要はありません。
しかしながら、インドでは、契約労働者を使用する側でも、登録が必要となります。

そのため、現地の日系企業が、登録義務に気が付かないまま契約労働者を受け入れてしまうと、登録義務違反の問題が生じることになり、この点十分な注意が必要です。

・記録保持義務
主たる雇用者は、契約業者と同じく、雇用する契約労働者、契約労働者によって行われる作業の性質、契約労働者に支払われる賃金率等の登録簿および記録を所定の様式で保持する必要があります。

・賃金分配立会義務および賃金支払義務(二次的責任)
主たる雇用者は、適切な代理人を任命の上、当該代理人を、契約業者による契約労働者に対する賃金の分配の場に同席させることが義務づけられています。
これは日本にないやり方なので、注意が必要です。

また、契約業者が所定の時までに賃金を支払わなかった場合、または不十分な金額しか支払わなかった場合、主たる義務者は、契約労働者に対して賃金全額または契約業者による支払の不足分を支払う必要があります。
なお、この場合、主たる雇用者は、支払った金額を、契約業者に対する契約料の支払いの相殺または債権回収の方法で、求償することができます。

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ということで、当然のことではありますが、インドにおける契約労働雇用は、日本の派遣労働と似ているものの、大きく異なる部分もあるため、インドにおいて契約労働者を利用する場合、規制内容については十分に注意する必要があります。

次回からは、インドにおける労働組合について解説していきます。

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