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インドにおける基本税務番号(PAN)取得について(その1)

2009年の1961年インド所得税法(Income Tax Act, 1961)改正により、2010年4月1日以降、インド国内から源泉徴収税(Tax Deduction)の対象となる支払いを受けるインド非居住者は、インドにおいて基本税務番号(恒久税務番号。Permanent Account Number (PAN))を取得することが義務付けられました(インド所得税法206AA条)。

これにより、インド企業(自社の現地法人、合弁会社を含む)から、ライセンス使用料(ロイヤリティ)やサービス料等の源泉徴収税の対象となる支払いを受ける日本企業は、PANを取得しなければならず、かつ、これを取得しない場合、20%の源泉徴収税率が適用されることになりました

インド非居住者がPANを取得している場合の源泉徴収税の税率は、10%(サーチャージ、教育目的税を含めた実効税率は10.56%)であるため、倍の源泉徴収税率が適用されることになります。

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従来から、インド所得税法上、インドにおいて課税対象となる所得を得るインド非居住者は、たとえ当該課税対象所得が源泉徴収分に限られる場合であっても、インドの税務当局に対して税務申告書を提出しなければならないとされていました。
(この点、非居住者の日本における課税対象所得が源泉徴収分に限られる場合、日本において税務申告を行う必要はないとする日本の制度とは大きく異なります)。

そのため、たとえば、日本の親会社がインドの合弁会社からライセンス使用料を受領している場合、(それ以外にはインド企業からの支払いは一切受けていない場合であっても)法令上は、当該日本の親会社についても、インドの税務当局に対して税務申告書を提出する義務がありました。

もっとも、この場合、インド非居住者が申告を行うと言っても、支払税額=源泉徴収額となり、支払税額は全額源泉徴収控除済となることから、0となります。
要は、支払税額が0となる申告書を提出するということです
すなわち、この場合、実務上は、税務申告を行おうが行うまいが、インド非居住者には何らの影響もありません(支払税額が0なので、延滞税は生じない。また、インド内国法上の罰則規定を、外国の非居住者に執行することは事実上不可能)。

そのため、上記2009年改正までは、インドにおける課税対象所得が源泉徴収分に限られる非居住者が、税務申告を行っている例は少なく、したがって税務申告の前提となるPANを取得している例もほとんど見受けられませんでした。

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しかしながら、上記2009年改正により、2010年4月1日以降、インド非居住者がPANを取得していない場合、当該インド非居住者に対しては、20%の源泉徴収税が課せられることとなりました。

日本との関係で、これを法的に解説すると、

「インドが、国内法改正により、日印租税条約上の税率(またはより低いインド国内法上の税率)の適用要件として、『インド国内においてPANを取得していること』という要件を設定し、当該適用要件をみたさないインド非居住者に対しては、日印租税条約上の税率((またはより低いインド国内法上の税率)である10%を適用せず、インド国内法上の税率である20%を適用する」

ということが行われたことになります。

これにより、インド国内から源泉徴収税の対象となる支払いを受ける日本企業が、インドにおいてPANを取得しない場合、実質的なペナルティとして通常の倍の税率を課せられることになります。

他方で、PANの取得は、そのままインドの税務当局による課税対象の捕捉につながるため、日本企業がPANを取得した場合、従来からの義務であった、「インドにおいて課税対象となる所得を得るインド非居住者による税務申告書の提出」を、当該捕捉に基づいて、厳格に要求されることになると考えられます。

インドにおいて税務申告を行う場合、たとえそれが簡単なものであっても、それなりの時間とコストがかかるため、特にインドにおける課税対象所得が源泉徴収分に限られる日本企業については、毎年の税務申告の時間とコストにつき実質的な負担増にあるといえるでしょう。

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ちなみに、日本企業が、「PANを取るのにも、それなりの時間とコストがかかるし、それに加えて毎年の税務申告を要求されるくらいだったら、源泉徴収税が20%になってもいいから、PANなんて取らないよ」という対応をとった場合、どのようになるのでしょうか。

まず、明らかなデメリットとしては、PANを取った場合に比べて倍の源泉徴収税を取られてしまうということが挙げられます。

この場合、本来の税率に比して高い税率の源泉徴収が行われているため、延滞税の問題は生じませんが、PANを取得していない以上、インドの税務当局相手に源泉徴収還付の手続を取ることはできず、したがって、(本来税率が10%の取引について)結局20%の税率が課せられるということになります。

次に、インド所得税法上の罰則規定の適用が問題となりますが、これについては、非居住者である日本企業に対してインド内国法上の罰則規定を執行することは事実上不可能であるため、日本企業本体がダメージを受けることはありません。

もっとも、日本企業本体に罰則を適用できない腹いせとして、インドの税務当局が当該日本企業の現地法人や合弁会社に対して税務調査を厳しくする、という対応を取ってくることは十分に考えられます
これは法的な根拠に基づくものではありませんが、実務上は十分なデメリットになりえます。

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ということで、総合すると、やはり、インド国内から源泉徴収税の対象となる支払いを受ける日本企業(特にインド国内に何らかの事業拠点を有している日本企業)は、PANを取得せざるを得ないように思われます。

次回は、PANの取得手続の解説です。

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