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コックローチ・バトル・ネオ

「上様、どこまでもついてゆきとうございましたが、この身ではもはやそれも叶わぬ夢…」

「なにをいうか、じい。まだまだこれからではないか」

「上様、どこまでもどこまでも駆けられませい。じいはそれを楽しみに地獄の痛苦に耐えまする」

「また由無きことを。なぜ地獄と決まっておる」

「戦でのこととはいえ、人をたくさん殺めました。西方浄土の彼方など行けるはずもないでしょう」

「ばかな。それでは今の世に生まれた者で、極楽に行ける者はおらぬではないか」

「そういう時代もあるのでしょうな。因果なものです」

「上様、そろそろお別れです」

「待て、じい、行くな。今じいに行かれては、ようやく統一が成った印度国はどうなる」

「もはやこのじいに伝えられるものは全て伝え尽くしました。今の上様は、大殿と同じ、いやそれ以上の立派な大名にござります」

「何をいうか。わしは至らぬ大将じゃ。じいの合力無しでは国を治めることなど覚束ぬ」

「じいは上様にお仕えできて幸せでした。最後のご奉公に、地獄にて大殿とともに碁基武利の武者どもを蹴散らし、上様の露払いを務めましょうぞ」

「こやつ、わしが地獄に行くと決めておるわ」

「ふふ、願わくばその日ができるだけ先になりますよう」

「どうした、じい。返事をせい。じい。じいよ。」

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印度国当主は、陣所の粗末な夜具の中で目を覚ました。

はや5年か。懐かしい夢を見たわ。

涙を流していることに気がつくまで、暫くの間があった。

じいよ、わしはどこまでも駆けておる。おぬしはどうじゃ。あの世で父上とは会えたか。

初春とはいえ、陣中は冷える。陣所の中でも吐く息は白かった。

駆けて、駆けて、駆け続けて、ついにこんなところまで来てしもうたわ。

攻囲しているのは、慈藩具(じぱんぐ)国の城だった。印度国を統一した彼は、その後、はるか遠隔の地である紐育国を制圧し、さらに軍を還して一転、慈藩具国を攻め立てていたのだった。

目の前の城を囲んで、もう二月を越える。陥ちるのは時間の問題だった。

思えば、お主が碁基武利に怯えるわしを叱咤し、励ましてくれたのが、全ての始まりじゃったな。

傍らの碁基死穢屠(ごきじえと)に少し目をやり、すぐに目を閉じた。

もう20年も前のことになるかのう。あの戦は。

まさに20年前のその戦で、彼は碁基死穢屠を初めて使い、碁基武利を蹴散らしたのだった。その後も戦は連戦連勝。見る間に碁基武利軍は力を失い、数年のうちに印度国は再統一された。

ふふ、御守り代わりじゃよ。もはや使う相手とておらぬがな。

碁基武利を滅ぼした後、彼が碁基死穢屠を使うことは絶えてなかった。だが、彼は、彼に目覚しい戦勝と武運をもたらした碁基死穢屠を常に戦陣に伴っていた。

今となってはお主の形見でもあるしのう。

「上様、どうかなさいましたか」

「む、なんでもない。そちこそどうかしたのか」

「は、陣所よりお声が聞こえましたゆえ」

「そうか、声に出ておったか。なに、ただの独り言よ」

「そうでございましたか。乱波とお話されているのかとも思いましたが、そのような話は事前に聞いておりませなんだゆえ」

「すまぬ、要らぬ心配をかけたの。夜はまだ深い。お主も休むがよい」

「はっ」

足音が遠ざかっていった。苦笑をした後、夜具をかぶりなおし、目を閉じる。

--

半刻ほども経ったころだろうか。突然大きな鉦の音が鳴り響いた。

飛び起き、手探りで具足を身に着ける。

「上様、お逃げください」

付の者の悲鳴にも似た声が聞こえてきた。

「なんとしたことじゃ。何が起きておる」

大声で叫び返す。

「碁基武利が。碁基武利が攻め寄せております」

「何を申すか。ここは慈藩具じゃぞ。なぜ碁基武利がおる」

返事はなかった。鉦の音は鳴り続けている。

ばかな、碁基武利に生き残りがいたのか。それにしてもなぜ慈藩具で…

驚きと思考による一瞬の忘我だった。

気がついたときには、碁基武利が陣幕を抜けて滑り込んできていた。

碁基死穢屠を使う暇もなく蹴散らされ、逃げ惑った。

我に返ったのは、三半刻もしたころだったか。印度軍は蹴散らされ、華麗だった陣所は見る影もなく荒らされていた。

「上様、ご無事にござりますか」

「おう、なんとか生きておる。そちもな」

「面目もございませぬ。まさかこのようなところに碁基武利が出るとは」

「面食らったのはわしも同じじゃ。本当に、まさかのう」

いくさの場で我を忘れた、その瞬間に勝敗は着いていたのだ。

「残っている兵をとりまとめよ。ここまで来て退くは惜しいが、このままではもはや戦にならぬ」

「はっ、直ちに」

じいが夢枕に立って教えてくれたというのにな。

乱れた具足を整えながら、自嘲とともに敗北の味を噛み締めていた。

このままでは終わらぬ。

碁基武利の正体が何かはわからなかったが、一度さんざんに打ち破った相手である。今度も勝てぬ道理はない。

当主は、漸く明るみはじめた慈藩具の空を見ながら、捲土重来を誓ったのであった。

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