インド法解説一般(2013年~)

インドの倒産法(Sick Industrial Companies Act)の解説 その2

Sick Industrial Companies Act, 1985(以下、「SICA」といいます)上、産業金融再生委員会(Board of Industry & Financial Reconstruction (BIFR))への届出等が義務付けられる「Sick Industrial Company」は、

「設立から5年以上経過している産業会社であって、会計年度末において純資産額を超える累積損失があるもの(an industrial company (being a company registered for not less than five years) which has at the end of any financial year accumulated losses equal to or exceeding its entire net worth)」

と定義されています(SICA第3条(o)) 。

上記定義中の、「産業会社(industrial company)」は、

「1つ以上の産業活動を行う会社(a company which owns one or more industrial undertakings)」

と定義されており(SICA第3条(e))、この定義の中の「産業活動(industrial undertakings)」は、

「1つ以上の工場においてSICAの別紙記載の産業のいずれかを営む活動(any undertaking pertaining to a scheduled industry carried on in one or more factories by any company)」(ただし、小規模産業等、一定の事業は除く)

と定義されています。

さらに、上記定義中の「SICAの別紙記載の産業」について、SICAの別紙を見ると、ほとんど全ての産業が網羅的に記載されています。

以上、長々と定義を書いてきましたが、上記各定義を踏まえて要約すると、「産業会社(industrial company)」とは「工場で製造業を営む会社」とほぼ同義であると理解して差し支えありません。

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上記Sick Industrial Companyの定義から、SICAは、産業会社すなわち工場で製造業を営む会社以外の会社(販売会社等)には適用されません

したがって、前回解説したとおり、たとえば、インド現地で輸入販売のみを行っている会社(いわゆる販社)には、SICAは適用されません。

また、「設立から5年以上経過している産業会社」であることがSick Industrial Companyの要件であるため、会計年度末において純資産額を超える累積損失があったとしても、設立から5年が経過していなければ、Sick Industrial Companyに該当することはありません

言い換えれば、産業会社であっても、設立から5年間経過するまでは、SICAが適用されることはありません。

したがって、インドの日系企業でSICAの規制を気にすべきなのは、

①営んでいる事業の内容が製造業であること(現地に工場を持って製造活動を営んでいること)

②現地法人設立から5年以上が経過していること

の2つの要件を満たす会社であるということになります。

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ちなみに、インドの会社法であるCompanies Act, 1956にも、「Sick Industrial Company」の定義がありますが(同法2条46AA項)、この定義は上記SICAの定義とやや異なっており、

①会計年度末の累積損失が、直近4年間の平均純資産の50%以上の会社、または

②債権者への支払いが連続3四半期滞っている会社

のいずれかに該当する会社をいうとされています。

このSICAとインド会社法のSICAの定義の齟齬の問題について、結論としては、2013年1月現在では、SICAの定義の方が優先します

インド会社法に、上記「Sick Industrial Company」の定義が設けられたのは、2002年の会社法改正の際ですが、そのときは、「会社法と会社倒産法を一体的に規定する(=会社法の中に、会社の倒産、破産に関する手続法を盛り込む)」ということが意図されていたようです。

しかしながら、さまざまな事情により、このインド会社法の2002年改正は、2013年1月現在でもまだ施行に至っていません。

したがって、2013年1月現在においても、「Sick Industrial Company」に該当するかどうかはSICAの定義に基づいて判断されることになります。

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次回は、届出義務の具体的内容に関する解説です。

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インドの倒産法(Sick Industrial Companies Act)の解説 その1

インド法解説復帰第一弾は、おそらくインドに進出している多くの日系の製造業者が頭を悩ませているであろう、インドの倒産法の1つである、Sick Industrial Companies Actに関する解説です。

法令の概要、法令が適用された場合の効果など、これから5~6回程度に分けて、解説していきたいと思います。

1.インドの倒産法制について

2012年末現在、インドには、一般破産法は存在しません。

より正確に言いますと、適用場面を特定した破産法や、会社の更正・再生を前提とした法令は存在するのですが、日本の破産法のような、個人および企業の破産や免責について包括的に規定した法令は存在しないということです。

ちなみに、現在、一般破産法の制定が検討されているものの、具体的に法案が国会に提出されているわけでもなく、制定時期等については全くめどがたっていないという状況です。

そのような状況ではありますが、インドに進出した多くの日系の製造業者が、おそらく一度は会計事務所から該当可能性についての指摘を受けたことがあるであろう、現地の倒産法があります。

それが、以下に詳しく解説する、Sick Industrial Companies Act, 1985です。

Sick Industrial Companies Act, 1985は、産業会社(=工場で製造業を営む会社)のみをその適用対象としており、したがって一般の破産法、倒産法というわけではありませんが、インドに進出している多くの日系企業が現地で製造業を営んでいるという実態に鑑み、日系企業にとって、最も留意すべき現地倒産法であると言えるでしょう。

2.Sick Industrial Companies Act, 1985の特徴

インドのSick Industrial Companies Act, 1985は、産業会社(工場で製造業を営む会社)の財務状況が悪化し、Sick Industrial Companyの要件に該当するに至った場合に、政府機関である産業金融再生委員会(Board of Industry & Financial Reconstruction (BIFR))に届出を行い、会社の再建を目指すことを義務付ける法律です。

日本でいえば会社更生法/民事再生法に相当する法令であるといえますが、後述のとおり、その内容は日本のものと大きく異なります。

Sick Industrial Companies Act, 1985の大きな特徴の1つとして、産業会社(工場で製造業を営む会社)のみを適用対象としているという点が挙げられます。
したがって、たとえば販売のみを行っている会社(いわゆる販社)については、SICAは適用されません。

もう1つ、日系企業にとってより深刻な特徴として、同法は、一定の要件をみたす場合に、産業会社に対し、再建のために当局に届出を行うことを義務付けている点が挙げられます。

これは、ものすごい特徴で、日本の破産法や会社更生法、民事再生法は、いずれも破産や会社更生、民事再生の申立てを行うかどうかは、会社自身または債権者に委ねられており、法律で強制的に申立てが義務付けられるということはありません。
(したがって、会社や債権者が申立てを行わない限りは、どんなに会社が赤字で、債務超過で、事実上倒産状態であったとしても、破産の手続が開始するということはありません。)

しかしながら、インドのSick Industrial Companies Act, 1985は、会社がSick Industrial Companyの要件に該当するに至った場合、当該会社に、政府機関である産業金融再生委員会(BIFR)に届出を行うことを義務付けています。

つまり、Sick Industrial Companyの状態(=一定の赤字状態)に陥った場合、当事者がなんと言おうが、政府当局に届出を行い、再建に向けて一定の監督を受けることが義務付けられるということです

おそらく、会社の雇用を守るため、債権者を保護するためといった、社会政策的な理由に基づく規制なのでしょうが、要件を満たしてしまうと問答無用で政府当局に届出を行い、再建に向けて一定の監督を受けなければならないというのは、相当に厄介な制度です。

もちろん、届出の手続や、それに続く当局の監督というのは、日系企業にとって可能な限り避けたい事態です。

そこで、

①どのような場合に届出を行わなければならないか、という要件の把握

②要件に該当してしまった場合の対応

について、把握しておくことが、現地法人の管理上望ましいと考えられます。

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次回は、上記のうち、①について、法令上の各用語の定義を踏まえて解説したいと思います。

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