インド会社法解説

デジタル署名認証(DSC)取得マニュアル その4

無事DSCが取得できた場合、登録委託業者(TCSやSifyなど)から、DSC Kitが送付されてきます。

「DSC Kit」といっても、中身は2つだけで、①USB token (日本でいうUSBメモリー)、と②CDロム だけです。
具体的な使用方法は、以下のとおりです。

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1.まず、DSCをコンピュータにインストールします。

①CDをコンピュータのCDドライブに入れ、セットアップファイル(「e-Token PKI client setup file」等の名前がついています)を選択し、起動すると、インストールが始まります。インストール終了後、コンピュータを再起動します。

②再起動後、USBトークンを、コンピュータに挿入します。

③インド企業省のウェブサイト(www.mca.gov.in/MCA21)で、各取締役のDSCを登録します。下記リンク先で、「Register DSC」のリンクをクリックし、フォームに記入して、登録を完了します。
http://www.mca.gov.in/DCAPortalWeb/dca/MyMCALogin.do?method=setDefaultProperty&mode=36

2.いったん上記の方法でDSCのインストールを行ったコンピュータであれば、その後DSCの使用にあたってCDは不要であり、USBトークンのみでDSCの使用が可能となります。
なお、他のコンピュータでDSCを使用する場合、当該コンピュータについて、再度CDによるインストールが必要となります。

3.DSCの使用にはパスワードが設定されていることが通常です。パスワードは、登録委託業者からデフォルトのものを教えてもらえますが、事後的に変更することも可能です。

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以上で、デジタル署名認証(DSC)取得マニュアルシリーズは完了です。

次回は、取締役識別番号(DIN)取得マニュアルシリーズを予定しています。

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デジタル署名認証(DSC)取得マニュアル その3

ようやく更新が再開できました。
少し間が空いてしまいましたが、DSC取得マニュアルの続きです。

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2.住所証明(③から⑤)

電子署名認証(Digital Signature Certificate (DSC))の取得申請に添付する住所証明(③)は、通常、
ア 運転免許証のコピー
イ 電気料金もしくは電話料金の請求書のコピー
ウ その他公共料金、クレジットカードの請求書のコピー
のいずれかとなります。

住所証明となる書類には、当該住所の郵便番号まで記載されていることが望ましいところ、日本の運転免許証には郵便番号の記載が無いため、できればイ、もしイに郵便番号が記載されていなければウを準備した方が良いです。

ウは、具体的には、水道料金やガス料金等の請求書のコピー、またはクレジットカードの請求書のコピーなどで、やはり郵便番号の記載があるものが望ましいです。

いずれの住所証明についても、提出するためには英訳(④)が必要となります。英訳は、必ずしも全訳である必要はなく、たとえば電話料金の請求の内訳など、住所証明と無関係な部分については省略することも可能です。

さらに、これらの住所証明のコピーおよび英訳は、コピーおよび英訳の真正についての宣誓書(Declaration)(⑤)とともに、公証役場で公証を受け、アポスティーユの付与を受ける必要があります。

「コピーおよび英訳の真正についての宣誓書(Declaration)」とは、住所証明のコピーが原本の真正なコピーであること、および住所証明の英訳が真正な英訳であることを宣誓する書面(英語)です。

宣誓を行うのはDSCを取得しようとする者本人であり、宣誓内容としては、

・英語と日本語の双方に通じていること

・添付書類が原本の真正なコピーであること

・住所証明の英訳が、真正な英訳であること

となります。

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申請フォーム、および添付書類の内容に不備がなければ、申請書類の提出から数日~1週間程度で、登録委託業者からDSCが交付されます。
DSCは、USBトークン(フラッシュメモリー)、およびCDとともに渡されます。

次回は、DSCの具体的な使用方法について解説します。
DSC取得マニュアルは、次回で最終回の予定です。

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デジタル署名認証(DSC)取得マニュアル その2

前回解説したとおり、電子署名認証(Digital Signature Certificate (DSC))の取得申請は、DSCの作成と認証登録を代行する専門の登録委託業者に、申請フォームを提出することにより行います。

申請フォームには、必要事項を記載した上で、パスポートサイズの写真を貼り付け、申請者が、写真とフォームの双方にクロスするように署名(英語でOK)を行う必要があります。
この写真とフォームへのクロス署名は、Self Attestation (自己認証)と呼ばれる手続であり、写真が間違いなく本人のものであることを、自ら証明するものです。

また、どの登録委託業者に依頼するであっても、申請フォームには、以下の各書類を添付する必要があります。

①個人証明(通常はパスポートのコピー)

②(①の個人証明で、パスポートのコピーを選んだ場合)パスポートの記載内容が正しいことを宣誓する英文の宣誓書(Declaration)

③住所証明(運転免許証/電話料金請求書/電気料金請求書/銀行口座明細等のコピー)

④③の英訳

⑤①および③が原本の正確なコピーであること、および④が正しい英訳であることを宣誓する宣誓書(Declaration)

これらの書類は、全て公証人による公証(notarization)、およびインド大使館による認証(attestation)(日本の場合、アポスティーユで代用可能)が行われている必要があります。

なお、実はこれらの書類は、取締役識別番号(DIN)を取得する際の添付書類とほぼ同一であるため、実務上、インドに会社を設立する場合には、取締役となる予定の者について、上記書類を2部ずつ準備し、1部をDSC取得のために、もう1部をDIN取得のために使用することが便宜です

以下、日本に居住している日本人がDSCを取得するケースについて、添付書類の内容と公証手続を個別に見ていきます。

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1.個人証明(①および②)

個人証明のための書類としては、パスポートのコピー、運転免許証のコピー、住民カードのコピーのいずれかが要求されてます。

もっとも、このうち運転免許証については英訳を作成しなければならないこと、また住民カードについては日本にはこれに該当する制度がないことから、最も簡単に準備できる書類として、パスポートのコピーを提出することが通常です
なお、パスポートは、それ自体英語が併記されているため、英訳の必要はありません

パスポートのコピーを取る際は、顔写真のページおよびインド入国ビザのページの双方をコピーします。
コピーは必ずしもカラーコピーである必要はありませんが、写真が不鮮明であったり、途中でページが切れていたりすると、適切な添付書類として受領してもらえません。そのため、クリアなコピーをとる必要があります。

パスポートのコピーの公証手続について、日本の公証役場はパスポートのコピー自体の公証を行っていないため、パスポートの記載内容が正しいことを宣誓する英文の宣誓書(Declaration)を作成し、これを公証してもらうことになります

このとき、公証されるのは、あくまで当該宣誓書だけであり、パスポートのコピー自体は公証対象になっていませんが、実務上は、公証を受けた宣誓書とパスポートのコピーをセットにして、DSCの登録委託業者に提出することにより、受理してもらうことができます。

パスポートの記載内容が正しいことを宣誓する英文の宣誓書では、氏名、生年月日、性別、パスポート番号等のパスポートの記載事項を記載し、また「パスポートに記載されている署名」の欄には、パスポート保有者本人がパスポートの署名欄どおりの署名(日本人の場合、漢字であることも多いです)を記載する必要があります。

その上で、パスポート保有者本人が、宣誓書の一番下の署名欄に署名します(この一番下の署名は、英語でかまいません)。

また、公証後は、原則としてインド大使館で認証を受ける必要があります。もっとも、日本およびインドは、「外国公文書の認証を不要とする条約(ハーグ条約)」の加盟国であるため、アポスティーユ(Apostille)という形式での証明を付与してもらうことで、インド大使館での認証に代えることができます。

日本の場合、東京の公証役場であれば、公証とアポスティーユ付与を同時に行うことが可能であるため、通常は認証のためにインド大使館まで赴く必要はなく、公証役場で公証とアポスティーユ付与を同時に依頼すれば足りることになります。

なお、公証役場での公証およびアポスティーユ取得手続を代理人(コンサルタント、弁護士等)に依頼する場合、代理人から、本人の登録印(実印)が押印された委任状、および印鑑証明書の原本を、公証役場に提出する必要があります。

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次回は、③~⑤の住所証明について解説していきます。

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デジタル署名認証(DSC)取得マニュアル その1

インドに事業拠点を設立する場合、それが支店/駐在員事務所/プロジェクトオフィスであれ、会社(100%子会社または合弁会社)であれ、必ず現地の代表者(または取締役)はデジタル署名認証(Digital Signature Certificate)を取得する必要があります。

駐在員事務所、支店、プロジェクトオフィスは設立後に、会社(現地法人、合弁会社)は設立時に、会社登記局(Registrar of Companies)に登記する必要がありますが、現在、インドでは、これらの登記申請手続は全てインド企業省(Ministry of Corporate Affairs)のウェブサイトである「MCA21」を通じたオンライン申請により行うこととされています。

インド企業省の「MCA21」のウェブサイトはこちら↓
http://www.mca.gov.in/MCA21/index.html

オンラインで登記申請を行う際に必要となるのが、申請者の電子署名認証(Digital Signature Certificate (DSC))です。

DSCとは、署名を電子的に登録したものであり、日本でたとえて言えば、印鑑登録が電子化されたものと考えるとわかりやすいかと思います。

インドでは、書類を公的または私的機関に提出する場合、名義人本人により書類が作成されたことを証明するため、名義人による当該書類への署名が求められることが通常ですが、オンラインで書類を提出する場合、手書きで署名することは不可能です。そこで、手書きの署名に変わるものとして、DSCを取得し、オンラインで提出する書類に貼付することになります。

インドでは、政府当局その他により多くの書類のオンライン提出が認められて(あるいは強制されて)いますが、通常、書類をオンラインで提出する場合、必ず当該書類の名義人のDSCを貼付する必要があります

DSCは、DSCが記録されているUSBトークン(フラッシュメモリー)をコンピュータに挿入し、オンライン申請の画面上の署名欄をクリックして、署名の選択画面から自己のDSCを選択することにより、貼付することができます。

DSCには、そのセキュリティのレベルに応じて、Class1からClass3までありますが、事業拠点の登記に必要なDSCは、Class2のDSCです。そのため、支店/駐在員事務所/プロジェクトオフィス/会社を設立、登記するにあたっては、事業拠点の代表者(または取締役)となる予定の者が、Class2のDSCを取得する必要があります。
(ただし、会社の場合、全取締役がDSCを取得することまでは不要であり、誰か1人が取得すれば、とりあえずの用は足ります。もっとも、全取締役が取得しておいた方が、なにかと便利ではあります)

DSCには有効期間があり、Class2のDSCの場合、有効期間は2年間ですが、登録委託業者によっては有効期間が1年のDSCを作成することもできます(ただし、有効期間が長い方が更新の手間が省けるため、通常はあえて有効期間が1年間のDSCを作成する理由はありません)。

DSCを取得するためには、DSCの作成と認証登録を代行する専門の登録委託業者に依頼する必要があります。登録委託業者は、インド企業省のウェブサイト に列挙されており、201011月現在、8社が登録を受けています。
8社のいずれを選んでも、作成されるDSCの内容は同一であるため、手数料や地理的便宜等を考慮して、あるいは適当に、登録委託業者を選ぶことになります。

8社の内訳は、以下のインド企業省のウェブサイトで確認できます。
http://www.mca.gov.in/MCA21/dca/dsc/certifying-new.html

日本企業に比較的よく利用されているのは、TATAグループのTATA Consultancy Services(リンク先の表の2)や、SatyamグループのSafescrypt(Sify)(リンク先の表の4)などです。
ちなみに、私自身はSifyの方をよく利用しています。

登録委託業者が決まったら、当該登録業者の個人(individual)用のClass2DSC申請フォームに、必要事項を記載します。必要記載事項は、登録委託業者によってやや異なりますが、概ね以下のとおりです。
・氏名
・性別
・生年月日
・住所(日本人の場合、日本の現住所)
・電話番号
・メールアドレス

TATA Consultancy ServicesのClass2DSC申請フォームはこちら↓
http://tcsdigitalsignature.com/form/TCSClass2IndividualDSCForm.pdf

SifyのClass2DSC申請フォームはこちら
http://www.digitalsignatureindia.com/form/SIFY-Class2-Individual.pdf

DSCフォームは、署名の真正等につき、銀行その他の第三者に認証してもらう必要があり、たとえば、TATA Consultancy Servicesの場合、申請者が口座を有する銀行から、Letter of Authority(承認レター)を発行してもらう必要があります(書式は申請フォームに添付されています)。

もっとも、日本の銀行は、このような英文による認証の依頼に対応していないこともあるため(実は、ここのハードルは結構高いです)、認証を依頼する場合、海外業務を広く行っている銀行や外資系銀行などに、事情を説明して依頼することが一般的です。

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次回は添付書類の説明です。

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みなし公開会社規制 補足

みなし公開会社になった場合の効果として、適用されるコンプライアンス規定の内容について言及するのをすっかり忘れていました。

公開会社(みなし公開会社を含む)に適用されるコンプライアンス規定、言い換えれば非公開会社については適用されないコンプライアンス規定の一覧については、↓のウェブサイトからダウンロードできる「インド会社法調査」の別紙1(128頁以下)をご参照ください。

http://www.jetro.go.jp/world/asia/reports/05001573

 

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みなし公開会社規制解説その9

今回はみなし公開会社規制解説の最終回です。

前回を書いたのがあまりにも前過ぎて、書いた本人もどこまで書いたかすっかり忘れていたのは秘密です。

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さて、前回までは、「みなし公開会社規制とは何か」、「どのような場合に適用されるのか」、「適用を回避する方法にはどのようなものがあるか」について解説してきたわけですが、今回は、「みなし公開会社規制が適用された場合、どのような効果が生じるのか」について解説したいと思います。

インド企業(それ自体公開会社)の出資比率が過半数を超えている日印合弁会社など、みなし公開会社規制が不可避的に適用されてしまう場面において、当該会社はどのように扱われるのでしょうか。

もう少し具体的にいうと、みなし公開会社は、

①「公開会社そのもの(=公開会社として設立、組織運営をしなければならない)

②「非公開会社だが公開会社のコンプライアンスが適用される会社(=非公開会社として設立、組織運営可能)

のいずれとして扱われるのでしょうか。

この点について、みなし公開会社規制の根拠条文であるインド会社法3条1項(iv)は、以下のとおり規定しています。

(iv) "public company" means a company which-
(a) is not a private company;
(b) has a minimum paid-up capital of five lakh rupees or such higher paid-up capital, as may be prescribed;
(c) is a private company which is a subsidiary of a company which is not a private company.

上記規定(特に(c))を素直に読めば、、「public company(=公開会社)」とは「private company which is a subsidiary of a company which is not a private company(=非公開会社でない会社の子会社である非公開会社)」を意味する、というのですから、みなし公開会社は公開会社そのものであるという上記①の考え方が正しいように思われます

しかしながら、実際にインド会社法の条文を見てみると、「public company(=公開会社)」と、「private company which is a subsidiary of a company which is not a private company(=非公開会社でない会社の子会社である非公開会社)」とを並列的に記載している条文が多数見られます。

数が多すぎて全部を列挙することはできませんが、ざっと挙げただけでも、77条2項90条のExplanation(条文の説明部分。この部分自体も法律の一部)、170条1項(i)198条1項255条1項など、非公開会社に対するコンプライアンス規定の除外を定めた条文のほとんどにおいて、両者は並列的に記載されています。

もし、「private company which is a subsidiary of a company which is not a private company」が、「public company」そのものであれば、両者を並列的に記載する必要などなく、一言「public company」とだけ書いておけば済む話ですので、併記されている=区別されているということで、インド会社法は「private company which is a subsidiary of a company which is not a private company」は「public company」そのものではないと考えているというふうにも読めます。

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そもそも、なぜ、みなし公開会社が①「公開会社そのもの」なのか、②「非公開会社だが公開会社のコンプライアンスが適用される会社」なのかの区別が重要なのでしょうか。

それは、インド会社法上、公開会社と非公開会社では、求められる組織構成や登記内容が異なるためです。

具体的には、たとえば公開会社では最低株主数は7人ですが、非公開会社では2人です。また、公開会社の最低取締役数は3人ですが、非公開会社では2人です。さらに、公開会社(一定要件をみたすもの)には監査委員会の設置義務があるなど、組織の設置義務についても相違があります。
登記についても、商号をはじめとして(private limitedかlimitedか)、公開会社と非公開会社ではその内容が異なってきます。

そのため、みなし公開会社が、「公開会社」なのか、「非公開会社だが公開会社と同様のコンプライアンスを求められる会社」なのかは、とても重要になります。
前者なら、株主を7人集め、取締役を3人以上選任して、公開会社として設立、登記、運営する必要がある一方、後者なら、株主は2人、取締役も2人でよく、非公開会社として設立、登記できる(ただし、運営は公開会社のコンプライアンスに従う)ためです。

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では、インド会社法上、みなし公開会社が①「公開会社そのもの」なのか、②「非公開会社だが公開会社のコンプライアンスが適用される会社」なのかについて、いったいどのように解されているのでしょうか。

実は、この点については、判例や政府当局による明確な見解等が存在せず、はっきりしません。

インド国内の弁護士や会計士でさえ、事務所ごとに見解が違っており、「非公開会社として設立してOK」とアドバイスしている事務所もあれば、「公開会社として設立しなければならない」とアドバイスしている事務所もあります。
(ちなみに、こういう、「同じ問題について、専門家ごとに言っていることが違う」というのは、インドで法務に携わる人が日々悩まされていることだったりします)

このように専門家の見解が分かれている理由の根本は、まさに上記で説明した、インド会社法の規定自体の矛盾(=定義部分では、みなし公開会社=公開会社そのもの、という規定をしておきながら、その他の部分ではみなし公開会社と公開会社を区別しているという一貫性のなさ)にあります。

個人的には、この矛盾は、現在のようなみなし公開会社の概念を導入した2000年改正の際の立法の不備(改正の際に、みなし公開会社の法的位置づけについて、法全体としての一貫性、整合性をきちんととらなかった)ではないかと思っています。
だからこそ、そのような不備のある法律の文言を根拠に議論をすることは、ある意味不毛ともいえるでしょう。

一応、直接の判例や通達等はないにしても、当局の姿勢を示すヒントになる事案はいくつかあるようです。

その1つとして挙げられるのが、Hillcrest Reality Sdn. Bhd. v. Hotel Queen Road Private Limited(2006)という、インドにおける会社法関係の審判機関(※)である、Company Law Boardでの審判において判断が示された事件です。
(※インドでは、一定の専門性を有する事件については、審判のための行政機関(準司法機関)が第一審の専属的管轄権を持っており、Company Law Boardはそのうちの1つです)

同事件において、Company Law Boardは、「非公開会社としての基本的性質を考慮すれば、たとえ当該非公開会社がみなし公開会社に該当する場合であっても、当該会社において株式譲渡制限を行うことは可能である」との判断を示しています。

インド会社法111A条により、公開会社においては、株式譲渡は自由でなければならないとされており(たとえ定款に株式譲渡を制限する規定があっても、その規定は株主に対抗できない)、したがって公開会社では株式譲渡制限ができません。
しかしながら、上記事件では、Company Law Boardが、「みなし公開会社であっても、非公開会社であることに変わりはないのだから、株式譲渡制限は可能」との判断を示しています。

この判断の根底には、「みなし公開会社は、『公開会社に適用されるコンプライアンス規定の適用を受ける非公開会社』である」との解釈があると考えられます。
もし「みなし公開会社は公開会社そのものである」という前提に立った場合、上記のような判示が出てくる余地はないはずだからです。

株式譲渡制限の可否は、公開会社、非公開会社の区別の本質にかかわる相違であり、組織上の相違に相当すると考えられますが、みなし公開会社において株式譲渡制限を認めるということは、少なくともCompany Law Boardは、みなし公開会社の本質は非公開会社であると考えていることになります。

よって、現在のところ、少なくともCompany Law Boardは、みなし公開会社は、②「非公開会社だが公開会社のコンプライアンスが適用される会社」であると考えているようです。

もっとも、上記はあくまで行政機関であるCompany Law Boardの判断であり、裁判所による判例というわけではないことから、先例としては弱く、後の司法判断により覆される可能性もあります。

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以上から、みなし公開会社が①「公開会社そのもの」なのか、②「非公開会社だが公開会社のコンプライアンスが適用される会社」という問題について、現在のインドでは、②の考えが当局の見解に近いものの、判例等は存在せず、したがって②の考えをとることには一定の法的リスクがある、という状況です。

個人的には、「公開会社が子会社を通じてコンプライアンスを潜脱することを防止する」という立法の趣旨からして、みなし公開会社を公開会社そのものとまで見る必要はなく、あくまで公開会社と同様のコンプライアンスに服する非公開会社であるとする見解が妥当ではないかと思っています。
条文構造上も、みなし公開会社を公開会社そのものとみなす根拠となる規定が3条1項(iv)の1つしかないのに対して、みなし公開会社を公開会社と区別し、あえて並列的に列挙している条文の数が3桁近いということからして、やはり両者は別物と考えるべきでしょう。

ちなみに、実務上は、②の見解が取られている(=非公開会社として設立、登記されている)ことが多いようです。
株主を7人集める+株主管理が大変、など、色々理由はあるようですが、一番の理由はこれまでに会社登記局(Registrar of Company)や企業省(Ministry of Corporate Affairs)から、登記を拒否されたり問題を指摘されたという事例を聞かない、というところに行きつくのではないかと思われます。

会社を登記する際には、発起人(=最初の株主)を書く必要があるため、子会社として設立される場合、発起人欄に親会社が過半数株主として記載されることが通常です(設立方法にはいろいろバリエーションがあるので、必ずしもそうでない場合もありますが)。
にもかかわらず、親会社が公開会社であっても登記が拒否されたという事例は聞きません。このことは、間接的ですが、会社登記局も、「みなし公開会社といえども、公開会社そのものとして設立、登記する必要はない」と考えていることを推認させます。

もちろん、「これまでに事例を聞かない」というだけで、今後摘発の対象にならないとは断言できません。
リスクはそれほど高くないとは思われますが、なんといっても、この点については、判例も通達もないのですから。

以上から、みなし公開会社については、
(a)手間はかかるが法的リスクは低い方法として、公開会社そのものとして設立する。
(b)一定のリスクがあることを認識しつつ、簡易に設立、登記できる方法として、非公開会社として設立する。
のいずれかを選択する必要があります。

個人的には、よほど大きな事情(大きなプロジェクトで少しでも法的リスクを避けたい、免許制の事情で免許取消等の事態を避けたい)がない限りは、(b)の対応で特に問題ないのではないかと思っています。

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以上、全9回のみなし公開会社解説、いかがでしたでしょうか。

この点は、日系企業がインドに進出する際の入口の論点であるにもかかわらず、まだインド国内でも十分に議論がなされていないところであり、私の見聞きした範囲でも多くの日本企業が悩んでいるところです。

私自身、まだとるべき見解について悩んでいることもあり、議論がある部分については、できるだけ多くの説とその考え方、根拠を提示するとともに、実務の方向についても記載するようにしました。

この解説が、少しでも悩めるインド法務担当者の方の助けになれば幸いです。

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(追記)

この解説全回をまとめて、ちゃんとした論文にできればなあと思っているのですが、日々の授業に追われてなかなかまとまった時間がとれず、当分無理そうです。

…誰か代わりに書いてくれないかなあ。

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みなし公開会社規制解説その8

設例1から3までで検討したとおり、インド会社法のみなし公開会社規制は、簡単には回避ができない規制であり、日本企業がインドに合弁会社を設立するにあたって、会社の意思決定権を確保しつつ、非公開会社のステータスを維持することは容易ではありません。

しかしながら、合弁会社において、日本企業が実質的に会社の意思決定権を支配しつつ、当該合弁会社につきみなし公開会社規制を回避する方法がないわけではありません。
以下、いくつか例示します。

回避方法例その1

株式保有を50%ずつとしつつ、合弁契約(株主間契約)において、①取締役の指名権数を合弁相手方と同数とする(3人対3人など)、②取締役会の議長に賛否同数の場合の決定権(キャスティング・ボート)を与える、③日本企業側が取締役会の議長の指名権を持つこととする。

インド会社法4条1項上の子会社の定義は、以下の通りです。
①「他の者から取締役会の構成をコントロールされうる会社」(4条1項(a))
②「会社の過半数(more than half)の株式が単独株主(親会社)に保有されている会社」(同項(b))
③「子会社の子会社」(同項(c))

さて、上記の方法をとる場合、まず株式保有が50%ずつですので、②の観点から合弁会社が日本企業(あるいは合弁相手方のインド企業)の「子会社」となることはありません。

また、③もこの方法との関係で適用されることはありません。

さらに、①について、「他の者から取締役会の構成をコントロールされうる会社」とは、以下の会社をいいます。
(i)全てのまたは過半数の取締役を選任しまたは解任する権限(power)を、単独で行使できる法人株主が存在する場合
(ii)(i)について、以下の各事情のいずれかが存在する場合には、法人株主はその取締役の選任権限を有しているとみなされる
(a)当該法人株主による賛成なしには、その者が取締役として選任されえないこと
(b)当該法人株主の役員または社員であることが、その者が取締役として選任されるための要件となっていること
(c)当該法人株主またはその子会社により指名される個人のみが、取締役となりえること

上記のとおり、(i)および(ii)の(a)から(c)までは、基本的に取締役の選任にかかわる要件であり、取締役会における意思決定それ自体にかかわるものではありません。
したがって、取締役会の議長にキャスティング・ボートを与えること、および議長の指名権を日本企業が確保することは、いずれも「他の者から取締役会の構成をコントロールされうる」かどうかには関連してこないため、この要件にひっかかることもありません。

なお、この方法を採用する場合、株主総会のデッドロックの場合の決定権を日本企業側が保有する形にはしないことが重要です。
インド会社法上、取締役の選解任は株主総会普通決議事項とされているため、日本企業が株主総会のデッドロックの場合の決定権を持ってしまった場合、日本企業が「過半数の取締役を選任する権限」を有することになってしまうためです。

回避方法例その2

日本企業とインド企業間で50%ずつの保有としつつ、合弁契約(株主間契約)において、日本企業が1%あるいはそれ以上の株式のコールオプションを保有する。

この方法は、「コールオプション行使の可能性を担保として、事実上日本企業が意思決定権を確保する」というものです。
相手方のインド企業としては、日本企業の方針に反対して、株主総会でデッドロックに持ち込んだとしても、いざとなればコールオプションを行使されて日本企業に株式を過半数保有されてしまい、取締役の選解任を含めた普通決議事項の決定権を握られてしまうことから、反対するインセンティブが低下してしまいます。

つまり、普段の状態では、日本企業、インド企業いずれも株式の過半数を保有しておらず、また取締役会における意思決定権も支配していないが、いざ問題が生じた場合には、日本企業がコールオプションを行使してインド企業から株式を強制取得することにより、日本企業優位の状態を作り出すことができるわけです。
そして、この「いざとなればコールオプションを行使できる」という事実自体を、一種の担保とすることにより、日本企業が事実上合弁会社の支配権を確保することができます。

この方法がすぐれているのは、「普段の状態では、日本企業が株式を過半数保有しているわけでも、取締役の選任権(あるいは指名権)を有しているわけでもないため、合弁会社につきインド会社法上のみなし公開会社規制の適用要件がみたされない」という点です。

この方法のデメリットとして、万一日本企業とインド企業の対立が調整できず、実際に日本企業がコールオプションを行使する事態に至った場合、その瞬間から当該合弁会社がみなし公開会社に該当してしまうという点が挙げられます。
コールオプションを行使した場合、その時点で日本企業が過半数の株式を保有することになるため、②の過半数の株式保有要件の観点から、当該合弁会社が日本企業の子会社に該当してしまい、その結果として合弁会社にみなし公開会社規制が適用されてしまうためです。

回避方法例その3

上記2つと比べて単純な方法として、「子会社ではないが、一定の親しい関係にある会社」に合弁会社の株式を保有してもらうという方法があります。

日本企業が60%、インド企業が40%という持分割合にしてしまうと、合弁会社が日本企業の子会社に該当してしまいますが、たとえば日本企業40%、他会社20%、インド企業40%という保有比率にすれば、合弁会社はどの会社の子会社にも該当しないことになります。

他会社はグループ会社(親子会社となる資本関係がないことが条件)でも良いですが、たとえば会社名に同じ言葉が含まれるなど、一見して両者がグループ会社であることが明白な場合、日本企業と他会社とで、合弁会社の取締役会の構成をコントロールしているとみなされてしまう可能性があるため、名前は被らない方が良いでしょう。

なお、このケースにおいて、合弁契約や株主間契約などで明示的に日本企業が他会社と共同で株主総会議決権を行使することを合意した場合、日本企業が取締役会の構成をコントロールしているものとみなされることになるため、注意が必要です。
あくまでも、「仲は良いが、議決権行使の意思決定において、相互に影響を及ぼすことはない」という建前を貫くことが必要です。

ちなみに、そのようなグループ会社を保有していない場合、中間法人を利用して直接の資本関係のない会社を設立し、その会社に分散保有させるとの方法もありますが、あまり現実的ではないでしょう。

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以上は、あくまでも例示であり、これ以外にもみなし公開会社規制を回避する方法はいくつかあると思われます。

要は、みなし公開会社規制の適用要件を外しつつ、実質的に合弁会社の意思決定権を確保する方法であれば良いのです。
ただし、みなし公開会社規制の適用要件を外すことは、それほど簡単ではないことから、実際にスキームを検討する際には、インド法弁護士に相談することを強くお勧めします。

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次回は、みなし公開会社規制が適用された場合の効果について解説します。

一応、次回で最終回の予定です。

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みなし公開会社規制解説その7

前回に続いて、みなし公開会社規制回避の方法の具体例です。

(設例3)
・日本企業Aと、非公開会社であるインド企業Bとの間で、合弁会社Cを設立する。
・Cへの出資比率は、Aが49%、Bが51%とする。
・AとBとは、合弁契約(または株主間契約)において、Cの取締役総数7名のうち、Aが4名の指名権を、Bが3名の指名権を有する旨合意する。

この方法は、「実質的には日本企業がイニシアティブをとるが、みなし公開会社規制を回避すべく、非公開会社であるインド企業Bに過半数の株式を保有させつつ、合弁契約(株主間契約)において日本企業Aが取締役過半数の選任権を得る」というスキームです。

が、前回を読まれた方ならお察しいただけるとおり、この方法でもやはりみなし公開会社規制を回避することはできません。

インド会社法4条1項上の「子会社」の定義である、

①「他の者から取締役会の構成をコントロールされうる会社」(4条1項(a))
②「会社の過半数(more than half)の株式が単独株主(親会社)に保有されている会社」(同項(b))
③「子会社の子会社」(同項(c))

のうち、②と③はこの方法で回避できますが、①が回避できないためです。

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その6で解説したとおり、以下の要件を満たす会社は、①にいう「他の者から取締役会の構成をコントロールされうる会社」とみなされることになります。

(i)全てのまたは過半数の取締役を選任しまたは解任する権限(power)を、単独で行使できる法人株主が存在する場合
(ii)(i)について、以下の各事情のいずれかが存在する場合には、法人株主はその取締役の選任権限を有しているとみなされる
(a)当該法人株主による賛成なしには、その者が取締役として選任されえないこと
(b)当該法人株主の役員または社員であることが、その者が取締役として選任されるための要件となっていること
(c)当該法人株主またはその子会社により指名される個人のみが、取締役となりえること

上記への該当性の判断においては、「(i)に該当するかどうか」を直接に判断するのではなく、「個別の取締役の選任権限につき(ii)の(a)から(c)までのいずれかをみたしているかどうかを判断し」、「『選任権限について(a)から(c)のいずれかの要件がみたされている個別の取締役』が取締役全員の過半数を超える場合、(i)に該当するものとみなす」というステップを踏むことになります。

さて、設例3では、日本企業Aは合弁会社Cの株式を49%しか保有していませんが、合弁契約(あるいは株主間契約)上、Cの取締役総数7人のうち、4人を指名する権限を有しています。

これは、当該4人の取締役について、上記(ii)の(a)と(c)がみたされていることを意味し、したがって、「選任権限について(a)から(c)のいずれかの要件がみたされている個別の取締役」が取締役全員の過半数を超えることから、(i)に該当するとみなされることになります。

そのため、結局合弁会社Cは、日本企業Aから「取締役会の構成をコントロールされうる会社」(4条1項(a))に該当し、よってインド会社法上Aの子会社に該当してしまいます。

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さて、その5、6、7と、典型的と思われる設例を挙げて、インド会社法上のみなし公開会社規制の回避可能性を検討してきたわけですが、かなり回避が困難な規制であることはご理解いただけたのではないかと思われます。
(やはり、「他の者から取締役会の構成をコントロールされうる会社」という要件が厳しく、この要件により、取締役会における意思決定を日本企業が支配する状況を作ろうとすると、それにより当該合弁会社は日本企業の「子会社」に該当してしまい、よってみなし公開会社に該当してしまうということになってしまうことになります)

日本企業の現地法人または合弁会社の中には、上記規制の内容を十分理解することなく、単純に株式持分の観点からのみ「子会社」から外れるようにして(要は単独で過半数を持たないようにして)、非公開会社として設立、運営している会社も少なからずあるようですが、それらの現地法人または合弁会社は、コンプライアンス上かなり危険な橋を渡っていることになります。
(なお、みなし公開会社規制に「違反した場合に、どのような問題が生じうるのか」については、もう少し後で詳しく解説したいと思います)

まあ、一番の問題は、現地コンサルタントや日系コンサルタントが、このあたりの複雑な問題を十分に認識することなく、みなし公開会社規制を安易にとらえて設立や運営をアドバイスしている、という点にあるわけですが…

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ただ、合弁会社において、実質的に会社の意思決定権を支配しつつ、みなし公開会社規制を回避する方法がないわけではありません。

次回は、その方法をいくつか挙げて検討してみたいと思います。

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みなし公開会社規制解説その6

前回解説したとおり、インド会社法4条1項上、「子会社」は、以下のいずれかに該当するものと定義されています。

①「他の者から取締役会の構成をコントロールされうる会社」(4条1項(a))
②「会社の過半数(more than half)の株式が単独株主(親会社)に保有されている会社」(同項(b))
③「子会社の子会社」(同項(c))

そこで、みなし公開会社規制を免れる方法として、次のようなスキームを考えてみます。

(設例2)
・日本企業Aは、子会社B(日本子会社でも外国子会社でも可)を持っている。
・合弁相手方であるインド企業をCとする。
・AとCとの間で、Aが51%、Cが49%の出資比率で合弁会社Dを設立することとなった。
・ここで、素直にAが51%を保有してしまっては、Dが「非公開会社でない会社の子会社である非公開会社(a private company which is a subsidiary of a company which is not a private company)」に該当してしまうため、Aが49%、Bが2%を保有することとした。
・つまり、Dの株式保有状況は、Aが49%、Bが2%、Cが49%となる。

これは一見うまい方法です。

まず、A、Cがともに49%しか保有していないため、上記②(株式保有割合基準)からは、DはAの子会社にもCの子会社にも該当しません。
また、Bが2%しかしか保有していないので、DはBの子会社にあたらず、上記③(子会社の子会社基準)からも、DはAの子会社とはなりません。

では、①(取締役会構成コントロール基準)からはどうでしょうか?

そもそも、インド会社法4条1項(a)にいう「他の者から取締役会の構成をコントロールされうる会社」とは、いったいどのような会社をさすのでしょうか。
これについては、次項である4条2項が、次のように規定しています。

(2) For the purposes of sub-section (1), the composition of a company's Board of directors shall be deemed to be controlled by another company if, but only if, that other company by the exercise of some power exercisable by it at its discretion without the consent or concurrence of any other person, can appoint or remove the holders of all or a majority of the directorships; but for the purposes of this provision that other company shall be deemed to have power to appoint to a directorship with respect to which any of the following conditions is satisfied, that is to say:-
(a) that a person cannot be appointed thereto without the exercise in his favour by that other company of such a power as aforesaid;
(b) that a person's appointment thereto follows necessarily from his appointment as director or manager of, or to any other office or employment in, that other company; or
(c) that the directorship is held by an individual nominated by that other company or a subsidiary thereof.

上記規定から、以下の要件を満たす場合には、当該会社は「他の者から取締役会の構成をコントロールされうる会社」とみなされることになります。

(i)全てのまたは過半数の取締役を選任しまたは解任する権限(power)を、単独で行使できる法人株主が存在する場合
(ii)(i)について、以下の各事情のいずれかが存在する場合には、法人株主はその取締役の選任権限を有しているとみなされる
(a)当該法人株主による賛成なしには、その者が取締役として選任されえないこと
(b)当該法人株主の役員または社員であることが、その者が取締役として選任されるための要件となっていること
(c)当該法人株主またはその子会社により指名される個人のみが、取締役となりえること

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インド会社法上、取締役の選任および解任は株主総会普通決議事項とされており(選任につき225条2項、256条3項、257条1項、解任につき284条1項)、株主総会における過半数の賛成により決議可能です。

つまり、最も単純な想定として、ある法人株主が、会社の過半数の株式を保有していれば、その法人株主は上記(i)にいう「全てのまたは過半数の取締役を選任しまたは解任する権限を、単独で行使できる法人株主」であるといえることになりそうです。

もっとも、実際の企業活動において、株式の持合関係は必ずしもそれほど単純ではないため、(i)に該当するかどうかを判断する基準として、個別の取締役の選任権限につき(ii)の(a)から(c)までの要件が設けられています。

つまり、「(i)に該当するかどうか」を直接に判断するのではなく、「個別の取締役の選任権限につき(ii)の(a)から(c)までのいずれかをみたしているかどうかを判断し」、「『選任権限について(a)から(c)のいずれかの要件がみたされている個別の取締役』が取締役全員の過半数を超える場合、(i)に該当するものとみなす」というやり方で、(i)への該当性が判断されることになります。

ということで、上に述べた「ある法人株主が、会社の過半数の株式を保有する」という場合は、「全ての取締役について、(ii)の(a)と(c)の要件を双方みたす」、「したがって、『選任権限について(a)から(c)のいずれかの要件がみたされている個別の取締役』が取締役全員である(当然過半数を超える)ことから、(i)の要件をみたす」という考え方になります。

このあたり、ややこしいので少し整理すると、

「他の者から取締役会の構成をコントロールされうる会社」に該当するかどうか(4条1項(a))

全てのまたは過半数の取締役を選任しまたは解任する権限(power)を、単独で行使できる法人株主が存在するか(4条2項柱書)

個別の取締役の選任権限につき4条2項(a)から(c)までのいずれかをみたしているかどうかを判断し、その結果として、「選任権限について(a)から(c)のいずれかの要件がみたされている個別の取締役」が取締役全員の過半数を超えるか(4条2項各号)

という順序で遡っていくことにより判断することになります。

逆にいえば、4条2項各号のいずれかの要件をみたす取締役が過半数を超えている会社は、「他の者から取締役会の構成をコントロールされうる会社」であり、子会社に該当するということです。

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さて、説例2に戻ります。

設例2で、Aは形式的にはDの株式を49%しか保有していません。

しかしながら、BがAの子会社である以上、BがAの意向を無視して2%の株式の議決権を行使できるはずもないため、結局、Dのすべての取締役について、「(a)当該法人株主による賛成なしには、その者が取締役として選任されえないこと」、「(c)当該法人株主またはその子会社により指名される個人のみが、取締役となりえること」という要件をみたすことになります。

Dのすべての取締役について上記要件がみたされる以上、結局、AはDについて「全てのまたは過半数の取締役を選任しまたは解任する権限を、単独で行使できる法人株主」ということになり、したがってDは「他の者から取締役会の構成をコントロールされうる会社」として、Aの子会社に該当することとなります。

よって、設例2のようなスキームを使ったとしても、やはり合弁会社Dについてみなし公開会社規制を免れることはできません。

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なお、上記とは別の観点からのアプローチとして、

「AとBがDの株主であるとして、BがAの子会社である場合には、親会社の子会社に対する支配力に鑑み、実質的にAがBの保有分を併せて保有しているものとみなされる(すなわち、Dについて、子会社Bの持分が親会社Aの持分に合算される)」

との解釈があります。

これは、①(取締役会構成コントロール基準)による話ではなく、②(株式保有割合基準)による際に、解釈によって子会社の持分を親会社の持分に合算しようという考え方です。
「このような合算解釈を取らないと、子会社に対象会社の株式を分散保有させることにより、いくらでもみなし公開会社規制を免れることができてしまうことになる」ということで、強く支持されている解釈です。

この考え方で、設例2をみると、単純にBの持分2%がAの持分49%に足され、Aが51%を保有しているものとみなされることから、②(株式保有割合基準)に基づいて、DはAの子会社となる、ということになります。

こちらの方が話としては単純で、しかも結論も①(取締役会構成コントロール基準)によったときと同じであることから、わかりやすいのではないかと思われます。

ただ、弱点は、インド会社法上の明文規定ではなく、あくまでも解釈が根拠である、という点です。

とはいえ、この解釈をとったときの結果は、①(取締役会構成コントロール基準)によったときと事実上同じになることから、万一この解釈がインド当局に否定されたとしても、結論としてリスクは生じません。
そのため、とりあえずはこの解釈に基づき、いわば簡易判別式的にみなし公開会社規制がかかるかどうかを判断するというやり方をとったとしても、問題はないと考えられます。

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次回も、みなし公開会社規制回避の方法の具体例を見ていきたいと思います。

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みなし公開会社規制解説その5

その2からその4までで説明してきたのは、インド内国会社について「外国会社が実質的に100%の株式を保有する場合」の話でしたが、今回からは、「外国会社が形式的にも実質的にも100%は保有しない場合」の話です。
典型的には、日本企業とインド企業で合弁会社を設立する場合が、これにあたります。

さて、日本企業とインド企業との合弁会社の場合、日本企業が形式的にも実質的にも株式を100%保有することはありえないため(もし保有したら、それは「合弁」とは呼びません)、そもそも4条7項但書の適用の余地はありません。
4条7項但書は、「外国会社が実質的に100%保有だが、非公開会社の最低株主数が2人以上であることから、形式的には100%保有できない」という場合に適用が問題となる条文であるため、インド企業が一定の株式を保有することが前提となる合弁会社においては、解釈論に至るまでもなく適用されないことは明らかであるためです。

したがって、このような合弁会社においては『非公開会社でない会社の子会社である非公開会社(a private company which is a subsidiary of a company which is not a private company)』については、当該会社がそれ自体非公開会社の要件をみたしていたとしても、公開会社として扱われる」というみなし公開会社規制がそのまま適用されることになります。

そのため、たとえば、日本企業60%、インド企業40%という持分の非公開合弁会社(それ自体は非公開会社の要件をみたすように設立された合弁会社をいいます。以下同じ)の場合、当該会社はみなし公開会社となります。
(※その2で解説したとおり、ほぼ全ての日本企業は、インド会社法上公開会社に該当するためです)

一方、インド企業70%、日本企業30%という持分の非公開合弁会社の場合、①当該インド企業が公開会社であればみなし公開会社に、②当該インド企業が非公開会社であれば、非公開会社となります。

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さて、公開会社は非公開会社に比べてコンプライアンス規制が厳しく、運営に手間とコストがかかるため、合弁会社といえども、できれば非公開会社とした方が(=みなし公開会社に該当しないようにした方が)、運営上有利であるといえます。

インド企業(公開会社)側が過半数株式を保有する場合、合弁会社がみなし公開会社となってしまうことはやむをえないとしても、日本企業側が過半数株式を保有する場合、なんとかみなし公開会社規制を免れることはできないでしょうか。

たとえば、以下のような方法はどうでしょう。

(設例1)
日本企業Aが、シンガポールあたりに、インド会社法上の非公開会社の要件をみたすような子会社(SPCでも可。以下B)を設立し、合弁会社の直接の親会社をAではなくBにすることにより、当該合弁会社を「非公開会社の子会社」とする。

結論からいうと、このような方法でインド会社法上のみなし公開会社規制を回避することはできません。

なぜか。

それは、インド会社法上の「子会社」の定義は、単純な「株式を過半数保有されている会社」というだけではないからです。

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インド会社法上、「子会社(subsidiary)」は、4条1項により、以下のとおり定義されています。
少し長くなりますが、全文を引用します(ちなみに、illustrationという部分も法文の一部です)。

4. Meaning of "holding company" and "subsidiary"
(1) For the purposes of this Act, a company shall, subject to the provisions of subsection (3), be deemed to be a subsidiary of another if, but only if,-
(a) that other controls the composition of its Board of directors; or
(b) that other-
   (i) where the first-mentioned company is an existing company in respect of which the holders of preference shares issued before the commencement of this Act have the same voting rights in all respects as the holders of equity shares, exercises or controls more than half of the total voting power of such company;
   (ii) where the first-mentioned company is any other company, holds more than half in nominal value of its equity share capital; or
(c) the first-mentioned company is a subsidiary of any company which is that other's subsidiary.

Illustration
Company B is a subsidiary of Company A, and Company C is a subsidiary of Company B.  Company C is a subsidiary of Company A, by virtue of clause (c) above.  If Company D is a subsidiary of Company C, Company D will be a subsidiary of Company B and consequently also of Company A, by virtue of clause (c) above; and so on.

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上記4条1項上、インド会社法上、「子会社」は、以下のいずれかに該当するものと定義されています。
①「他の者から取締役会の構成をコントロールされうる会社」(4条1項(a))
②「会社の過半数(more than half)の株式が単独株主(親会社)に保有されている会社」(同項(b))
③「子会社の子会社」(同項(c))

日本で「子会社」と言った場合、専ら上記②のイメージのみを持つことが多いですが、インド会社法上は、②に加えて①と③の要件をみたす会社も「子会社」に該当します。

さて、ここで設例1に戻りましょう。

設例1では、確かに合弁会社の直接の親会社はBであり、②の見地からは合弁会社は「非公開会社の子会社」ということになります。
が、③の見地からは、合弁会社は、(Bの親会社である)Aの子会社にも該当するため、結局日本企業であるAの子会社として、みなし公開会社規制の適用対象となってしまいます。

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次回以降、いくつか具体的な説例を示して、みなし公開会社規制の回避可能性を検討していきます。

ちなみに、結論から言うと、インド会社法上のみなし公開会社規制は、回避が非常に難しい規制であり、テクニカルな方法でこれを免れるのはきわめて困難です。

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