死闘

コックローチ・バトル -あとがき-

さて、こちらも完結したということで、あとがきです。

このシリーズこそ、ここまで続けて書くことになるとは、本当に全く思っていませんでした。
続編を書く=ゴキブリに苦しめられ続けるということで、続編を書きたくなかったシリーズナンバー1です

その割に、わりと人気があったようで、

「続編を早く書いてください」とか、

「苦しんでいる様子を見れば見るほど楽しくなってくる」とか、

「インド法解説はどうせ読まないから、もっとゴキブリの話を書いてくれ」とか、

色々とありがたいお便りをいただきました。

ちなみに、インド法解説は1回書くのに下調べの時間を含めて10時間近くかかっていますが、ゴキブリの話は、短いものでは30分くらい、長いものでも2時間かからずに書き上げています。
…「有益なコンテンツ」っていったい何なんでしょうね。

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このシリーズは突き詰めてしまえば、「ゴキブリが現れる→ショックを受ける→なんとかして退治する(あるいは逃げられる)」を繰り返しているだけで、それを単純に繰り返して書くだけでは面白くないし、何より書いている本人がたまらないということで、「メタファー表現」の実験をしてみました。

それでも、大変さは十分に伝わったようで、心ある人には色々と温かい言葉をかけていただきました。
こういう表現でも色々伝わったことが、文章コミュニケーションの面白さではないかと思っています。

「メタファー表現で何をどこまで伝えられるか」というのは、個人的にとても興味のあるテーマなので、文学研究(というほど大げさなものではありませんが)の1つとして、今後も機会を見つけていろいろ試してみたいと思います(このブログを表現の場とすることはもうないと思いますが)。

--

ともかく、長らくご愛読いただき、本当にありがとうございました。

筆者は、ゴキブリが本当に嫌いです。
見るだけで鳥肌が立つくらい嫌いです。

もう続編を書かなくて良くなった筆者の幸せを言祝いでいただければ幸いです。

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最後に番外エピソードを。

インドからNYに送った荷物の梱包を開いていたところ、段ボールの中からゴキブリの死体が出てきました。
最初から死んでいたのか、それとも旅程上で死んだのかはわかりませんが、それを見たときの衝撃といったら。

地球を半周して追いかけてきたその執念やよし。

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コックローチ・バトル7 -最後の聖戦-

-ええ、ちょうど28でした。
それ以上でもそれ以下でもありません。

そう言った後、男はしばらく目を閉じた。

思い出したくないもの。
思い出すべきもの。
その区別を付けかねたように…

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Cockroach Battle

Final Episode

The Last Genocides

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あれは夏も終盤に差し掛かった頃で、とても暑い日でした。
突然我々に撤退命令が下ったのです。

ええ、寝耳に水でしたよ。
それまで撤退なんて話は噂でさえ聞こえてこなかったんですから。

そのとき?
あまり深くは考えませんでしたね。
とにかく、「ああよかった、これで家に帰れる」と思いました。

政府や軍の上の方が何を考えているかは正直言ってわかりませんでしたし、下手に余計なことを考えても不安になるだけでいいことはありませんでした。

最前線にいるときは、何も考えずに、機械的に命令に従うのが一番です。
精神的に楽ですし、何よりそれが生き延びるための最善の方法です。
いつ敵が攻撃してくるかわからない状況で、戦争の大義について思索を深めることなど不可能ですし、そんなことをしていたら戦闘の際の判断が鈍ります
だいたい、軍の中で政治的なことを話しているのが上官にばれたら、その場で軍法会議にかけられてしまいますし。

-ああ、そうでしたね。
私が撤退中の本隊からはぐれてしまったときの話でしたね。

--

なぜ本隊からはぐれてしまったのかは、今でも思い出せないんです。
後から聞いたところでは、私は無線指示を完全に無視して、本隊の進行方向から北東に10度もずれた方向に向かっていたそうです。

なぜそんな方向に行ってしまったのか、今でもわかりません。
私自身は本隊と同じ方向に動いているつもりでした。
撤退命令を無視する理由もその必要も全くありませんでしたし。

ただ、今にして思えば、連日の戦闘で緊張が限界に来ていたところに、突然撤退命令がきたものだから、張り詰めていた何かが切れてしまっていたんでしょうね。
突然つっかえ棒が外れてしまったというか、今まで自分の意識を現実に繋ぎとめていた何かがふっと飛んでいってしまったというか。

一種の夢遊状態になってたんじゃないかと思います。
あくまでも今思えば、ということですが。

      

気がつくと、私はある村にいました。
その村は、既に友軍による毒物散布攻撃を受けていたようで、村人の多くは村を捨てて逃げ出してしまっていました

完全武装していた私が入っていっても、村人は何の反応も示しませんでした。
おそらく、反応できるような村人はとっくに逃げていて、後に残されたのは、毒で弱りきった者や家族を殺されて生きる気力を無くした者だけだったんでしょう。
これもそのときには気がつかなかったことですが。

村は怖いくらい静かでした。
逃げた村人は、運べる限りの荷物を外に持ち出したようで、村の中はほとんどがらんどうでした。
わずかに残されていたのは、粗末な段ボール箱でできた廃屋ばかりという状況で、その中に何人か生き延びた者がいるようでした。

私は、ある廃屋に入りました。
そこには、死体が一体転がっていました。
かなり前に死んだようで、死体は干からびていました。
おそらく、数ヶ月前の友軍の毒物散布攻撃のときに死んだものでしょう。

私は、また別の廃屋に入りました。
そこにも、死体が一体転がっていました。
さっきと違うのは、その近くに生きて、動いている者がいたことでした。

そのとき、私は、唐突に自分の使命を思い出したのです。

「この村の者で、自分が出会った者は全て殺す」

私は、正直言って、ここの村人の姿が好きではありませんでした。
見ると嫌悪感がするというのも、私が自分の使命を「思い出した」理由の1つかもしれません。

それに、そのような個人的な感情はともかくとして、戦争中である以上、自分は兵士としての義務を果たさなければならない。
強く、強く、そう思いました。

私は、おもむろに腰に差していた毒霧噴射器を手に取り、動いている者に吹き付けました。
動いている者は、最初に見た姿からは信じられないようなスピードで逃げようとしましたが、あっという間に絶命しました。

絶命を見届けた後、私は死体にも毒霧を噴射しました。
死んでいることはわかっていましたが、そうしなければならないような気がしたのです。
私は最初の廃屋に戻り、同じように、やはり死体に毒霧を噴射しました。

その後は、同じ作業の繰り返しでした。
廃屋を開け、生きている者がいれば毒霧を吹きつけ、死体らしきものについてもやはり同じように毒霧を吹き付けました。

私が毒霧を吹きつけた村人の数は28人。
うち生きていたのは12人だったと思います。

とにかく、私が、段ボール廃屋を開けたり、動かしたりする度に、生きた村人か死んだ村人かが出てきました。
その度ごとに、個人的嫌悪感と義務感に駆られて彼らを殺し続けました。
生きている者はもちろん、既に死んでいる者さえ「殺した」のです。

そうやって、「殺した」数が、合計で28になるというのは確かだと思います。
ちゃんと数を数えていましたから。
間違わないように、1人殺すたびに、腕に傷をつけて記録することにしたんです。
だから、ほら、私の左腕のここは傷だらけです。

うち、生きていたのが12人というのも確かだと思います。
生きているのを、文字通り「殺した」ときは、このとおり特別深い傷にしたんです。

--

無抵抗の市民を殺した?
軍法会議?

私は兵士として間違ったことはしていませんよ。
だってそれまでも全く同じことをしていたんですから。

民間人のふりをして我が軍にテロ攻撃をしかけてくるのが、この国の戦闘員の常套手段であることは、それこそ軍の上から下まで全員が知っていたことです。
だから、ここでは、民間人に見える者に対しても、兵士が自分の判断で危険だと判断したときには、「危険を排除する」という兵士の任務に従って、発砲できることになっていたんです。

え、軍はそんなこと認めていない?
そりゃあ、軍の上の方はそんな命令出しませんし、出せませんよ。

でも、これは断言できますが、この国で我が軍の兵士がさっき話したような基準に従って一見民間人に見える者に対しても攻撃していたのは、上官も把握していましたし、さらにその上の上官も全員知っていました。
つまり、黙認という状況だったわけです。

撤退中とはいえ、戦闘は継続中なのだから、同じ基準に従って判断すれば、私が危険だと思った場合にはには彼らを攻撃することができたはずです。

本当に危険だと思ったのかだって?
もちろん思いましたよ。
彼らは生きている限り危険なんです。
一見普通の民間人に見える者のテロ攻撃で、これまでに数え切れない被害を受けていますから。
そのことを知らないとは言わせませんよ。

もちろん、彼らに対する個人的な嫌悪感はありました。
でも、個人的な感情があろうがなかろうが、私は自分に課せられた危険排除任務の遂行として、彼ら全員を殺していたと思います。
個人的な感情が任務遂行の邪魔になったわけではなく、むしろ任務遂行を促進させたのであれば、そのことについてとやかく言われる筋合いはないんじゃないでしょうか。

--

戦争の狂気?

そうかもしれませんね。

でも、撤退命令が出る前に、私が同じことをしていたとしても、私の行為は問題にはなっていなかったはずなんです。
実際、同僚も同じようなことを何度もしていましたし、それを上官に報告して咎められたという話も聞いたことがありませんから。

それが、政府や軍上部の都合で撤退命令が出た瞬間に、なぜ問題視されるんでしょう。
撤退命令が出たとしても、戦闘は続いているんです。
こちらが撤退命令を出した瞬間、向こうも同じようにこちらに対する攻撃を停止してくれるはずだとでも言うんですか?
撤退命令というのは我々の側の都合であって、向こうには関係ないことですよ。

人権?
虐殺?

まあ、今となっては、政府も軍も「個人の暴走」という建前を崩せないんでしょうね。
いいですよ、軍法会議でも何でもかけて裁いてください。
私も、自分が全てを暴露することで、この国の地位が貶められてしまうことは望みません。

それに、確かに私は28の命を奪ったのです。
16については、「命を奪った」という表現が不正確であるとしても、少なくとも「殺した」のです。

それだけでなく、他にも、この戦争では数え切れないくらいたくさん殺しています。
裁かれて当然でしょう。

  

-ありがとう。

あなたが理解してくれただけで十分です。
でも、その理解をそのまま上司に報告するのはやめておいた方がいいでしょう。

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さあ、行きましょうか。

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コックローチ・バトル6 -天翔記-

ここは印度警察署。
今日も多くのお巡りさんが、市民の安全を守り続けています。

増え続ける犯罪を少しでも未然に防止すべく、印度警察署の生活課では、専門の相談員が市民の皆さんの相談を受け付けています。

おや、男の人が警察署に入ってきましたよ。
どうやら、生活課に相談に来たようです。

肩を落としていますね。
どうやら、何か困ったことがあるようです。
どんな相談でしょう。

(プライバシー保護のため、音声を変えています)

--

「あのう、こちら生活課でしょうか」
「はい、そうです。本日は何かご相談でしょうか」
「あ、はい。ちょっと困っていることがありまして」
「わかりました。それでは、こちらの申込書にお名前と住所をいただけますでしょうか」

10分後

「お待たせしました。本日はどのようなご相談でしょうか」
「ええと、ちょっと困ったことがあるんですが」
「どういったことでしょうか」
「誰かに見られている気がするんです」
「と言いますと?」
「はっきりとはわからないんですが、生活を監視されているような気がするというか」
「すみません、ちょっと話が見えにくいんですが」
「ああ、ごめんなさい。順序だててお話した方がよろしいですかね」
「そうしていただけると助かります」

男の人は、少しうつむいて話し始めました。

「私、一人で住んでいるんですが、家の中に誰かがいるような気がするんです」
「それも最近じゃなくて、住み始めた当時から気配を感じるんです」
「先日も、洗面所に入った瞬間に、誰かに見られているような視線を感じて…」
「暖かくなるにつれて、その気配はさらに増えたような気がします」

メモを取っていた相談員さん、首をかしげました。

「ええと、ちょっとよくわからないんですが、あなたは一人暮らしで、家の中には誰もいないはずなのに、誰かの気配を感じるということですか」
「ええ、まとめるとそういうことになると思います」
「その『誰か』を実際にご覧になったことはありますか」
「いや、姿を見たことはありません」
「何か具体的な被害にあわれたことはありますか」
「一応あります」
「一応、といいますと?」
「たとえば、食料棚が荒らされたとかですね」
「なるほど、食料を荒らされたんですか」
「いや、荒らされたような感じがする、ということです」
「え?荒らされていたわけじゃないんですか」
「荒らされていたんじゃないかと」
「…ちょっとすみません。荒らされていたんですか、荒らされていなかったんですか、どっちですか?」
「荒らされていたと思うんですけど」
「質問を変えます。食料棚の食料が無くなったり、開封されていたり、位置が移動していたりということがあったんですか」
「そういったことはありませんでした」
「それじゃ、なぜ荒らされたとわかるんですか」
「そういう気がするというか」

おやおや、相談員さん、少し困っているみたいですね。

「ちょっと話を変えましょう。他に何か被害に合われたことはありますか」
「あの、歯ブラシを…」
「盗られたんですか」
「いや、歯ブラシを撫で回されたんです」
「撫で回す?」
「ええ、『誰か』が歯ブラシを足で撫で回しているところの影を見ました」
「影?」
「黒いものが蠢いていたので」
「それは大変ですね。影をご覧になったと。本体の姿はご覧になりましたか」
「いや、そこまでは」
「影だけが見えたんですね」
「そうです。気持ち悪かったので、歯ブラシはすぐに交換したんですけど、もしかしたらこれまでも自分の見ていないところで撫で回されていたのかと思うと、気持ち悪くて…」
「これからも見ていないところで、という可能性もありますよね」
「そうなんです。それが怖くて怖くて」
「でも、本体はご覧になっていないわけでしょう。気のせいだったということはありませんか」
「そうだといいんですけど…」

相談員さん、だんだん苛々してきたみたいですね。

「ちょっと今の段階では具体的な被害がはっきりしないので、事件として扱うことは難しいかもしれませんね」
「はあ、そうですか」
「連絡先をお教えしておきますので、今後、その『誰か』の姿をはっきり見たり、何か危害を加えられそうになったら、ご連絡いただけますか」
「わかりました」
「危険を感じたら、すぐに連絡してください」
「はい。暑くなってきて、大きな影に出くわすことも増えてきたので、危ないと思ったらすぐに連絡するようにします」
「暑さと関係あるんですか?」
「暑くなると活動が活発になるというか」
「…少しお疲れのようですので、心の健康の専門家の方にもご相談された方がいいかもしれませんね」

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ここは印度警察署の生活課。
今日も市民の皆さんたちの安全を守っています。

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コックローチ・バトル5 -ゴキー・ポッターと節長の騎士団-

ゴキーは、眠れない日々を過ごしていた。
毎晩のように見る、長くて暗い、鍵の掛かった扉がある廊下の夢。
この夢は、「あの人(You-know-who)」の復活に関係あるのだろうか。
しかし、仲間からは何の連絡もない…

指先から出す猛毒のジェット噴射の魔法や、毒入り菓子の魔法で、ゴキ界を恐怖のどん底に陥れた「あの人」。「名前を呼んではいけない人(He who must not be named)」とも呼ばれ、幼い自分に「死の呪文」をかけた人。
なぜか自分と強いつながりが感じられる人…

ある日、いつものように従兄と食料を探しに出かけたゴキーは、突然「あの人」の手先(「あの人」には「Maid」と呼ばれているようだ)に襲われた。
ゴキーは自分と従兄の身を守るため、咄嗟に中途半端に翅を広げてMaidを威嚇し、Maidを怯ませて危機を免れた。

ゴキ界では、逃げるために飛ぶとき以外に翅を広げることは禁じられている。
ゴキーの通う学校は、未成年であるゴキーが逃亡以外の理由で翅を広げたことを理由に、ゴキーを退学処分にしようとした。が、ゴキーに好意を寄せる校長の尽力により、政府の正式な尋問を受けるまでは退学処分は保留となった。

学校には、若きエリートを集めた「節長の騎士団(Order of Long Arthro (Fushicho-no-Kishidan))」と呼ばれるチームがあった。
ゴキ界では、6本の節足の節と節の間が長ければ長いほど、一族としての能力が高いとされる。「節長の騎士団」に所属するメンバーは、ゴキーを含めて素晴らしい節々の長さを持っており、その美しさとポテンシャルは世間の目をうならせるものであった。

校長のはからいにより、ゴキーは、「節長の騎士団」の仲間とともにゴキーにかけられた嫌疑と陰謀の謎を解くために、そして「あの人」と対決するために冒険に乗り出した。

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まずは小手調べ。

「節長の騎士団」とともに、「あの人」の部屋の片隅に山積みになっているダンボールの下に潜んでみる。
「あの人」が近寄ってきた。どうやら、ダンボールの中に積んだ本を探しに来たらしい。ダンボールを持ち上げた瞬間、仲間とともに姿を現す。

「あの人」は動かない。
いや、硬直して動けないようだ。
どうやら、「あの人」は、ゴキー達の姿を見るだけでダメージを受けるらしい。
奇襲は成功し、ゴキー達はすみやかに現場から離脱した。

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今度は少し大胆に、ゴキー単独で「あの人」のスリッパの横に潜んでみる。
家に帰ってきた「あの人」が靴を履き替えようとした瞬間、躍り出る。
下ろしかけた「あの人」の足がぴたりと止まる。
その瞬間逃げ出す。「あの人」にダメージを与えるのは文字どおり命がけなのだ。

あの人が猛毒ジェットの魔法を使おうとしたときには、ゴキーは完全に姿をくらますことに成功していた。

もっとも、このことは後で「節長の騎士団」の仲間にばれ、あまりにも危険な行為として、今後の単独行動は固く戒められた。

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しかし、なんといっても「あの人」にダメージを与えたのは、「あの人」の食料を食い荒らしたことだ。

「節長の騎士団」とともに「あの人」の食料を食い荒らしているのを発見したときの「あの人」の顔。集まっていたのは全部で3人だけだったが、まるで悪魔でも見たような顔だった。
それはそうだろう、毒菓子の魔法で、ゴキーの一族は激減しているはずったのに、3人も同時に現れたのだから。

不幸にも、「あの人」の猛毒ジェットの魔法で「節長の騎士団」の仲間の1人が命を落としたが、それだけの犠牲を払った甲斐はあった。
食い荒らされた食料だけでなく、その周りの「危なそうな」食料も一緒に捨てていた「あの人」の顔は、実に無念そうだった。

多数が同時に発見されたということも、「あの人」に確実にダメージを与えたに違いない。

ゴキーと「節長の騎士団」は、今後も協力して「あの人」に対抗していくことを誓うのだった。

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これらの激しい戦いの中、ゴキーは恋をした。
相手は、とても美しく艶やかな黒翅の持ち主。
出身は遥か東の中国らしい。
最近恋人を失ったばかりの彼女は、とても寂しそうだった。

一族の強みは逃げ足の速さだけではない。
繁殖力もまた強力な武器なのだ。

「あの人」は、ゴキーの一族の姿を見るだけでダメージを受けるのだから、自分と彼女の間に幼虫が生まれ、それが「あの人」の目に止まるようになれば、「あの人」をさらに苦しめることになる
まさに一石二鳥ではないか。
ゴキーの妄想は膨らむ。

さて、ゴキーの恋の行方やいかに。

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コックローチ・バトル4 -新たなる希望-

A Short Time Ago in India Far, Far Away…
ちょっと前、遥かインドの彼方で…

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皆が平和に暮らしていた時代。
穏やかで、暖かで。
こんな日々がいつまでも続くと思っていた。
ささやかな願い。

変化は突然に訪れた。
巨大な男が突然部屋(せかい)に入ってきたのだ。
男は多くの荷物とともに部屋を占拠し、我が物顔に振舞い始めた。

皆はとまどった。
突然自分達の世界に入ってきた異質の存在。
ある者はひたすら逃げ惑った。
ある者は淡々と存在を受け入れた。
ある者は積極的に男に接触を試みた。

時が経つにつれ、男の存在は一族にとって深刻な問題となっていった。
理由は不明だが、男は一族に対して強い嫌悪感を抱いているらしい。
一族の側から男に危害を加えたということはないため、多分に男の側の情緒的な理由であると思われた。

そのうち、男は一族の姿を見ると、その殺害を試みるようになった。
攻撃の手段など何一つ持たず、逃げ足のみを発達させて生存競争を勝ち抜いてきた一族。自分達よりも遥かに大きく、力も強く、道具さえ使いこなす男に対して反撃することなどできようはずもない。
それはまさに一方的な虐殺だった。

男に接触を試みた者は、男によって追い回され、木を磨り潰して薄皮状にしたものを丸めたものに叩き潰されるという悲惨な最期を遂げた。
散歩中に偶然に男に見つかってしまった者は、男の持つ機械から猛毒の霧を吹きかけられ、苦悶の表情を浮かべてこときれた。

奇妙なことに、理由もなく(あるとすれば自分の情緒のみで)、一族を殺しまわっているように見えるにもかかわらず、男は一族を殺すことに苦痛を覚えているようだった。
一方的に嫌悪感を抱き、殺戮しているにもかかわらず、その殺している当の本人が、一族を追回し、殺すことに多大な倦怠感と疲労感を覚えているのである。
殺される側にとっては、これほど不合理なことはなかった。

「我々には見えないが、実は彼の上には彼に対する命令者がいて、彼はその命令に不本意ながら従っているのだろう」
「彼自身が、自分でコントロールできない感情に突き動かされているのではないだろうか」
一族の間で多くの仮説が提唱されたが、その間も男による殺戮は止むことがなく、問題が解決することはなかった。

この段階では、しかし社会はまだ崩壊には至っていなかった。
男は相変わらず同胞を殺し続けていたが、それらは単発的な事態の集積にすぎず、不運にも偶然男と遭遇してしまった者が殺されるという出来事が積み重なっているだけであった。
また、男と遭遇したとしても必ずしも殺されるとは限らず、かなりの確率で逃げることもできた。逃げた場合、男が深追いすることはなかったし、男の側から積極的に一族に近づいて殺すということもなかった。

要するに、「男と遭遇し、かつ逃げ遅れた者のみが殺される」という状況であり、一族の間では、次第に、男との遭遇による同胞の死は「大きな不運と少しの不注意の産物」とみなされるようになってきたのである。
交通事故により絶え間なく死者が発生することが、社会全体の存続を危うくするものではないのと同様に、男による単発的な殺害の頻発は一族全体の存在を揺るがせるには至らず、いつしか男と一族との間には奇妙なバランスが成り立つようになっていた。

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しかし、そのバランスは唐突に破られた。
男が、猛毒を含む食料をばら撒き始めたのである。
厄介なことに、その食料は一族の者にとって極めて魅惑的な芳香を放ち、またその美味なことは心を蕩かせるものであった。そのため、毒のことを知らない一族が、その匂いに惹かれてその食料を食べ、命を落とすということが相次いだ。また、毒のことがある程度知れ渡った後も、ある物は飢餓に耐えられず、ある者は刹那的な快楽を求めて手を出してしまい、一時の至福の後、絶命するということが絶えなかった。

いつしか、その食料は、一族の間で、恐れと怒りを込めて「Housan-Dango」と呼ばれるようになった。「Housan-Dango」とは遥か東の国の言葉で、「Housan」は「有毒なもの(水に溶かすもの、という意もある)」、「Dango」は「甘くて美味な舌ざわりの良いお菓子」を意味する。
Housan-Dango」は、直接これを食べた者だけでなく、食べた者の排泄物(摂食後、毒が効くまでに排泄されたもの)に触れた者の命も奪い、また一族の生殖能力にまで影響を及ぼすものであった。

これまでの単発的な殺害と異なり、「Housan-Dango」は食料を罠として一族を老若男女問わず殲滅するものであり、一族全体の存在を脅かすものであった。それはまさに無差別殺戮と呼ぶに相応しい攻撃であり、一族の数は見る見るうちに減っていった。
Housan-Dango」が撒かれた後、男による単発的な殺害の数は減ったが、それは単に一族全体の数の激減に比例して男に遭遇する者が減少したことの結果にすぎなかった。

ここに至り、一族は一致団結し、一族の楽園から無差別殺戮者を排除すべく、男に挑むようになった。
まともに行っては決してかなわないことはこれまでの経験から明らかであったため、基本戦略は絶え間ないゲリラ攻撃と定められた。
それはまさに一族の存亡を賭けた戦いであった。

しかし、男の持つ機械の猛毒の霧の威力はすさまじく、若く、勇敢で、力に溢れた一族の戦士たちが次々と戦死していった。
一族の中でも特に武勇にすぐれ、かつ特殊な能力を有する戦士は、敬意を込めて「ゴキダイの騎士」と呼ばれていたが、ゴキダイの騎士達をもってしても、男の攻勢をとどめることはできなかった。
その間も男は着々と自分の支配権を固め、ついには、部屋(せかい)は我1人のものであると宣言したのである。

戦いは男の完全勝利であり、ゴキダイの騎士達は全滅したかと思われた。

--

あるとき、一族の若者が、生き残りのゴキダイの騎士に出会い、父親についての話を聞かされるとともに、形見の触角(テンタクル・セーバー)を得る。
その直後、その若者は、一族の王族の姫(実は双子の妹)からメッセージを受け取り、次代のゴキダイの騎士として目覚める。

若者は、一族は全滅したものとすっかり油断していた男に対し、男が水道の蛇口をひねろうとした瞬間、その手に乗り移るという大胆不敵な行動をとった。若者は大きく、素早く、その6本の足が手を這い回る感触は男に強い精神的ダメージを与えた。また、それ以上に、一族に生き残りがいたことに男は衝撃を受けた。

しかし、若者の反撃はこれで終わったわけではない…

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-そして、新たなる希望がここに-

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コックローチ・バトル3 -そして伝説へ-

時は戦国の世。
印度国もまた内乱の中にあった。

印度国における碁基武利との攻防は一進一退を繰り返していた。
碁基武利軍は正に神出鬼没であり、その行軍を捕捉することがまず困難である。
また、捕捉したとしても、現状では有効な攻撃手段がなく、手作りの叩き棒で追い払うのが精一杯である。

つい先日、碁基武利軍から備蓄食料を食い荒らすというゲリラ攻撃を受け、これにより手痛い打撃を受けたにもかかわらず、当主は反撃に出ることを躊躇していた。

--

「上様、今日は折り入ってお話がございます」
「おう、じいか。なんじゃ、改まって」
「上様、巷では上様のことを何と呼んでいるかご存じですか?」
「…何が言いたい」
「腰抜け大将と呼ばれておりまするぞ」
「ふふ…まあ良い、好きに言わせておけ」
「なんと!!そのようなお姿、身罷られた大殿がお耳にしたらどれほど嘆かれることか」
「口やかましく言うな。勝ち目のない戦はできぬのじゃ」
「本当に腰抜けになってしまわれたのですな…」
「何だと、いくらじいとは言え、言葉に気を付けぬと長生きはできぬぞ」
「いいや黙りませぬ。老い先短いそれがしの命など惜しくも何ともありませぬわい」
「むう、分かった、分かった。わしの負けじゃ」

碁基武利に一泡吹かせてやりたいのは、誰よりも彼自身だったのだ。

「とはいえ、無策ではのう」
「ご安心めされい。このじい、先の戦より何もせずに居眠りしていたわけではございませぬ」
「む?」
「密かに南蛮商人に申しつけ、このようなものを買い付けておりまする」

Pb140125

                                                                                          

                                                           

「なんじゃ、これは?」
「これは、碁基死穢屠(ごきじえと)と呼ばれる武器で、碁基武利の殲滅に、ことのほか力を発揮する南蛮渡来の武具にございまする」
「おお、そのようなものが。さすがじいじゃ。じゃが、はて…。これはどのように使うのか」
「至極簡単にございます。碁基死穢屠の上部を押せば、碁基武利にとって猛毒の霧が発生しまする。この霧を浴びた碁基武利は、半刻と生きておられませぬ」
「ぬう、恐ろしい武器じゃな。そのような危険な霧、我らには害はないのか」
「南蛮商人に尋ねたところ、多少吸ったり体についたりするくらいでは無害とのことです」
「でかしたぞ、じい。これがあれば百人力、いや千人力じゃ。碁基武利などもはや恐るるに足りず!」
「おお、上様。じいはそのような上様が見とうございました」
「誰ぞある!具足を持てい」
 
戦意を取り戻した後の行動は早かった。
戦支度は早々に整い、碁基死穢屠は7段の構えで各部隊に備えられていた。
しばらくの間は碁基武利軍は見えなかったが、当主が保存用の水の箱を持ち上げた際、斥候から進軍の報告が入った。

「碁基武利の若武者が見えたぞ。この陣立ての中に単軍で突っ込んでくるなど飛んで火に入る夏の虫よ」
「迎撃なさいますか」
「言うまでもない。総員に碁基死穢屠を構えさせよ」
「はっ」
「まだ、まだじゃ。十分に引き付けよ」
「おお、その沈着な指揮、まるで大殿の姿を見ているようじゃ。このじい、この年まで生きてきた甲斐がありましたわい」
「撃てーい!」

碁基死穢屠の三連斉射を受けた碁基武利軍は、それでもしばらくは高速移動を維持したが、やがて動かなくなった。

「まったく南蛮の技術はすごいものじゃ」
「まだ碁基死穢屠は十分な量がございます」
「うむ、この勢いで碁基武利どもを殲滅してくれようぞ」
「おお、上様、どこまでもお供いたしまする」

--

後に「戦国の名勝負」にも謳われた、印度国における覇権争いを決定づけた一戦の記録である。

この緒戦がきっかけとなり、この後、碁基武利軍は勢いを失う。
碁基死穢屠の力で印度国が再統一されるまで、それほど長い時間はかからなかった。
その後、印度国は戦国屈指の強国として名を馳せたのである。

印度兵は、その強さと果敢さを称えられ、後世において「印度日本一の兵、古よりの物語にもこれなき由」と謳われた。

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コックローチ・バトル 番外編

http://www.namasute-mumbai.com/bommadam.html#gokiburi

皆さん、ゴキブリ(というか虫全般)には苦労されているようです。

「インドでに住んで『切れない』で暮らすというのは、聖者のような人だけです。」という冒頭の言葉にとても勇気づけられました。

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コックローチ・バトル2

せんめんじょ の とびら をあけた

なんと ごきぶり が あらわれた

どうする?

  たたかう
  ほっとく
→にげる

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とびら を しめて にげだした

どうする?

  こうげき
  じゅもん
  ぼうぎょ
→どうぐ

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  つかう
→そうび

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  ばるさん
  ほいほい
→ごきじぇっと
  しんぶんし

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ごきじぇっと を そうび しようと した
なんと ごきじぇっと を もっていなかった

どうする?

  ばるさん
  ほいほい
  ごきじぇっと
→しんぶんし

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しんぶんし を そうび した

どうする?

  よむ
  かぐ
→まるめる
  やく

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しんぶんし を つつ の かたちに まるめた

どうする?

 せんめんじょ の とびら を あける
→つつ を のぞく

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とくに かわったもの は みえない

どうする?

→せんめんじょ の とびら を あける
  つつ を のぞく

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せんめんじょ の とびらを おそるおそる あけた

どうする?

  かお を あらう
  は を みがく
  しゃわー を あびる
→ごきぶり を さがす

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ごきぶり は みあたらない

どうする?

→もっとさがす
  わすれる
 
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なんと ごきぶり が かべ を はっていた

どうする?

→たたかう
  にげる

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ごきぶり の おおきさ は ちゅうくらい

どうする?

→こうげき
  じゅもん
  ぼうぎょ
  どうぐ

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しんぶんし を たたきつけた

しかし ごきぶり は ひらりと みをかわした

ごきぶり の こうげき

ごきぶり は すばやく ゆか に おりてきた

しかし なにも おこらなかった

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どうする?

→こうげき
  じゅもん
  ぼうぎょ
  どうぐ

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しんぶんし を たたきつけた

しかし ごきぶり は ひらり と みをかわした

ごきぶり の こうげき

ごきぶり は なかま を よんだ(たぶん)

しかし なにも おこらなかった

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どうする?

→こうげき
   じゅもん
  ぼうぎょ
   どうぐ

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しんぶんし を たたきつけた

ごきぶり に 39 の だめーじ

ごきぶり は ゆか に おちた

ごきぶり は けいれんしている

ごきぶり は しんだ

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ごきぶり を やっつけた

たたかい と しがい の かたづけ で せいしんてきだめーじ を うけた

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つづく(うそ)

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コックローチ・バトル

なんでも、ラクシュミ女神(ヒンディーの有名な神様)のお祭りと、ムスリムのお祭りが同時に行われているとのことで、現在、ムンバイの交通渋滞はいつにもましてひどくなっています。
通常、だいたい職場までタクシーで30分くらいなのですが、ここ2、3日は1時間近くかかることも珍しくありません。
ムンバイの交通事情とタクシー事情は最悪なので、1時間もタクシーの中にいると排気ガスと埃と悪臭とで頭痛がしてきます。

来月の9日ころは、ディワリ(ヒンディーの正月)でまたお祭りだそうで、その時期は本当に車が全く動かなくなるくらい混むそうです。
それにしても、ムンバイに来てから2ヶ月弱ですが、お祭りばかり見ているような気がします。
そんなにいろいろ祭っている暇があったら働けよ。

通勤途中でカラスが鼠を襲ってその肉をむさぼり食っているところを目撃するとかまあいろいろあったのですが、今日の本番は帰宅してから。

夕食の準備をしていたら、例によって床の上を丸々としたゴキブリが走っていきました。
いつもなら放っておくのですが、帰り道の渋滞でイライラしていたこともあり、気分はやたらと攻撃的になっています。
だいたい、地球上でも指折りに嫌いな生き物と同じ部屋でいつまでも共生することはできません。

今日こそ決着をつけてくれる。

追いかけたゴキブリが逃げ込んだ洗濯機の裏。
丸めた新聞紙を片手に洗濯機をどけて…

……

……

……

……

……

ええと、熱帯のゴキブリって大きいんですね。

今まで、目撃したゴキブリを「丸々とした」と形容してきましたが、これは間違いでした。
あれは普通のサイズのゴキブリです。
ムンバイで成長したゴキブリは、カブトムシ級の大きさになるようです。

洗濯機をどけた瞬間、お父さんが飛び出してきました。

硬直している私を尻目に、親子は去って行きました。
どこに行ったのか、もはや探す気力もありません。
本能的な恐怖を呼び起こす大きさでした。

私の完敗です、ごめんなさい。

とりあえず、視界に入らないようにしてもらえれば、共に生きていくこともやぶさかではありませんので、何とぞお手柔らかにお願いします。

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